4 / 8
〈4〉
しおりを挟む「……どうして」
「どーしてもこーしてもあるかよ。兄貴の話するときのお前の顔見てりゃわかるに決まってんだろ」
「……っ、うそだ!」
「嘘じゃねーし。スマホに兄貴の写真撮り溜めてることも、電話で兄貴と話してるとき、何より幸せそうな顔してることも、俺は誰より知ってんだよ!」
「な……」
夜な夜な兄貴の写真を眺めるのは、大学生になって一人暮らしを始めてからの俺の日課だ。時折かかってくる兄貴からの電話に心を弾ませていることも事実だ。
だけど、絶対に気づかれていないと思っていた。兄貴を交えて顔を合わせざるを得なかった花嫁以外には……。
「兄貴のことは……別に、そんなんじゃない。だって、家族だし。家族で、親みたいなもんだから、俺は……」
「いつだったか、寝てるお前にちょっとイタズラしてやろうと思ってフェラしたことがあったんだ。そんときお前、俺にしゃぶられながらなんて言ったと思う? 『兄ちゃん、すき、気持ちいい、もっと』って言ってたぞ。それでも、ただの家族っていえんの?」
「なっ……」
カッと全身が熱くなり、俺は思わず夕翔(ゆうひ)の腕を払いのけて立ち上がった。
そのままフラフラと後ろによろめき、壁に背中をぶつけてしまう。
とんでもない恥部を無遠慮に暴かれていたことに対する怒りとともに、これ以上ないほどの羞恥に全身を苛まれ、眩暈がした。震える唇を拳で押さえつけながら、俺は夕翔を睨みつけた。
『寝込みを襲うなんてありえねーだろ』『この変態が!!』などと夕翔を罵る言葉が腹の奥底から込み上げてくるけれど……俺は、それを口にすることはできなかった。
何より一番気持ちの悪い変態は、俺。
俺を育ててくれた優しい兄貴に恋をして、そればかりか、兄貴を性の対象として見ていたのだから。
高校に入ったあたりから、俺は兄貴に抱かれる妄想を何度も何度も繰り返した。自分で後ろを慰めるだけじゃ足りなくて、もどかしくて、切なくて、寂しさを埋めるためにウリに手を出そうと本気で考えたことさえあった。
バカなことをしようとするたび、妄想ではない実物の兄貴の笑顔を見て我に返った。
俺の気持ちを知ったら兄貴はどう思うだろう。この笑顔を永久に見ることができなくなるかもしれない——……そう思うたびに俺は恐怖のあまりゾッとした。兄貴の弟でいるために性欲を殺し、必死で正しい道を歩いてきたつもりだった。
一人暮らしを始めたきっかけでタガが外れて、マッチングアプリに手を出したけれど、兄貴への想いを抑えるためには必要なことだからと自分に言い聞かせて……そして、夕翔と出会った。
寂しい時に甘えられて、ムラッとした時に抱いてもらえて、たまに飲みに行ったり、一緒に課題をしたり、どっちかの家で飯を食ったりする。夕翔との距離感はあまりにも心地が良かった。
報われない兄への気持ちを、夕翔にずっと癒してもらっていた。
この三年半という長い時間、誰よりも俺のそばにいてくれた。……だけど俺は、まるで夕翔のことなんて考えちゃいなかった。
——俺はバカだ。夕翔に甘えて、我儘を言いすぎたんだ。……捨てられて当然か。
ひとりになるのが怖いなんて言って夕翔に縋ったけれど、そんなのこっちの身勝手だ。夕翔を利用し、三年半も振り回し続けた罰として、孤独を受け入れる時が来たのかもしれない。
「わかった。……終わりにしよう」
そう口にした途端、身体が鉛のように重くなり、壁に背をつけたままずるずるとその場に座り込む。
43
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる