初恋のレシピは、きみと

餡玉(あんたま)

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第7章 

4 キス、されて?

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 ふと目を覚ますと——……目の前に、国宝級のイケメンの寝顔があった。

 これは夢? 夢なのか? 僕はいったい、なにを見ている?

 そっと腕を動かして自分の頬をつねってみると——痛い。普通に痛い。
 ということはこれは夢ではなく現実だ。
 
 僕が寝かされているのは眠り慣れた自室のベッドだ。
 そして澄斗は僕の枕元に座って、ベッドに上半身を預けるようにして眠っている。

 ……僕の手をしっかりと握りしめて。

(あ、あ、そうだ……僕、澄斗に好きだって言われて……しかも、キ、キ……キスを)

 生まれて初めての告白だった。それも、これまでずっと苦手だと思っていた同級生に……

 男同士で恋愛関係になるということが当たり前のように世間に受け入れられつつあるのは知っている。でも、そこに僕自身が含まれることになるなんて、夢にも思わなかった。

 そもそも、恋愛なんて僕には縁遠いものだと思っていた。

 僕はとりたてて面白いところのない人間だと自覚しているし、女の子たちが騒ぎ立てる男子たちに共通する特徴をなにひとつ持ち合わせていない。

 かっこよくもないし、足も速くない。人と話すのも苦手だ。成績は上の下くらいで、それは大した加点ポイントにはならない。
 
 絶望的なのは人とうまく話せないこと。相手に合わせて話題を選んだり、忖度を加えたり、お世辞を言い合ったり——……雑談というものがひどく苦手な僕は、たいてい話している相手を不愉快な気分にさせてしまう。
 
(だけど澄斗は違ってた。僕と話すと楽しいと言ってくれた。僕の容姿を可愛いとさえ……)
 
 不器用さを抱擁するように僕を褒めてくれた。僕と一緒にいたいと言ってくれた。

 初めて向けられた好意が嬉しくてたまらなかったけれど、それが勘違いだったらと思うと怖かった。

 気まぐれに向けられた優しさでたやすく有頂天になってしまう愚か者になりたくなくて、澄斗の善意をいつも疑っていた。

 でも……違った。澄斗は僕に、本当に特別な好意を向けてくれていたのだ。

 澄斗に握られていないほうの手で、自分の唇に触れてみる。

 ほんの少し触れただけ。キスと呼ぶには不完全にも思える軽い触れ合いだけで、僕はあまりの刺激の強さに気絶してしまった。
 
 男にキスをされる……それは普通ではないのかもしれない。

 でも僕は、嫌じゃなかった。澄斗の好意を察したそのときから、胸は甘く高鳴っていた。

 僕はゲイだったのだろうか。
 確かにこれまで好きになった女の子はいなかったし、どちらかというと女子はみんなうっすら怖くて苦手だったけど、だからといって男に惹かれたことは一度もなかった。

(澄斗は? 澄斗はどうだったんだろう……)

 聞きたいことが次々に浮かんでくる。眠る澄斗の顔をじっと見つめて、僕はそっと瞬きをした。

 伏せられた長いまつ毛、毛穴など見当たらないきめの細やかな白い肌。鮮やかな栗色の髪。

 澄斗を形成する容姿に目を奪われることは何度もあった。不意に見せる少し幼い表情を可愛いと感じていた。


 あの嵐の日も、端整な顔を恐怖に歪め、目に涙を溜めている澄斗は可愛かった。澄斗の周りを囲む仲間たちがおらず、心細そうな澄斗に庇護欲を掻き立てられた。

 嵐という非現実感で、僕も少し気持ちが昂っていたのだと思う。そうじゃないと、自分から澄斗に近づくなんてことはできなかった。

「……可愛いな。寝顔も……」

 ぽつ、と口から溢れた僕の声は、寝起きということもあって微かに掠れていた。部屋の中はまだ薄暗い。朝にはなっていないのだろう。

 カーテンの隙間からほのかに漏れ入る外の光が、眠る澄斗の姿は幻想的なまでに美しくみせている。

「……可愛いって、俺のこと?」
「っ!!!??」

 ぱち、と澄斗の目が開いた。びっくりしすぎて微動だにできず、僕は目を丸くして澄斗の上目遣いを受けとめる。

「お、お、起きてたの……?」
「んー……ちょっと前からな。ふぁ……いてて」

 澄斗はゆっくり身体を起こし、顔をくしゃくしゃにしながら伸びをしている。パッと時計を見ると午前4時だ。長時間座ったままの体勢でいたのなら、身体がバキバキになってしまっているかもしれない。

「えと……ずっとここにいてくれたの? 僕が気絶したから」
「ああ、うん。……だって、びっくりさせたの俺だし、ほっとけないじゃん」
「ありがとう……」
「いや、悪かったよ。……いきなりキスして、ごめんな」
「ぅぐっ」

 澄斗の口から発せられた『キス』という単語の色っぽさにやられ、僕は胸を押さえてベッドの上で丸くなった。

 すると澄斗は「え、なに!? どうしたんだよっ」と焦り顔で僕の肩を揺さぶってくる。

「ごめん、やっぱ嫌だった? まあ……そうだよな、男にいきなりあんなことされたら」
「ち、ちがう。違うんだ、けど……。僕も、じつはまだよくわからなくて……!」
 
 身を起こした澄斗は僕の部屋の床にあぐらをかき、少し乱れた髪をかき上げる。それだけの仕草がやたらとセクシーに見えてしまう僕の目は、どうなってしまったのだろうか……
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