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第3章
4 学校とは別の顔
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◇
澄斗の作ったハンバーグは美味かった。そりゃあもう、びっくりするほど美味かった。
匂いからすでに美味いだろうということは予想がついていたが、焼き加減といい味つけといい完璧だった。
表面はこんがりほどよく焼けていて、箸で切り分けてみると澄んだ肉汁が溢れ出す。
ハンバーグを焼いたのと同じフライパンでつくったソースには、肉の脂が溶け込んでいるのかコクがあり、材料がうちにあるケチャップやウスターソースとは思えないほど濃厚で美味かった。
箸で切ったひときれを口に入れた瞬間、口の中に幸せが溢れ出す。
美味すぎて咀嚼がやめられなかったが同時に賞賛せずにもいられなくて、僕は親指をグッと立てつつ「おいひ~~~」と声をあげた。
すると澄斗は、心底嬉しそうに笑うのだ。
我が家の食卓があんなにも明るかったのは久しぶりだ。
この二週間、ずっとひとりで食事をしていたからなおさらだ。
これまでも母さんが仕事で遅い日はひとりで食事をしていたが、あと数時間もしないうちに母さんは帰ってくる。だからだろうか、一人で食べていてもさほど寂しさはなかった。
でも今は少し感覚が違う。
ひとりきりの時間がしばらく続く。
しんと静かな部屋で、ひとりでご飯を食べるというのは——やっぱり寂しかった。
(でも今日は、楽しかったなぁ……)
隣を歩く澄斗の横顔をちらっと見上げて、僕はぼそりとこう言った。
「今日は……その、ありがと」
カンカンカン——駅を隔てる踏切に、警笛が規則正しく鳴り響く。僕らは同時に立ち止まった。
満面の笑みで「どういたしまして」と返ってくるかと思いきや、澄斗の口元に浮かぶのは苦笑だった。
「あれ? どうしたの?」
「うん、まぁ……。どういたしましてといいたいところだけど……」
「ん?」
澄斗がふと踏切の向こうを見やる。市街地の中をのんびり走る電車が、ガタゴトと僕らの目の前を駆け抜けていった。
「なんか俺、今日は無理に郁也んちに押しかけちゃったかなーって。実はちょっと、買い物しながらハラハラしてたんだ」
「えぇ?」
「郁也が困ってる、それなら手伝いたい! っていう軽いノリでお邪魔したけど……なんかこう、おせっかいだったかもなって」
「まあ、確かに……」
「えっ…………やっぱり?」
はじめは確かに……かなり戸惑った。
だから素直に頷いてみると、澄斗がわかりやすくショックを受けている。
顔面蒼白で頬を引き攣らせ、背景に『ガーン』という効果音が見えてきそうな顔だ。その顔が面白くて、思わず僕は噴き出してしまった。
「あはっ! なんだよその顔! あははっ!」
キラッキラのイケメンがまさかそんな顔をするとは。
学校では見たこともない表情の変貌っぷりがおかしくておかしくて、僕はしばらく腹を抱えてい笑った。涙まで溢れてくる。
「そっか……ごめん、迷惑だったよな」
「はははっ、いや、……うそうそ! 迷惑なわけないって!」
「いや、無理しなくもいいよ……俺、つい」
「ほんとだって! 澄斗のご飯、すっっごく美味しかった」
涙を拭いながらぽんと澄斗の背中を叩く。すると澄斗はハッとしたように俺を見つめて、ほっとしたように胸を撫で下ろしている。
「そ、そう?」
「そうだよ。ていうかすごいよ、天才じゃん! 店で食べるようなハンバーグを一時間もかからずに作っちゃうなんて」
「はは……。よかった」
心底安堵したのか、澄斗はいつになく気の抜けた顔で微笑んだ。
その笑顔は、学校で見かける華やかな姿とはまるで違う。なんだかとても素直で、無防備な感じがした。
なぜだかどぎまぎしてしまった僕は、気まずくなって澄斗から目を逸らす。
どういう顔をしていたらいいのかわからず先に歩き始めた僕のあとを、澄斗がゆっくりと歩き出した。
「それに、僕の頼みも聞いてくれて……。こっちこそ図々しいだろ、本当にいいの?」
「もちろん。それに全然図々しい頼みなんかじゃない。母親のために頑張るなんて、すごいことだよ」
澄斗が、遠くまで続く夜道に視線をやる。
見上げた澄斗の瞳は、明るい茶色をしていて綺麗だ。しかし、なぜだろう。
その横顔はとても寂しげに見える。
学校で皆に見せている明るい笑顔が嘘のように澄斗の横顔はどこか物憂げで、とても静かだった。
