Blindness

餡玉(あんたま)

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完結章ーChildren’s storyー 〈悠葉視点〉

〈16〉※

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 くすぐったいけれど、気持ちがいい。それもただの気持ちよさではない。
 紫苑に淡く触れられるだけで背筋が甘くわなないて、腹の奥や後孔のあたりがきゅうっとひくつく。

 指に絡みつく柔らかな髪の毛にさえ感じさせられてしまうほどに、全身の感覚が鋭敏になっていることに、悠葉はようやく気づき始めた。

「紫苑……、脱いで、これ……」
「ん……いいよ」

 昨日の紫苑は、着衣をほとんど乱さなかった。だけど今着ているのはバスローブだけだ。
 すでに大きく胸元ははだけて、綺麗な形をした鎖骨や、淡く盛り上がった胸筋がほのかな灯りを受けて、魅惑的な陰影を描き出している。

 紫苑は悠葉を跨らせたまま起き上がり、バスローブの袖を抜いて上半身を露わにした。

 記憶の中にある紫苑の裸体は、まだほんの幼い子ども時代のものばかりだ。少年特有の、華奢でしなやかな美しい身体つきを目の当たりにして気恥ずかしくなり、すぐに目を逸らしてしまった覚えがある。

 今触れられる距離にあるのは、その頃のしなやかさを今も残す大人びた裸体だった。肩幅が広くなり、しなやかな筋肉が備わった美しい肉体だ。首筋や肩周りが少し逞しく、男らしくなった紫苑の身体はあまりにも眩しかった。

 ——うわ……紫苑、こんな男っぽい身体になってたんや……。

 うっとりしながら紫苑を見つめるうち、悠葉はなめらかな肌から放たれる香りや熱のようなものを、はっきりと感じ取れるようになっていた。それは悠葉の鼻腔を満たしてくすぐるばかりではなく、全身の肌からも深く染み込んでくるようで……。

 ドクン、ドクン…………と、いっそう鼓動が高まって、肌という肌が紫苑を求めて騒ぎ出す。

 悠葉も自らバスローブを肩から滑らせ、肌と肌を密着させるように抱きしめた。

「はぁ……紫苑……」

 熱を帯びた肌と肌が隙間なく重なる感触に、思わずため息が漏れた。あまりにも気持ちが良くて、安心できて——……ようやくひとつに戻れたような、そんな気がした。

 ちゅ……と紫苑の唇が首筋に触れ、大きな手で腰や背中を撫でられると、それだけで「ぁ、ぁ……!」と甘い悲鳴がこぼれてしまう。すると紫苑は、間近で悠葉を見つめて、掠れた声でつぶやいた。

「悠葉の匂い……クラクラするくらい、甘い」
「……おれの、匂い……?」
「うん。……俺、昨日から抑制剤飲んでないし、なんか……もう」

 紫苑はそう言うや、喰らいつくように悠葉の唇を塞いだ。そしてそのまま、悠葉をスプリングの効いたベッドに押し倒す。

 四肢で絡み合うように抱きしめ合いながら、夢中になって互いを味わう。紫苑の唾液は花の蜜のように甘く、それを纏わせた舌で粘膜を舐められるたびに腰が震えた。

 情熱的なキスの快楽に溺れているというのに、胸の突起を指で弄られ、悠葉はキスの隙間で「ん、ぁ、んっ……!」と喘ぎ声を漏らした。紫苑に触れられると、どこもかしこも性感帯になってしまうらしく、触れている場所という場所からすべて快楽を拾ってしまう。

 それに、密着しているから、わかる。
 紫苑の雄芯も、すでにはち切れそうなほどに嵩を増していることに。

 幼い頃に見たそれとは、色も形も大きさも、なにかもが異なっていた。ぐっと押しつけられるその大きさに一瞬腰が引けたけれど、紫苑も自分と同じように快感と興奮を得てくれているのだと思うと嬉しくて、欲しい気持ちがいっそう高まる。

 ——……したい、はようしたい……紫苑が欲しい……。

 だんだん腹の奥が切なくなって、悠葉はたまらない気分になってきた。
 だが、そこにはまだ触れてもらえず、勃ち上がってトロトロと蜜をこぼす屹立を手のひらで包まれて、扱かれて——……あまりの刺激に、悠葉は紫苑の胸を押して身を捩った。

