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第4章
2 陽キャがもうひとり
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その日の昼休み。
僕は屋上へつづく外階段でひとりでパンをかじっていた。
普段は織田智と映画部の部室で食べるのだが今日は部の方針についての話し合いがあるらしく、僕はひとりで昼食をとっている。
ちなみに僕は中学まで水泳部に所属していた。
高校でも水泳部に入るつもりで体験入部はしてみたものの、結局入部しなかった。
森山塚高校の水泳部は強豪で、練習もかなりハードなものだった。とてもついていけるレベルではなく、僕を含め五、六人の生徒が入部を断念していた。
でもこれまで続けていた水泳をやめるのは寂しくもあり、誘われるままマネージャーとして籍を置いている。
選手をサポートする仕事はそれなりに居心地がよかったし、顧問の先生は練習には厳しいが落ち着いた人柄で、生徒の話をじっくり聞いてくれる人だ。母さんが入院することになったこと伝えたら、『大変だろうからしばらく休んでもいいよ』と言ってくれた。
部活に出なくてもいいのは気楽ではあるが、僕自身は元気なので若干の後ろめたさもある。
(とはいえ、ひとりで家のことをやるのはけっこう疲れるしなぁ……)
ぼうっと空を見上げてみる。
ここはほとんど人が来ないので落ち着くのだが、そろそろ昼食をとるには暑くなってきた。
日陰ではあるものの、コンクリートの校舎を吹き抜けてゆく風はほとんど熱風に近い。
(暑い……。そろそろ教室に戻ろうかな)
でも、なんとなく腰が上がらない。
昼休みの真っ只中だ。いつもなら陽キャ組が教室の後ろを陣取って、ワイワイ楽しげに昼休憩を過ごしている。
僕が教室に戻ったら、澄斗が声をかけてくるかもしれない。
澄斗だけならいい。だけど、あいつの周りにいる派手なメンツから怪訝そうな視線を一斉に浴びるのかと思うと、なんとなく教室に戻りづらかった。
昨日のあれこれで、これまで開いていた僕と澄斗の距離はわずかに縮まったと思う。
きっと、そう感じているのはおそらく澄斗だけじゃないはずだ。
でも、学校で昨日と同じ調子で言葉を交わせるかと言われると…………無理だ。
陽キャ組の「なんでこいつが澄斗と?」っていう好奇の視線に耐えられる気がしない。澄斗とふたりならなんでも話せる気はするが、学校ではまともに会話できる気がしない……
(やっぱり、もうちょっとここにいよう)
ため息をつき、ペットボトルの麦茶を一気飲みする。
短い梅雨が明け、パキッと青い空がどこまでも広がっている。まだ控えめな蝉の声も微かに聞こえてきて、夏の気配がすっかり濃くなってきた。
(母さん、夏休みには一度戻るって言ってたっけ。リハビリにも通うことになるだろうし、しばらくはバタバタしそうだなあ)
洗濯や掃除は、なんとなくペースがつかめてきた。
家電という現代の利器に頼れば洗濯や掃除はなんとかなる。取り込むのは面倒だけど、ひとり暮らしだからリビングに放置していても問題はない。
だが、やはり難しいのは料理だ。
今朝もトースターの設定を間違えて、食パンを丸焦げにしてしまった。
目玉焼きにも再挑戦しようとしたが、やはり黄身が潰れて流れてしまった。今日は焦げつかせることはなかったけど、塩と砂糖を間違えて結局しょっぱいスクランブルエッグになってしまった……
「なんでうまくできないんだろう。はぁ……先が思いやられるなあ……」
踊り場に手をついてぐーっとのけぞったそのとき、ひょいと視界に影が差す。
こちらを見下ろす澄斗とバッチリ目が合って——……僕は声にならない悲鳴をあげた。
「すっ……す、す、澄斗っ!?」
「やっぱり郁也だ。いつもここで昼食ってんの?」
首にド派手なオレンジ色のタオルを引っ掛けた澄斗がいる。
どこかで身体を動かしてきたのか、澄斗の首筋には玉のような汗が光っている。いつもは軽やかな栗色の髪はしっとりと水気を含んでいて、なんだか妙に色っぽい。
突然のセクシーにどぎまぎしていると、澄斗の背後から同じクラスの御子柴悠巳がひょっこり顔を出した。
「あれ、朝霞くんやん! なにしてんのこんなとこで?」
元気いっぱいにそう尋ねてきた御子柴くんは、澄斗とトップを競うほどのイケメンで人気者。
中学からこっちに転校してきた関西人で喋りがうまく、女の子たちをよく笑わせている。
どことなく芝犬を彷彿とさせる目鼻立ちで、澄斗よりほっそりめのしなやかな体躯はどこにいてもパッと目を引く。
癖毛なのかおしゃれなパーマなのか僕には判断がつかないけど、モシャっとした元気な髪型よく似合う。澄斗が正統派イケメンアイドルなら、御子柴くんは可愛い系の面白担当といったところか。
(しかしイケメンがふたりもいると、眩しさもひとしおだな……)
御子柴くんも黒髪がしっとり濡れているし、シャツの胸元が大きく開いていてなんだかエロい。
顔面の整ったふたりがエロい雰囲気を醸している。
