氷の魔術師は王宮騎士の愛に甘く蕩ける

餡玉(あんたま)

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書籍発売記念『お忍び旅行と愛玩人形』

2 人形細工師との出会い

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 するとセスはチラリと僕を見て肩をすくめ、奪われあっているスケッチブックをひょいと真上から取り上げる。
 
「あっ!! こら、返せ!!」
「ノクト様もおっしゃってるでしょう。俺の顔で人形を作られるのは困ります」
「なんでだよっ! あんたただの旅行者だろ!? ちょっとくらいいじゃないか!」

 180を優に超えるセスの手にあるスケッチブックに向かって、細工師の青年がぴょんぴょんと飛び跳ねている。
 ここは王都で、しかも往来のど真ん中。だんだん道ゆく人々の視線が集まり始めたことに気づいた僕は、慌てて「セス、スケッチブックを返して差しあげて」と声をかけた。
 
 戻ってきたスケッチブックを胸に抱えた青年は、セスをじろりと睨んでサマル殿を睨み、ついでのように僕を睨みつけ、ようやくおとなしくなった。だがすかさずサマル殿にぺちんと頭を叩かれ、「いってぇな!」と膨れっ面になっている。
 
 背丈は僕よりも少し高いくらいか。あまり日に焼かれたことのなさそうな色白の肌に、うっすらとそばかすが散っている。
 セスを睨んでいた時は三白眼になっていたが、普通にしていてもけっこう目つきが鋭い。身体が細く小顔なので、目つきのきつさが一層際立って見える。小柄なので若く見えるが、年齢は二十代前半といったところだろうか。
 
「こらエーベル! こちらは我が国にとって大事なお客様なのだ! 無礼を働くな!」
「ふん、俺ら庶民にゃ関係ねーよ」
「なんだと!?」

 どうやら、アルナディア王国は民と役人の距離が近いようだ。エルシャルオンよりも国土が小さく人口も少ないからか、どことなく王国に住まう人々が皆家族のような一体感がある。そういった人間関係は、これまで狭い世界で生きざるをえなかった僕の目にはとても新鮮に映った。
 僕はフードを外してエーベルを見上げ、問いかけてみる。
 
「あなたはいつから人形細工師を?」
「いつから? んー……かれこれ十年くらいかな。俺は結構売れっ子でね」
「へえ、すごい。十年も?」
「そうだよ、そこそこのベテランだ。俺はこう見えて二十九なんでね」

 胸を張って堂々とそう言い放つエーベルの瞳には、自信と誇りが溢れている。僕が純粋に感心していることが伝わったのか、エーベルはさっきよりも穏やかな表情になった。

「でも、ここのとこあんまり良い顔が作れなくてスランプ気味だったんだよ。そうしたらさ、あんたのお付きの顔がグワッと俺の視界に飛び込んできてさ。……うん、実にいい顔だ。精悍でありながら優美でもあり、強さと逞しさを兼ね備えている」
「うんうん、そうだろう。わかる。わかるとも」 
「だろ!? あんたもそう思うだろ!? ……ん? よく見たらあんたも可愛い顔してんじゃん。ふたりまとめて俺のモデルになってくれよ!」
「こら、ノクト様に近づくな」
 
 僕なら口説き落とせると思ったらしいエーベル氏が前のめりになってきたところで、セスがぬっと僕らの間に割って入ってきた。
 セスの美しさについてはエーベル氏の言葉に全力で賛同したいところだが、やすやすとセスの顔をアルナディアで流行らせるわけにはいかない。セスの背後からにゅっと顔を出し、エーベルに尋ねてみる。
 
「ところで、あなたの人形はどういったものなのです? 衛兵には顔がないようだけど」
「俺が作ってんのは衛兵じゃねぇよ。もっと繊細で高度な技術が必要なやつだ!」
「衛兵以外にも人形がいるんですか?」
「ああ! ……ここじゃなんだし、店に来てみろよ。とびっきりのやつを見せてやるぜ」

 エーベルは細い唇の片端を吊り上げて、通り向かいの工房を指差した。
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