「んぁ、……ぁん、っ! ぁ……あかん、てっ」
「……悠葉の、すごく勃ってる。口でしてもいい?」
「だ、だめ、あかん……! 今、そんなんされたら、おれっ……」
「はぁ……悠葉……可愛い。可愛すぎて、エロくて……頭がおかしくなりそうだ」
「っ……」

 はぁ、はぁ……と息を乱す紫苑の瞳は、星空を抱く深い夜のような色をしていた。潤んだ瞳に擦り切れそうな理性をかろうじてとどめ、切なげに悠葉を見据えるその眼差しに、全身がざわりと騒ぐ。


 ——欲しい、紫苑の全部が。全部、俺のものにしたい、紫苑のものにしてほしい……。

 本能の声に身を任せ、悠葉は腕を伸ばして紫苑を抱き寄せ、もう一度深くキスをした。

「……しよ、紫苑」
「っ……」
「挿れて、ここ……」

 紫苑の手を取り、腰から双丘を撫でるように下へと導く。
 するとそこは、自分でも驚いてしまうほどにとろりと淫らに濡れていて、悠葉は思わず息を呑んだ。

 驚いたけれど、嬉しかった。この身体の変化こそが、オメガになることができた証明のように思えたからだ。

 見上げた紫苑もやはり驚いたような顔をして、「ぁ……すごく、濡れてる」と興奮の滲むため息をこぼす。そして嬉しそうに微笑むのだった。

「……悠葉。俺たち、番になれる」
「うん、うん……!」
「俺の悠葉、俺の……番」

 愛しむようなキスが降り注ぐ。悠葉は目を閉じ、熱い涙を流した。

「挿れて、噛んで……紫苑。……早く、早く……っ」

 すがりつき、腰を押し付けると、紫苑の手が悠葉の膝頭をそっと掴んだ。
 そして、ぬるりと濡れてとろめいた狭い後孔に、紫苑の切先があてがわれ——……。

「っ……! ん、ん……はぁ……っ!」

 ぬぷ……と、硬く丸い先端が悠葉の中に入ってくる。これまで、自分でも暴いたことのない場所だ。初めて感じる圧迫感に一瞬息が止まったが、苦しいのはそのときだけだった。

 紫苑のために変化したのだといわんばかりに、肉体は貪欲だった。紫苑のペニスを引き込むようにひくつき、あふれんばかりの愛液で包み込む。

「ぁ、……はぁッ……すごい」
「っ……うぁ……しおん、っ……」
「いたく、ない?」
「ぜんぜん、いたない……なんやこれ、……ァっ」

 ぐ、ぐ……とさらに挿入が深くなり、悠葉は腰をしならせて甘い声を漏らした。紫苑の切先が腹の奥を掠めると、これまでにないほどの深い快感が全身を駆け巡る。

 そこだけじゃない。紫苑がゆっくり、ゆっくりとぎこちなく抽送するたび、包み込む内壁の全てが甘い刺激を拾って熱くなり、全身が蕩けてしまいそうなほどに気持ちが良いのだ。

「しおん、紫苑っ……、ぁ、はぁっ……ん」
「……悠葉の中、すごい……っ、ハァ……っ、すごく、気持ちいい」
「ほんま……に?」
「うん、すごく、イイ。……悠葉は、平気?」
「ん……おれも、きもちええ……っ、ンっ……」

 涙声でそう訴えると、紫苑のキスが唇に触れた。
 紫苑は色っぽい微笑みを浮かべて悠葉を見つめながら、少し腰の動きを速くする。

「ぁ、ぁっ……! ァん、んっ……んん」
「はっ……ハァ……っ、悠葉……悠葉」
「ん、っん、ぁ……はぁっ……ァっ……」
「好きだよ、悠葉。好きだ。ずっと、こうしたかった」
「ん、んっ……っ!」

