氷の魔術師は王宮騎士の愛に甘く蕩ける

餡玉(あんたま)

文字の大きさ
18 / 32
書籍発売記念『お忍び旅行と愛玩人形』

1 お忍び旅行へ

しおりを挟む
 
「へぇ、これがからくり式の衛兵かあ」

 城壁を囲うように等間隔に並んだ甲冑の兵士たちを、間近でしげしげと観察する。
 銀色の兜の中に見えるのは、甲冑と同じ銀色の肌。つんと尖った鼻はあるが口はない。手にした銀色の槍は兵士たちの背丈よりも長く、物々しい雰囲気ながらも、無駄のない彼らの姿に機能美を感じさせられる。
 
 ここは同盟関係にあるアルナディア王国の市街地だ。
 以前僕は、アルナディアの雪山にて魔獣の封印任務にあたったことがある。
 あのときは、任務が大事件に発展してしまい観光どころではなかったものだが——……あの一件から約一年が経ち、僕は念願叶ってここへただの観光客として訪れることができるようになった。

「へぇ、立派だな……。見てノクト、向こうでからくり相手に人間が訓練をやってるよ」
「え!? どこどこ!?」
「ほら、向こうの広場だ」
「うわ……すごいね、あんなに俊敏に動くんだ!」

 旅人としてここを訪れているため、僕らは軍服に身を包んではいない。
 軍服に身を包んだセスはあまりにも凛々しくて美しいのだが、貴族然とした上品な衣服に身を包んだセスもまた麗しい。街並みを見るのに忙しくはあるのだが、隣を歩くセスを見つめるたびについついうっとりしてしまう。

 初めて見る街並み、初めて食べる味、初めて出会う人々。
 エルシャルオンのそれよりも乾いた冷たい風、荘厳な石造の建物の背景に広がる青い空、緑の濃い樹々のさざめき。
 目に映るもの全てが新鮮で、美しくて、楽しくて、僕は子どものようにはしゃいでいた。
 
 そんな僕をたしなめるどころか、セスは蕩けるような甘い笑顔で僕を見守っていてくれる。
 厄災にもなりうるほどの魔力を持っていた頃の僕には、外国を旅する自由などなかった。エルシャルオンの国内でさえ自由に出歩く権利も与えられず、監視つきで山間の寂しい小屋に住まわされ、魔獣討伐任務のときだけ駆り出される——そんな生活を強いられていた。
 
 だけど今は、僕を取り巻く環境はすっかり変わった。
 今はこうして任務外で、観光目的の旅が許されるようになったのだ。

 そして先の事件を経て、僕とセスは恋人同士になった。
 幼少期を共に孤児院で過ごし、弟のように思っていたセスだったけれど——今やすっかり、僕のほうがセスの魅力にめろめろにされている。

 表向きは僕の護衛という立場だが、僕らの関係は王太子であるハルジ様の公認だ。
 おかげでセスの養い親であるリステアード卿にも僕らの関係を認めてもらえ、誰に憚ることなく共に暮らせるようになった。

 ——それだけでも幸せなのに、こうやってのんびり楽しく旅行ができるなんてなぁ……

 込み上げる幸せを噛み締めつつ城門をくぐると、端正な石畳みの街並みが広がった。
 機械職人やからくり技師、人形細工師などの工房が大通り沿いに軒を連ねていて、街は活気に満ち溢れている。

 軒先で商品を売る声、弟子が師匠を呼ぶ声、子どもたちが往来を駆ける賑やかな声——たくさんの人々が暮らしを営む街の明るさに触れ、僕はさらにワクワクしてきた。

「あ! ねえセス、見てごらん。魔法石で光るランプだって、買って帰ろうか!」
「ええもうぜひ! おすすめの逸品ですぞ!」

 突然セスのものとは全く違う野太い声が聞こえてきて、僕は飛び上がって隣を見た。
 僕の護衛であり、そして恋人でもあるセスの姿はそこになく——はつらつとした表情で僕の問いに答えたのは、僕らの道案内役にと遣わされたアルナディア王国の役人・サマル殿である。

「えっ。あれ? うちのセスは……?」
「セス殿はあちらに。人形細工師たちが、セス様を見て群がってしまいまして……」
「ええ?」
「おそらく、モデルになってくれと拝み倒されているのでしょうな」
「モデルですか?」

 僕のすぐ後を歩いていたはずのセスが、確かに数メートル後ろで四、五人の男女に囲まれている。アルナディアの人々を無碍にすることもできないのだろう、セスは引き攣った笑みを浮かべて困惑しきっているようすだ。
 
 いそいそとセスのもとに戻ってみると、セスに群れていた人々が一斉にこちらを見た。
 人形細工師だという彼らは、めいめい頭に頭巾を巻き革製のエプロンを身につけている。サマル殿に追い立てられ、年嵩の男女は「惜しいわねぇ」「こんな男前見たことねぇのにな!」とニコニコしながらセスのそばから離れていったが、若い細工師はスケッチブックを手にしたままセスを食い入るように見上げ、しゃかしゃかと鉛筆を動かしていた。

「あの……僕たちは先を急ぐので、そろそろ彼を離してやってくれませんか?」
「待って待って! 新しい人形の顔が決まらなくて悩んでたんだよ! この男の顔……完璧だ、すごくいい! この顔にすればきっとものすごい人気が出るぞ!!」
「え!? いや待って、セスの顔をした人形を作られるのはちょっと……!」
 
 人形細工師の青年は、目をギラギラ輝かせてセスの顔をスケッチしている。セスの容姿を褒められることは僕としても誇らしい限りなのだが、セスにそっくりの人形を作って売られてしまうのは困りものだ。僕が困り果てていると、サマル殿と青年がやいやいと言い争いを始め、「もうやめなさい!」「いやだね!」とスケッチブックの争奪戦が勃発した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました

多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。 ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。 ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。 攻め ユキ(23) 会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。 受け ケイ(18) 高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。 pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。