(ん? どうしたのかな……)
澄斗の作ったハンバーグは美味かった。そりゃあもう、びっくりするほど美味かった。
匂いからすでに美味いだろうということは予想がついていたが、焼き加減といい味つけといい完璧だった。
表面はこんがりほどよく焼けていて、箸で切り分けてみると澄んだ肉汁が溢れ出す。
ハンバーグを焼いたのと同じフライパンでつくったソースには、肉の脂が溶け込んでいるのかコクがあり、材料がうちにあるケチャップやウスターソースとは思えないほど濃厚で美味かった。
箸で切ったひときれを口に入れた瞬間、口の中に幸せが溢れ出す。
美味すぎて咀嚼がやめられなかったが同時に賞賛せずにもいられなくて、僕は親指をグッと立てつつ「おいひ~~~」と声をあげた。
すると澄斗は、心底嬉しそうに笑うのだ。
我が家の食卓があんなにも明るかったのは久しぶりだ。
この二週間、ずっとひとりで食事をしていたからなおさらだ。
これまでも母さんが仕事で遅い日はひとりで食事をしていたが、あと数時間もしないうちに母さんは帰ってくる。だからだろうか、一人で食べていてもさほど寂しさはなかった。
でも今は少し感覚が違う。
ひとりきりの時間がしばらく続く。
しんと静かな部屋で、ひとりでご飯を食べるというのは——やっぱり寂しかった。
(でも今日は、楽しかったなぁ……)
隣を歩く澄斗の横顔をちらっと見上げて、僕はぼそりとこう言った。
「今日は……その、ありがと」
カンカンカン——駅を隔てる踏切に、警笛が規則正しく鳴り響く。僕らは同時に立ち止まった。
満面の笑みで「どういたしまして」と返ってくるかと思いきや、澄斗の口元に浮かぶのは苦笑だった。
「あれ? どうしたの?」
「うん、まぁ……。どういたしましてといいたいところだけど……」
「ん?」
澄斗がふと踏切の向こうを見やる。市街地の中をのんびり走る電車が、ガタゴトと僕らの目の前を駆け抜けていった。
「なんか俺、今日は無理に郁也んちに押しかけちゃったかなーって。実はちょっと、買い物しながらハラハラしてたんだ」
「えぇ?」
「郁也が困ってる、それなら手伝いたい! っていう軽いノリでお邪魔したけど……なんかこう、おせっかいだったかもなって」
「まあ、確かに……」
「えっ…………やっぱり?」
はじめは確かに……かなり戸惑った。
だから素直に頷いてみると、澄斗がわかりやすくショックを受けている。
顔面蒼白で頬を引き攣らせ、背景に『ガーン』という効果音が見えてきそうな顔だ。その顔が面白くて、思わず僕は噴き出してしまった。
「あはっ! なんだよその顔! あははっ!」
キラッキラのイケメンがまさかそんな顔をするとは。
学校では見たこともない表情の変貌っぷりがおかしくておかしくて、僕はしばらく腹を抱えてい笑った。涙まで溢れてくる。
「そっか……ごめん、迷惑だったよな」
「はははっ、いや、……うそうそ! 迷惑なわけないって!」
「いや、無理しなくもいいよ……俺、つい」
「ほんとだって! 澄斗のご飯、すっっごく美味しかった」
涙を拭いながらぽんと澄斗の背中を叩く。すると澄斗はハッとしたように俺を見つめて、ほっとしたように胸を撫で下ろしている。
「そ、そう?」
「そうだよ。ていうかすごいよ、天才じゃん! 店で食べるようなハンバーグを一時間もかからずに作っちゃうなんて」
「はは……。よかった」
心底安堵したのか、澄斗はいつになく気の抜けた顔で微笑んだ。
その笑顔は、学校で見かける華やかな姿とはまるで違う。なんだかとても素直で、無防備な感じがした。
なぜだかどぎまぎしてしまった僕は、気まずくなって澄斗から目を逸らす。
どういう顔をしていたらいいのかわからず先に歩き始めた僕のあとを、澄斗がゆっくりと歩き出した。
「それに、僕の頼みも聞いてくれて……。こっちこそ図々しいだろ、本当にいいの?」
「もちろん。それに全然図々しい頼みなんかじゃない。母親のために頑張るなんて、すごいことだよ」
澄斗が、遠くまで続く夜道に視線をやる。
見上げた澄斗の瞳は、明るい茶色をしていて綺麗だ。しかし、なぜだろう。
その横顔はとても寂しげに見える。
学校で皆に見せている明るい笑顔が嘘のように澄斗の横顔はどこか物憂げで、とても静かだった。
(ん? どうしたのかな……)
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