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Utsugi

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入学試験、最終

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背中にフワフワとあたる、座り心地の良い椅子で、目の前には多分高貴な生まれの先生がいた。

最終試験だ。

名前を名乗り、大変結構と言われた後、質問が始まった。

「では、まず。あなたのお父様は何をして生計を立てていらっしゃいますか?」

 なるほど、想定されていた質問である。トウカは受験したことのあると豪語していた近所の兄貴分に聞いていた質問が本当に出題されたことに驚いた。あのヒョロ兄貴、3年前の質問内容を覚えているくらいにはこの学校に通いたかったらしい。
 
 ありがとうとたった今思い出したところの近所の兄貴分を頭の隅においやり、トウカはまたゆっくり口を動かすことを意識して文章を組み立てた。面接官の質問にそう間を置くのはよくない。なんやかんや、周りの人生の先輩に聞いた限りでは、そうだ。はい、と一呼吸おいた後でまた口を開いた。

「両親は行商をしています。主に扱っているのは玩具です。それ以外にも、生活用品を扱って利益を出しています」

「ああ、それでは身体強化が優れていたのはそれでかな。特に筋肉伝達系の項目が優れていました。恐らくですが、トウカさんとご両親のお手伝いを幼い頃からされていたのではないですか」

面接官の1人が触れた項目にはトウカも自覚が少しあった。自信もあった。彼らの反応を見るに、お世辞ではなく確かに良かったのだろうなと少し安堵する。

「はい。5歳の時には御者席に乗せてもらっていました」

「ご両親も我が校の卒業生かな?昨今、行商はあまり安全面が確保されてるとは言えませんが」

「いえ、違います」

「では護衛を随時雇っているのかい?」

また問われた質問には首を振って返す。両親とも話し合って、トウカは親とは違うこの学校を選んだ。まあ、家からそう遠くない距離にあったのは、理由としてある。なんといっても、トウカは庶民だ。

「こことは違って、2年次から契約を結べる学校に両親は通っていました。今はよく外に出るので、家は王都の郊外にあります」

「なるほど。この王都郊外でもたくさん学校はありますからね。ではどうしてトウカさんはこの学校を選んだのか聞かせていただけるかな」

「はい。私は行商人になりたいと思っていて、両親に相談したんです。ですが、危険がつきものなので、女の子には厳しいと言われてしまいました」

「そうだね。私の娘が行商人になりたいと言えば、私も止めると思います」

うんうん、とわかるよと言いたげに面接官の年配の方は頷いた。父親ってそういう生き物なのかもしれないなと思って、少し早めに口を出す。こんな娘だからなんて理由で落とされたらたまらない。そう思った頭が、考えてきた通りの言い訳を並べ立てるように脳みそに命令する。

「ただ、ノンオーディナリーといい関係になれたなら、話は違ってくると思ったんです。だから、他の学校と違ってノンオーディナリーと長い時間関わるこの学校がいいと思いました」

「なるほど、わかりました。じゃあ契約するノンオーディナリーはやっぱり力持ちで、細身の人に近い形だったり化けられたりするこがいいのかな」

トウカ自身、そんなことは考えたことがない。でも確かに父親のノンオーディナリーは人に近い形だ。お手伝いしたところを見たことがないが、用心棒だと思いなさいと言っていたから、そういうものだと思っていた。けれど、別にそんなことお願いしようと思ったことはないな、と自分の中で簡単に結論がついた。

「いいえ、力持ちじゃなくてもいいです。一緒に商品を守ってくれるような子がいいです。後は、自分で動けて、あんまり食費がかからないともっといいです」

「なるほど、お手伝いの手は足りているから、物理的な戦力が欲しいと。ご家族のことが大好きなんですね」

「はい」

「ふんふん、じゃあ、ノンオーディナリーに関しては特に仲良くなれない要因はありませんね。もし動物だったりの容姿の子でも決して差別せず、同じ暮らしを送れますか?」

「臭かったり汚かったりしなければ大丈夫だと思います。商人になりたいので」

ぱっと言われたことを想像してみる。犬でも猫でも、みんな好きそうだ。いい客寄せになる可能性がある。でも獣くさいのはいただけない。臭いが取れにくいし、そんなことと言っているようでは商機を逃す。できれば臭くなくて明るいのがベストだ。