なんだか見てはいけないものを見てしまった気分になり、僕は思わず腰を浮かせた。
僕は屋上へつづく外階段でひとりでパンをかじっていた。
普段は織田智と映画部の部室で食べるのだが今日は部の方針についての話し合いがあるらしく、僕はひとりで昼食をとっている。
ちなみに僕は中学まで水泳部に所属していた。
高校でも水泳部に入るつもりで体験入部はしてみたものの、結局入部しなかった。
森山塚高校の水泳部は強豪で、練習もかなりハードなものだった。とてもついていけるレベルではなく、僕を含め五、六人の生徒が入部を断念していた。
でもこれまで続けていた水泳をやめるのは寂しくもあり、誘われるままマネージャーとして籍を置いている。
選手をサポートする仕事はそれなりに居心地がよかったし、顧問の先生は練習には厳しいが落ち着いた人柄で、生徒の話をじっくり聞いてくれる人だ。母さんが入院することになったこと伝えたら、『大変だろうからしばらく休んでもいいよ』と言ってくれた。
部活に出なくてもいいのは気楽ではあるが、僕自身は元気なので若干の後ろめたさもある。
(とはいえ、ひとりで家のことをやるのはけっこう疲れるしなぁ……)
ぼうっと空を見上げてみる。
ここはほとんど人が来ないので落ち着くのだが、そろそろ昼食をとるには暑くなってきた。
日陰ではあるものの、コンクリートの校舎を吹き抜けてゆく風はほとんど熱風に近い。
(暑い……。そろそろ教室に戻ろうかな)
でも、なんとなく腰が上がらない。
昼休みの真っ只中だ。いつもなら陽キャ組が教室の後ろを陣取って、ワイワイ楽しげに昼休憩を過ごしている。
僕が教室に戻ったら、澄斗が声をかけてくるかもしれない。
澄斗だけならいい。だけど、あいつの周りにいる派手なメンツから怪訝そうな視線を一斉に浴びるのかと思うと、なんとなく教室に戻りづらかった。
昨日のあれこれで、これまで開いていた僕と澄斗の距離はわずかに縮まったと思う。
きっと、そう感じているのはおそらく澄斗だけじゃないはずだ。
でも、学校で昨日と同じ調子で言葉を交わせるかと言われると…………無理だ。
陽キャ組の「なんでこいつが澄斗と?」っていう好奇の視線に耐えられる気がしない。澄斗とふたりならなんでも話せる気はするが、学校ではまともに会話できる気がしない……
(やっぱり、もうちょっとここにいよう)
ため息をつき、ペットボトルの麦茶を一気飲みする。
短い梅雨が明け、パキッと青い空がどこまでも広がっている。まだ控えめな蝉の声も微かに聞こえてきて、夏の気配がすっかり濃くなってきた。
(母さん、夏休みには一度戻るって言ってたっけ。リハビリにも通うことになるだろうし、しばらくはバタバタしそうだなあ)
洗濯や掃除は、なんとなくペースがつかめてきた。
家電という現代の利器に頼れば洗濯や掃除はなんとかなる。取り込むのは面倒だけど、ひとり暮らしだからリビングに放置していても問題はない。
だが、やはり難しいのは料理だ。
今朝もトースターの設定を間違えて、食パンを丸焦げにしてしまった。
目玉焼きにも再挑戦しようとしたが、やはり黄身が潰れて流れてしまった。今日は焦げつかせることはなかったけど、塩と砂糖を間違えて結局しょっぱいスクランブルエッグになってしまった……
「なんでうまくできないんだろう。はぁ……先が思いやられるなあ……」
踊り場に手をついてぐーっとのけぞったそのとき、ひょいと視界に影が差す。
こちらを見下ろす澄斗とバッチリ目が合って——……僕は声にならない悲鳴をあげた。
「すっ……す、す、澄斗っ!?」
「やっぱり郁也だ。いつもここで昼食ってんの?」
首にド派手なオレンジ色のタオルを引っ掛けた澄斗がいる。
どこかで身体を動かしてきたのか、澄斗の首筋には玉のような汗が光っている。いつもは軽やかな栗色の髪はしっとりと水気を含んでいて、なんだか妙に色っぽい。
突然のセクシーにどぎまぎしていると、澄斗の背後から同じクラスの御子柴悠巳がひょっこり顔を出した。
「あれ、朝霞くんやん! なにしてんのこんなとこで?」
元気いっぱいにそう尋ねてきた御子柴くんは、澄斗とトップを競うほどのイケメンで人気者。
中学からこっちに転校してきた関西人で喋りがうまく、女の子たちをよく笑わせている。
どことなく芝犬を彷彿とさせる目鼻立ちで、澄斗よりほっそりめのしなやかな体躯はどこにいてもパッと目を引く。
癖毛なのかおしゃれなパーマなのか僕には判断がつかないけど、モシャっとした元気な髪型よく似合う。澄斗が正統派イケメンアイドルなら、御子柴くんは可愛い系の面白担当といったところか。
(しかしイケメンがふたりもいると、眩しさもひとしおだな……)
御子柴くんも黒髪がしっとり濡れているし、シャツの胸元が大きく開いていてなんだかエロい。
顔面の整ったふたりがエロい雰囲気を醸している。
なんだか見てはいけないものを見てしまった気分になり、僕は思わず腰を浮かせた。
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