初恋のレシピは、きみと

餡玉(あんたま)

文字の大きさ
10 / 54
第3章 

4 学校とは別の顔

しおりを挟む
   ◇


 澄斗の作ったハンバーグは美味かった。そりゃあもう、びっくりするほど美味かった。
 匂いからすでに美味いだろうということは予想がついていたが、焼き加減といい味つけといい完璧だった。

 表面はこんがりほどよく焼けていて、箸で切り分けてみると澄んだ肉汁が溢れ出す。
 ハンバーグを焼いたのと同じフライパンでつくったソースには、肉の脂が溶け込んでいるのかコクがあり、材料がうちにあるケチャップやウスターソースとは思えないほど濃厚で美味かった。
 
 箸で切ったひときれを口に入れた瞬間、口の中に幸せが溢れ出す。

 美味すぎて咀嚼がやめられなかったが同時に賞賛せずにもいられなくて、僕は親指をグッと立てつつ「おいひ~~~」と声をあげた。
 すると澄斗は、心底嬉しそうに笑うのだ。

 我が家の食卓があんなにも明るかったのは久しぶりだ。
 この二週間、ずっとひとりで食事をしていたからなおさらだ。

 これまでも母さんが仕事で遅い日はひとりで食事をしていたが、あと数時間もしないうちに母さんは帰ってくる。だからだろうか、一人で食べていてもさほど寂しさはなかった。
 
 でも今は少し感覚が違う。
 ひとりきりの時間がしばらく続く。
 しんと静かな部屋で、ひとりでご飯を食べるというのは——やっぱり寂しかった。

(でも今日は、楽しかったなぁ……)

 隣を歩く澄斗の横顔をちらっと見上げて、僕はぼそりとこう言った。

「今日は……その、ありがと」
 
 カンカンカン——駅を隔てる踏切に、警笛が規則正しく鳴り響く。僕らは同時に立ち止まった。
 満面の笑みで「どういたしまして」と返ってくるかと思いきや、澄斗の口元に浮かぶのは苦笑だった。

「あれ? どうしたの?」
「うん、まぁ……。どういたしましてといいたいところだけど……」
「ん?」

 澄斗がふと踏切の向こうを見やる。市街地の中をのんびり走る電車が、ガタゴトと僕らの目の前を駆け抜けていった。

「なんか俺、今日は無理に郁也んちに押しかけちゃったかなーって。実はちょっと、買い物しながらハラハラしてたんだ」
「えぇ?」
「郁也が困ってる、それなら手伝いたい! っていう軽いノリでお邪魔したけど……なんかこう、おせっかいだったかもなって」
「まあ、確かに……」
「えっ…………やっぱり?」
 
 はじめは確かに……かなり戸惑った。
 だから素直に頷いてみると、澄斗がわかりやすくショックを受けている。

 顔面蒼白で頬を引き攣らせ、背景に『ガーン』という効果音が見えてきそうな顔だ。その顔が面白くて、思わず僕は噴き出してしまった。

「あはっ! なんだよその顔! あははっ!」
 
 キラッキラのイケメンがまさかそんな顔をするとは。
 学校では見たこともない表情の変貌っぷりがおかしくておかしくて、僕はしばらく腹を抱えてい笑った。涙まで溢れてくる。

「そっか……ごめん、迷惑だったよな」
「はははっ、いや、……うそうそ! 迷惑なわけないって!」
「いや、無理しなくもいいよ……俺、つい」
「ほんとだって! 澄斗のご飯、すっっごく美味しかった」

 涙を拭いながらぽんと澄斗の背中を叩く。すると澄斗はハッとしたように俺を見つめて、ほっとしたように胸を撫で下ろしている。

「そ、そう?」
「そうだよ。ていうかすごいよ、天才じゃん! 店で食べるようなハンバーグを一時間もかからずに作っちゃうなんて」
「はは……。よかった」

 心底安堵したのか、澄斗はいつになく気の抜けた顔で微笑んだ。

 その笑顔は、学校で見かける華やかな姿とはまるで違う。なんだかとても素直で、無防備な感じがした。

 なぜだかどぎまぎしてしまった僕は、気まずくなって澄斗から目を逸らす。

 どういう顔をしていたらいいのかわからず先に歩き始めた僕のあとを、澄斗がゆっくりと歩き出した。

「それに、僕の頼みも聞いてくれて……。こっちこそ図々しいだろ、本当にいいの?」
「もちろん。それに全然図々しい頼みなんかじゃない。母親のために頑張るなんて、すごいことだよ」

 澄斗が、遠くまで続く夜道に視線をやる。
 見上げた澄斗の瞳は、明るい茶色をしていて綺麗だ。しかし、なぜだろう。
 その横顔はとても寂しげに見える。

 学校で皆に見せている明るい笑顔が嘘のように澄斗の横顔はどこか物憂げで、とても静かだった。
 
(ん? どうしたのかな……)
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

初恋ミントラヴァーズ

卯藤ローレン
BL
私立の中高一貫校に通う八坂シオンは、乗り物酔いの激しい体質だ。 飛行機もバスも船も人力車もダメ、時々通学で使う電車でも酔う。 ある朝、学校の最寄り駅でしゃがみこんでいた彼は金髪の男子生徒に助けられる。 眼鏡をぶん投げていたため気がつかなかったし何なら存在自体も知らなかったのだが、それは学校一モテる男子、上森藍央だった(らしい)。 知り合いになれば不思議なもので、それまで面識がなかったことが嘘のように急速に距離を縮めるふたり。 藍央の優しいところに惹かれるシオンだけれど、優しいからこそその本心が掴みきれなくて。 でも想いは勝手に加速して……。 彩り豊かな学校生活と夏休みのイベントを通して、恋心は芽生え、弾んで、時にじれる。 果たしてふたりは、恋人になれるのか――? /金髪顔整い×黒髪元気時々病弱/ じれたり悩んだりもするけれど、王道満載のウキウキハッピハッピハッピーBLです。 集まると『動物園』と称されるハイテンションな友人たちも登場して、基本騒がしい。 ◆毎日2回更新。11時と20時◆

【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。 ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。 「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」 そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。 完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか? 初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。

処理中です...