「うんうん、そうですね。いいですね、じゃあ臭かったり汚かったりしたらどうしましょうか」

「じゃあ、家でだけ一緒にいて、できるだけ楽しく過ごせるように話し合います。お仕事よりも、一緒に仲良くできることが大事かなって思います」

カリカリと記録を残すペンの音が聴こえる。記録に残るのなら、ちゃんとした言葉でしゃべるように気をつけないとな、とまた一呼吸おいた。

「一番いけないのは、無責任なことです。無責任な人は信頼してもらえません。一度信頼を失うと、取り戻すことは大変だと教えてもらいました」

「なるほど。トウカさんは商人としてたくさんのことをご両親から教わったのですね。……以上で、私の方から聞きたいことは終わりです。先生は?」

「私からは、一つ。トウカさんはノンオーディナリーに対しても公平な目を持っているように思いました。それでは、貴族の方とはどのように接していきますか」

貴族。貴族かあ、とトウカはなんとなく首を傾げた。関わる機会があるような、ないようなとは噂で聞いていた。けれどもトウカの今までで考えれば、そう会うことはないような気がしていた。

「特別なことは、望まれない限りしないと思います。してほしいっておっしゃるなら、考えて、困らなそうな限りはやろうと思います。それだけです」

「はい。ありがとう。私からも以上です。トウカさんからは、何か質問はありますか。なんでもいいですよ。お父さんやお母さんには聞けないことでも、内緒で答えてあげましょう」

面接試験中の堅苦しい空気をふっと軽くさせるような顔でおじいさんの先生の方が尋ねた。なるほど。なんでもいいなら、聞いてみたいことがあったのだ。

「なんでもいいんですか」

「もちろん。嘘はつきませんよ」

「じゃあ、私、のんびりしてそうですか」

トウカにとって、この面接試験はいわゆる偉い人にじっくり話を聞いてもらえる良い機会だった。わっ、と機嫌が良さげに主に質問をしてきた先生が笑った。

「ふふふふ!いいですねえ!商人になりたいなら自分の印象を知っておくのはいいことです。そうですね。トウカさんの印象は、のんびりしている人というよりも、「曖昧な人」です。先生は?」

「そうですね。私もそう感じますよ。試験の結果を見る限り、トウカさんはご両親のような憧れの人はいるんでしょうが、自分がどんな人になるかは想像できてないんでしょう。だから、なぞらえるだけ。問題が今のところなくて、行動に余裕ができているからのんびりして見えるのではないですか。現段階では、悪いことではないです。嫌な気持ちになることがありましたか」

「商人っぽくないってたまに言われます」

「損得勘定をしてる姿を見ないからでしょう。おいおい必要かどうか考えていけば良いでしょう。焦ることはないことですよ」

「良くも悪くも、まだまだ変わっていきますからね。楽しみです」

あ、たぶん合格する。
気がつかないうちに随分と張っていた肩の力がぬけた。

「よくも、わるくも」

「そう。あなた次第で」

「なら、……気をつけて、成長しようと思います」

面接試験は終わった。迎えに来ていた馬車の幌はいつもよりなんだか白くて、いい匂いがした。洗濯した後の幌だ。

「緊張した?」

「うん。ねえ、おとうさん」

「何?」

「気をつけて成長するってなんだろうね」

バチっ、と鞭がしなる音がした。

「ええ?それ、先生が言ったのかい」

「ううん、わたしが」

「じゃあ、トウカが見つけておいでよ」






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