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書籍発売記念『お忍び旅行と愛玩人形』
3 人形の用途とは……?
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「う、うわぁ……すごい!」
僕は思わず感嘆の声を上げた。
案内されたエーベル工房の中には、大小様々な人形がずらりと並んでいる。
どれもこれも、精巧に作られていてあまりにリアルだ。何も知らずこの工房に迷い込んでしまったら、大勢の老若男女に囲まれていると勘違いしてしまうだろう。
皆、一枚布をくり抜いたような質素な布を着せられていて、肌の大部分は隠れている。壁際に立っているもの、古びたソファに腰掛けているもの、出窓に無造作に座らされているもの——そこかしこに人形がいて、無機質な瞳がじっとこちらを窺っているのだ。昼間だから冷静でいられるけれど夜ひとりでここで過ごせと言われたら、僕はきっと怖くなって逃げ出してしまうだろう。
「へぇ、よくできているな。触れてみても?」
セスも興味を持ったらしい。エーベルから「ああ、いいぜ」と許しをもらうと、目の前に佇む屈強そうな髭もじゃ男の頬や髭、胸筋をつんつんつついた。
「へぇ、筋肉の質感もうまく表現できている。素材は? どうやって作ってるんだ?」
「おおっと、それは秘密だね。……まあ、顔を貸してくれるってんなら教えてやらなくもない」
「じゃあいい」
「はぁ!? なんだよ、もっと食いついてこいよ!!」
しれっとしたセスの反応がお気に召さなかったのか、エーベルは膨れっ面になってしまった。
僕は目の前に腰掛けた髪の長い少女をしげしげと見つめつつ、この人形の用途について考えてみるが……思いつかない。
さらりとした金髪の愛らしい少女。隣には同じ顔をした少年もいる。抜けるような白い色をした肌はひんやりとした感触ではあるものの、柔らかい。瞳はガラス玉だろうか。ちゃんと瞳孔なども表現されていて、まるで人間から魂を抜いたかのようなリアルさだ。
「それで、この人形たちはどういった用途で? 友達や話し相手が欲しい人が買い求めていくとか?」
「ふふん。まぁ、そういう目的で買っていく客も多い。だがな、それだけじゃないぞ」
エーベルはちょいちょいと人差し指で僕を近くに呼び、ニヤリと笑う。
そしてもったいぶったような口調で「いいか、俺の人形たちはな——」と言いかけたところで、セスがさらりと口を挟んだ。
「なるほど、愛玩用の人形か。仲間から聞いたことがある」
「なんだよ、言うなよー! せっかく純情そうなあんたの主人を驚かせてやろうと思ったのに!」
セスの言葉にまたしても憤慨している様子のエーベルだ。僕は首を捻った。
「え? セス、愛玩用って? 綺麗な服を着せたりして愛でるってこと?」
「うーん……えーと……」
セスを見上げてそう問うも、曖昧な返事が聞こえてくるばかり。僕はセスに向き直った。
「セス? どうしたんだよ」
「ま、まぁそれは後でちゃんと説明するから。……とにかく、俺の顔のもノクト様の顔も人形のモデルに使うことは許可できない。わかったな」
「んだよ、ケチケチしやがって」
「当然だろ! 人形がとはいえノクトの顔をしたこれが他人に抱かれるなんて——……」
セスはやや声を大きくしてそう言いかけ、ハッとしたように口をつぐんだ。
何やら「抱かれる」だのという妙な言葉が聞こえてきたような気がするが? 怪訝に思い首をひねるも、セスはごほんと咳払いをして背筋を伸ばし、キビキビしたよそ行きの声でこう言い放った。
「とにかく! こちらのノクト様は某国の要人であらせられる! こっそり顔を似せるようなことをしたらただでは済まないからな!」
「要人? そーなの?」
「あ、ええと、まあ、そうだね」
一応僕はエルシャルオン唯一の氷の魔術師だ。今は近衛魔術師という立場でもあるため、まあ要人といえば要人だろう。
お忍び旅行中なので立場を明かすことはないが、立ち居振る舞いには気をつけなくてはならない。僕はへらりと愛想笑いを見せたあと、すっとフードをかぶり直した。
「貴重な作品を見せていただきありがとう。では、失礼するよ」
「おう、必要になったらいつでも言いな。とびきりあんた好みの人形を作ってやるからよ~」
「……ノクト様、行きますよ」
「ああ」
