268 / 339
第二章 呪詛、そしてふたりの葛藤
二、明日の夜は
しおりを挟む
見廻に出たものの、何事も無く千珠は帰路についていた。
黒い忍装束に身を包み、夜暗に紛れて海岸を走っていると、ひんやりとした潮風が千珠の肌を撫でていく。ふと、空を見上げると満月に近い大きさの月が頭上に登っていた。
明日は満月だ。
千珠の妖力が消え、一晩人間の姿になってしまう日。
ここ一年、舜海とは一度もふたりきりにならないようにと努めてきた。舜海が都へ行くまでは、舜海に護られ、抱かれる夜でもあった。
彼が不在の間は、いつも柊と宇月の三人で過ごしていた。宇月に知識を与えられながら、千珠は鬼と人の関係について多くを学んだ。
平穏な二年間だったと思う。柊はどこまでも大人で、いつの間にか千珠の親のような雰囲気すら漂わせるようになっていたし、宇月も千珠の姉のような距離を保ち続けていたから。
厳島で、宇月の存在が千珠の中で大きくなるまでは、宇月の存在はいつも空気のようだった。しかし一度色づいて見えたその姿は、日に日に千珠の中で大きくなってしまったのだ。
宇月といると、幸せだと感じた。抱きしめると柔らかく、あたたかいと感じた。普段は自分を子ども扱いする割に、二人のときに素直じゃない宇月を、可愛い女だと思った。
舜海が戻ってからも、宇月に対する気持ちが変わらないことに、千珠自身が一番驚いていた。なかなか二人きりにはなれないが、それでも良かった。ただ同じ場所で、ただそばにいればそれで嬉しかった。
舜海に感じていたあの激しい感情とは、まるで異なる感触だ。
それは千珠自身の心に、不安から来る揺らぎがなくなったことも大きいのだろう。舜海の霊気をもらうことで落ち着いていた千珠の妖気の淀みや揺らぎは、今は殆どなりを潜めている。
舜海の気持ちを知り、自分自身の気持ちに戸惑いを抱えながら、互いに日々をやり過ごす。どうあっても消え行く気配の見えない舜海への想いに、千珠は戸惑いを殺すことが出来ないでいた。
舜海に、触れてはいけない。触れ合ってしまえば、きっとまた欲しくなる……。それは確かな予感だった。
そんな千珠に、舜海はいつも明るく、普通の友人のように接してくれる。
千珠にとってそれはとても嬉しくもあり、同時に想いを断ち切るきっかけを与えてくれぬという、真綿で首を絞めるかのような責め苦でもあった。
黒い忍装束に身を包み、夜暗に紛れて海岸を走っていると、ひんやりとした潮風が千珠の肌を撫でていく。ふと、空を見上げると満月に近い大きさの月が頭上に登っていた。
明日は満月だ。
千珠の妖力が消え、一晩人間の姿になってしまう日。
ここ一年、舜海とは一度もふたりきりにならないようにと努めてきた。舜海が都へ行くまでは、舜海に護られ、抱かれる夜でもあった。
彼が不在の間は、いつも柊と宇月の三人で過ごしていた。宇月に知識を与えられながら、千珠は鬼と人の関係について多くを学んだ。
平穏な二年間だったと思う。柊はどこまでも大人で、いつの間にか千珠の親のような雰囲気すら漂わせるようになっていたし、宇月も千珠の姉のような距離を保ち続けていたから。
厳島で、宇月の存在が千珠の中で大きくなるまでは、宇月の存在はいつも空気のようだった。しかし一度色づいて見えたその姿は、日に日に千珠の中で大きくなってしまったのだ。
宇月といると、幸せだと感じた。抱きしめると柔らかく、あたたかいと感じた。普段は自分を子ども扱いする割に、二人のときに素直じゃない宇月を、可愛い女だと思った。
舜海が戻ってからも、宇月に対する気持ちが変わらないことに、千珠自身が一番驚いていた。なかなか二人きりにはなれないが、それでも良かった。ただ同じ場所で、ただそばにいればそれで嬉しかった。
舜海に感じていたあの激しい感情とは、まるで異なる感触だ。
それは千珠自身の心に、不安から来る揺らぎがなくなったことも大きいのだろう。舜海の霊気をもらうことで落ち着いていた千珠の妖気の淀みや揺らぎは、今は殆どなりを潜めている。
舜海の気持ちを知り、自分自身の気持ちに戸惑いを抱えながら、互いに日々をやり過ごす。どうあっても消え行く気配の見えない舜海への想いに、千珠は戸惑いを殺すことが出来ないでいた。
舜海に、触れてはいけない。触れ合ってしまえば、きっとまた欲しくなる……。それは確かな予感だった。
そんな千珠に、舜海はいつも明るく、普通の友人のように接してくれる。
千珠にとってそれはとても嬉しくもあり、同時に想いを断ち切るきっかけを与えてくれぬという、真綿で首を絞めるかのような責め苦でもあった。
12
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる