初恋のレシピは、きみと

餡玉(あんたま)

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第7章 

5 口説かれて……

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「あ、あのさ……澄斗はその、恋愛対象が男なの?」
「んー……いや、どうなんだろうな。自分でもよくわかんないけど、絶対男じゃなきゃだめだとは思わない。保育園の頃、女の先生に憧れてたし」
「そうなんだ……」
「けど両親のゴタゴタがあって以来、俺、女の子がちょっと苦手なんだよね。だから冴島にベタベタされたり、態度で色々匂わせてくるとこ実はすげー苦手なんだけど……ちゃんと告られたわけでもないしこっちから断るわけにもいかなくて、困ってるのは本当」
「ああ、悠巳くんが言ってたやつ……」
「悠巳から?」
「ご、ごめん。澄斗がいないときに、ちょっと恋愛絡みの話になって」
「ったく、あいつなんでも郁也に喋るじゃん」

 咄嗟に顔の前で両手を合わせて謝るも、澄斗は首を振って「いいよ、べつに」と軽い口調だ。

 それにしても、澄斗にも苦手なものがあったのだ。いつも澄斗を取り巻いている賑やかなメンバーたちの中には女子も多いが、大っぴらに澄斗に迫っているのは冴島さんだけだろう。

 彼女は自分にとても自信があるように見える。親しげな態度で好意をアピールして、澄斗からの告白を待っているのかもしれない。
 
「男とか女とか、たぶん俺にはあんまり関係ないんだよ。あの嵐の日からずっと、好きなのは郁也だけだ」
「っ」

 澄斗ははっきりとそう言って、仄灯りの中で微笑んだ。

「さっきはごめん。顔真っ赤にして、俺のこと潤んだ目で見つめてくる郁也が可愛すぎて、ついキスしちゃったんだよね」
「そっ……そう……」
「でも悪かった。ちゃんと郁也の気持ちも聞かずに、俺だけ突っ走って気絶なんかさせちゃって」
「あ、謝らないでいいよ! 気絶はしちゃったけど僕は……い、い、いやじゃなかった、し……」

 最後のほうは蚊の鳴くような声になってしまった。
 
 自分の気持ちを言葉にするということは、こんなにも緊張するものなのか。

「僕は、今まで恋愛なんてしたこともないし人を好きになったこともないから、こういうのよくわからなくて」
「好きになったこともないの?」
「……ない。正直、好きってどういう感じなのかも、よく……」

 しどろもどろになりながらそう言うと、澄斗が壁際に置かれた僕のベッドに近づいてきた。まさかベッドの上に乗ってくるのか……? と内心ドキリとしたけれど、澄斗はベッドに頬杖をついて、上目遣いに僕を見上げるだけだった。

「ねえ郁也、俺といると、どんな気分になんの?」
「気分?」
「そ、教えてよ。それを聞いてから、俺は澄斗にどうアプローチするか考えるからさ」
「アプローチ……」
「はっきり言うと、俺は郁也と付き合いたい。郁也の恋人になりたいって思ってる」
「っ、ぐ」

 恋愛のいろはをわからない僕に曖昧な言葉は通用しないと考えたのか、澄斗は僕の目を見てキッパリとそう言った。
 
「俺にそういう気持ちを向けられたくないなら、はっきりそう言って欲しいんだ。いやだ、きらいだ、気持ち悪いって」
「そ、そんなことあるわけないだろ!」

 ネガティブな言葉を並べられ、僕は即座にそれを否定した。

 僕はベッドの上で身を乗り出し、僕を見上げる澄斗の視線をまっすぐに見つめ返す。

「澄斗をずっと苦手だと思ってたけど、本当は優しいところがあるって知れた。仲良くなれて嬉しかった、友だちになれたのかもしれないって! ただの友達だって思うのに、優しくされたり笑いかけられたりするとへんに舞い上がって、でもやっぱり僕の勘違いかもって思うと胸が痛くなったり苦しくなったりする。もう……もうこんなの、戸惑うばっかりで、どういう感情なのか僕もわかんないんだよ……!」
「……郁也、郁也」
「な、なんだよ!」
「それ、郁也も俺のことけっこう好きってことじゃない?」

