氷の魔術師は王宮騎士の愛に甘く蕩ける

餡玉(あんたま)

文字の大きさ
20 / 32
書籍発売記念『お忍び旅行と愛玩人形』

3 人形の用途とは……?

しおりを挟む
「う、うわぁ……すごい!」

 僕は思わず感嘆の声を上げた。
 案内されたエーベル工房の中には、大小様々な人形がずらりと並んでいる。
 
 どれもこれも、精巧に作られていてあまりにリアルだ。何も知らずこの工房に迷い込んでしまったら、大勢の老若男女に囲まれていると勘違いしてしまうだろう。
 皆、一枚布をくり抜いたような質素な布を着せられていて、肌の大部分は隠れている。壁際に立っているもの、古びたソファに腰掛けているもの、出窓に無造作に座らされているもの——そこかしこに人形がいて、無機質な瞳がじっとこちらを窺っているのだ。昼間だから冷静でいられるけれど夜ひとりでここで過ごせと言われたら、僕はきっと怖くなって逃げ出してしまうだろう。

「へぇ、よくできているな。触れてみても?」
 
 セスも興味を持ったらしい。エーベルから「ああ、いいぜ」と許しをもらうと、目の前に佇む屈強そうな髭もじゃ男の頬や髭、胸筋をつんつんつついた。

「へぇ、筋肉の質感もうまく表現できている。素材は? どうやって作ってるんだ?」
「おおっと、それは秘密だね。……まあ、顔を貸してくれるってんなら教えてやらなくもない」
「じゃあいい」
「はぁ!? なんだよ、もっと食いついてこいよ!!」

 しれっとしたセスの反応がお気に召さなかったのか、エーベルは膨れっ面になってしまった。
 僕は目の前に腰掛けた髪の長い少女をしげしげと見つめつつ、この人形の用途について考えてみるが……思いつかない。

 さらりとした金髪の愛らしい少女。隣には同じ顔をした少年もいる。抜けるような白い色をした肌はひんやりとした感触ではあるものの、柔らかい。瞳はガラス玉だろうか。ちゃんと瞳孔なども表現されていて、まるで人間から魂を抜いたかのようなリアルさだ。

「それで、この人形たちはどういった用途で? 友達や話し相手が欲しい人が買い求めていくとか?」
「ふふん。まぁ、そういう目的で買っていく客も多い。だがな、それだけじゃないぞ」

 エーベルはちょいちょいと人差し指で僕を近くに呼び、ニヤリと笑う。
 そしてもったいぶったような口調で「いいか、俺の人形たちはな——」と言いかけたところで、セスがさらりと口を挟んだ。

「なるほど、愛玩用の人形か。仲間から聞いたことがある」
「なんだよ、言うなよー! せっかく純情そうなあんたの主人を驚かせてやろうと思ったのに!」

 セスの言葉にまたしても憤慨している様子のエーベルだ。僕は首を捻った。

「え? セス、愛玩用って? 綺麗な服を着せたりして愛でるってこと?」
「うーん……えーと……」

 セスを見上げてそう問うも、曖昧な返事が聞こえてくるばかり。僕はセスに向き直った。

「セス? どうしたんだよ」
「ま、まぁそれは後でちゃんと説明するから。……とにかく、俺の顔のもノクト様の顔も人形のモデルに使うことは許可できない。わかったな」
「んだよ、ケチケチしやがって」
「当然だろ! 人形がとはいえノクトの顔をしたこれが他人に抱かれるなんて——……」

 セスはやや声を大きくしてそう言いかけ、ハッとしたように口をつぐんだ。
 何やら「抱かれる」だのという妙な言葉が聞こえてきたような気がするが? 怪訝に思い首をひねるも、セスはごほんと咳払いをして背筋を伸ばし、キビキビしたよそ行きの声でこう言い放った。

「とにかく! こちらのノクト様は某国の要人であらせられる! こっそり顔を似せるようなことをしたらただでは済まないからな!」
「要人? そーなの?」
「あ、ええと、まあ、そうだね」

 一応僕はエルシャルオン唯一の氷の魔術師だ。今は近衛魔術師という立場でもあるため、まあ要人といえば要人だろう。
 お忍び旅行中なので立場を明かすことはないが、立ち居振る舞いには気をつけなくてはならない。僕はへらりと愛想笑いを見せたあと、すっとフードをかぶり直した。

「貴重な作品を見せていただきありがとう。では、失礼するよ」
「おう、必要になったらいつでも言いな。とびきりあんた好みの人形を作ってやるからよ~」
「……ノクト様、行きますよ」
「ああ」

 エーベルはひらひらと僕に手を振り、チラッとセスを見てニヤリと笑った。
 セスはフンと鼻を鳴らして僕の背に触れ、そのまま工房を後にした。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました

多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。 ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。 ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。 攻め ユキ(23) 会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。 受け ケイ(18) 高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。 pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。