エーベルはひらひらと僕に手を振り、チラッとセスを見てニヤリと笑った。
セスはフンと鼻を鳴らして僕の背に触れ、そのまま工房を後にした。
僕は思わず感嘆の声を上げた。
案内されたエーベル工房の中には、大小様々な人形がずらりと並んでいる。
どれもこれも、精巧に作られていてあまりにリアルだ。何も知らずこの工房に迷い込んでしまったら、大勢の老若男女に囲まれていると勘違いしてしまうだろう。
皆、一枚布をくり抜いたような質素な布を着せられていて、肌の大部分は隠れている。壁際に立っているもの、古びたソファに腰掛けているもの、出窓に無造作に座らされているもの——そこかしこに人形がいて、無機質な瞳がじっとこちらを窺っているのだ。昼間だから冷静でいられるけれど夜ひとりでここで過ごせと言われたら、僕はきっと怖くなって逃げ出してしまうだろう。
「へぇ、よくできているな。触れてみても?」
セスも興味を持ったらしい。エーベルから「ああ、いいぜ」と許しをもらうと、目の前に佇む屈強そうな髭もじゃ男の頬や髭、胸筋をつんつんつついた。
「へぇ、筋肉の質感もうまく表現できている。素材は? どうやって作ってるんだ?」
「おおっと、それは秘密だね。……まあ、顔を貸してくれるってんなら教えてやらなくもない」
「じゃあいい」
「はぁ!? なんだよ、もっと食いついてこいよ!!」
しれっとしたセスの反応がお気に召さなかったのか、エーベルは膨れっ面になってしまった。
僕は目の前に腰掛けた髪の長い少女をしげしげと見つめつつ、この人形の用途について考えてみるが……思いつかない。
さらりとした金髪の愛らしい少女。隣には同じ顔をした少年もいる。抜けるような白い色をした肌はひんやりとした感触ではあるものの、柔らかい。瞳はガラス玉だろうか。ちゃんと瞳孔なども表現されていて、まるで人間から魂を抜いたかのようなリアルさだ。
「それで、この人形たちはどういった用途で? 友達や話し相手が欲しい人が買い求めていくとか?」
「ふふん。まぁ、そういう目的で買っていく客も多い。だがな、それだけじゃないぞ」
エーベルはちょいちょいと人差し指で僕を近くに呼び、ニヤリと笑う。
そしてもったいぶったような口調で「いいか、俺の人形たちはな——」と言いかけたところで、セスがさらりと口を挟んだ。
「なるほど、愛玩用の人形か。仲間から聞いたことがある」
「なんだよ、言うなよー! せっかく純情そうなあんたの主人を驚かせてやろうと思ったのに!」
セスの言葉にまたしても憤慨している様子のエーベルだ。僕は首を捻った。
「え? セス、愛玩用って? 綺麗な服を着せたりして愛でるってこと?」
「うーん……えーと……」
セスを見上げてそう問うも、曖昧な返事が聞こえてくるばかり。僕はセスに向き直った。
「セス? どうしたんだよ」
「ま、まぁそれは後でちゃんと説明するから。……とにかく、俺の顔のもノクト様の顔も人形のモデルに使うことは許可できない。わかったな」
「んだよ、ケチケチしやがって」
「当然だろ! 人形がとはいえノクトの顔をしたこれが他人に抱かれるなんて——……」
セスはやや声を大きくしてそう言いかけ、ハッとしたように口をつぐんだ。
何やら「抱かれる」だのという妙な言葉が聞こえてきたような気がするが? 怪訝に思い首をひねるも、セスはごほんと咳払いをして背筋を伸ばし、キビキビしたよそ行きの声でこう言い放った。
「とにかく! こちらのノクト様は某国の要人であらせられる! こっそり顔を似せるようなことをしたらただでは済まないからな!」
「要人? そーなの?」
「あ、ええと、まあ、そうだね」
一応僕はエルシャルオン唯一の氷の魔術師だ。今は近衛魔術師という立場でもあるため、まあ要人といえば要人だろう。
お忍び旅行中なので立場を明かすことはないが、立ち居振る舞いには気をつけなくてはならない。僕はへらりと愛想笑いを見せたあと、すっとフードをかぶり直した。
「貴重な作品を見せていただきありがとう。では、失礼するよ」
「おう、必要になったらいつでも言いな。とびきりあんた好みの人形を作ってやるからよ~」
「……ノクト様、行きますよ」
「ああ」
エーベルはひらひらと僕に手を振り、チラッとセスを見てニヤリと笑った。
セスはフンと鼻を鳴らして僕の背に触れ、そのまま工房を後にした。
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