 頬杖をついていた澄斗の手が伸びてきて、シーツの上にある僕の手に触れた。

 僕の手をぎゅっと握りしめる大きな手に触れられることに、僕はもう驚きはしなかった。
 ただ胸が甘く早鐘を打ち、腹の奥からむずがゆい感覚が込み上げてくる。

「そういう感情を、一般的にはときめきとか恋って呼ぶと思うんだよね。俺が郁也に感じてること、そのまんまだもん」
「そう……なの?」
「じゃあ、もういっこ質問な。俺以外の誰かを、”可愛い”って思ったことある?」

 なにやらすごい質問をされた。……でも、これは自信を持って答えることができる。

「それはないよ」
「お、やけにはっきり言うじゃん。……そっか」

 僕の答えを聞くや、どこか緊張の面持ちだった澄斗の表情が緩んでゆく。

 澄斗は僕の指に指を絡めて握り治すと、眉根を下げて幸せそうに笑った。

「初めて可愛いと思ったのが俺なら、郁也の初恋は俺ってことじゃね?」
「え? ええと、そういうことに、なるのかな……?」

 拡大解釈がすぎるのでは——……とも思ったが、あの嵐の日に感じた胸の高鳴りを思い出すと、違うとも言い切れない。

 澄斗は僕の手を握り締めたままそっと持ち上げ、僕の手の甲に唇を触れさせた。

「っ……ひぃ」
「こういうの、いや? 気持ち悪い?」
「……ううん、くすぐったくて……恥ずかしくて、照れるけど……そのままでもいてほしい、っていうか……」
「ほんと? 嬉しいな」

 ひとつひとつステップを踏むように、澄斗は僕の気持ちを確かめてゆく。

 そうこうしている間にも澄斗の唇は僕の手の甲から指先のほうへと上がってゆき、ちゅっとリップ音をたてて人差し指にキスされた。

「うぁ……っ」
「俺はね、郁也。郁也とふたりきりで過ごす時間が欲しいし、一緒に料理したり、食べたり、ゲームしたり……そういう日常が欲しいと思ってるよ」
「そ、それがつまり……付き合うってこと?」
「そう。……なぁ郁也、俺と付き合って? もういきなりキスしたりしない。郁也のペースに合わせるよ。それに、俺のことをもっと好きになってもらえるように頑張るから」

 もはや懇願に近い口調で口説かれてしまい、頭も胸もぐるぐると血が巡りまくっている。

 ただわかるのは、嬉しいということだけ。澄斗という魅力的すぎる相手に求めてもらえることが嬉しくて、むずむず頬が緩んでしまう。

「う……うん、わかった」
「ほんと? え? いいの?」
「僕でよければ……」
 
 こくりと頷く僕を見つめる澄斗の瞳が涙を纏って、まばゆいほどに輝いた。

 頬を上気させ目を潤ませながら澄斗は両手でしっかりと僕の手を握りしめ、ぎゅっと額に押し当てた。

「あは……あはははっ、そっか。やったぁ」

 どこか幼い口調になって、満面の笑みを浮かべる澄斗は十六歳になってもやっぱり可愛くて、とうとう僕の頬も完全に緩んでしまった。

 白い歯を見せて綺麗に笑う澄斗とは違って、へらっと締まりのない笑顔になっていると思う。でも澄斗が嬉しそうだから、これでいいのかもしれない。

 カーテンの隙間から朝日が差し込み、部屋の中がにわかに明るくなる。

 清らかな白い陽光を受けて輝く澄斗の瞳はキラキラと透明に澄み渡り、まるで宝石のように美しかった。
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