 愛の言葉を囁かれながら内側から愛されると、こんなにも深い安堵と快楽をもらえるのかと驚いてしまう。

 甘く低い声に鼓膜を撫でられ、切なげな紫苑の表情の妖艶さにも感じさせられ、悠葉は震えた。

「ぁ、ぁンっ……しおん、っ……あかん、も……なんか、イキそ……っ」
「……ほんと? もっと、動いてもいい?」
「ん……うん、うんっ……ン、ぁっ……」

 ぐぐっ……と中で紫苑のそれがさらに硬く猛るのがわかった。全身で悠葉を抱きしめたまま、紫苑はさらに激しく腰を打ちつけてくる。

 トロトロに濡れた結合部がかき混ぜられる淫らな音と、肌と肌がぶつかる弾けた音があまりにもいやらしい。

 快楽にとろけただらしない顔で揺さぶられ、声を抑えることも忘れて高らかに嬌声を上げる悠葉の姿を見つめる紫苑が、うっそりと微笑んだ。

「きれいだよ、悠葉。……感じてる顔も、すごくかわいい」
「ぁ、っ……ん、ぁ……っ!」
「悠葉、……かわいい、好きだよ。悠葉……もっと、もっと感じてよ、俺のこと」
「ん、ぁ、ぁんっ……も、いく、いくっ……!!」

 これ以上ないというほどに高められた快感が一気に弾け、目の前が真っ白な光に包まれる。すると紫苑もまた、「あっ……ぅ」と小さく呻いて腰を震わせ、悠葉の肩口に顔を埋めた。


 腹の奥で迸る紫苑の熱を感じる。いっそう愛おしさが込み上げる。
 悠葉は紫苑に縋りながら余韻に震え、乱れた呼吸のまま「紫苑、紫苑……」と名前を囁き続けていた。

 すると紫苑は気だるげに顔を上げて微笑み、悠葉にキスをしながらこう言った。

「もう一回噛ませて、悠葉」
「うん……うん!」

 繋がりあったまま、悠葉は自ら体位を変えてうつ伏せになった。すると背後で、紫苑が「うわ……腰、細いね。エロ……」と感極まったようなため息をついているので笑ってしまう。

「細いって言われても嬉しくないねん。紫苑はすくすく逞しく育ってはって、何よりやな」
「そうかな」
「そうやで。なんかこう……そっちこそエロい身体になってるっていうか……ぁ、っ」

 照れ隠しで口数が多くなっていた悠葉だが、腰を掴まれぐっと奥まで嵌められてしまうと、それ以上何も言えなくなる。
 
 恨めしいような、このままもっと激しくされたいような気持ちで、背後の紫苑を横顔で振り返る。すると、背中にかかった黒髪を指先でよけられて、ぞくぞくと快楽が迫ってくる。

「ぁ……ん」
「綺麗な背中だね。……すごく綺麗だ」
「ん、っ……ァっ……あん……」
「はぁ……夢みたいだ、悠葉を番にできるなんて」
「ん……俺も……」

 バックで突き上げられるたび、ぱちゅ、ぱちゅ、とさっきよりも弾けた音がいやらしく迫ってくる。シーツを握りしめながら揺さぶられ、背中をしならせて「ぁ、あ、あん……っ」と甘い声を漏らす悠葉の背中に、紫苑の体温が重なった。

「……しながら、噛んでもいい?」
「ん、んっ……ええよ、……はぁ、ァっ……」
「噛み跡、まだすごく痛そうだ。……大丈夫かな」
「だいじょうぶ、やから……っ、はやく、噛めって……っ、ンっ」

 喘ぎながら促すと、紫苑が腰を振るたび揺れる黒髪をかき上げられ、うなじを露わにされた。

「……悠葉」

 耳の後ろから名前を囁かれた直後、ふたたび紫苑の牙が肌を突き刺す。
 一度目のときは痛みのほうを強く感じたけれど、二度目の今感じるのは、果てのないような快感だった。

 ようやく繋がりあえた紫苑を決して放すまいといわんばかりに内壁が蠢き、きつく締まって、悠葉を絶頂へと追い立てる。

「ぁ……ぁッ……ン、んん……!!」
「っ……く……」

 噛まれた瞬間達してしまった悠葉の反応につられるように、紫苑がぶるりと腰を震わせる。くったりとベッドに倒れ伏してしまった悠葉の背中を包み込み、紫苑は傷口にキスをした。

「……はぁ、……は……ン」
「悠葉……大丈夫?」
「ん……。これで俺ら、つがいになれたんかな……?」
「なれたよ。……なれた。俺は、悠葉の番だよ」
「ははっ……そっか。そっか……」

 傷口を労るように口付ける紫苑の頭を抱き、悠葉は仰向けになってキスをせがんだ。

 カーテンの隙間から差し込む白い陽光が、新しい朝の訪れを告げている。
 ふたりを祝福するかのような清らかな朝の光が、重なった二人の肌を、白く浮かび上がらせていた。

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