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第8章
1 流れた写真
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ふたりきりの世界に酔いしれていた僕らは、クラスLINEが荒れに荒れていることをなにも知らなかった。
そもそもクラスLINEにて大事な情報が共有されることはほとんどなく、使いたい人が自由な使い方をしている緩いグループだ。僕は通知をオフにしていて、日常的に使うことは一切ない。
そのため、僕は何も知らないままごく普通に月曜日を迎えていた。
足を踏み入れた教室は、いつもよりなんだか騒がしい。あちこちでクラスメイトがかたまっていて、その中心にはスマホがある。
なにか特別なニュースでも流れたのだろうかと思いつつ自分の席に向かっていると、たまたまロッカーのそばにいた織田智が声をかけてきた。
「おはよう、郁也」
「おはよ、智。どうしたの? なんか騒がしいね」
「ああ……」
智は黒縁眼鏡のブリッヂをクイと押し上げ、スマホを取り出し僕に画面を見せてきた。
「……え?」
表示されているクラスLINEのトーク画面に、澄斗の姿がある。
そして、澄斗の腕に腕を組んで傍らにいるのは——……見たこともない、艶やかな女性だった。
豊満な胸を強調するタイトな黒いワンピース、首元には大ぶりのネックレス。長い黒髪を緩やかに巻き、目が覚めるような赤い口紅を塗った唇を妖艶に吊り上げている女性だった。
(……え? だ、だれ、この人……)
年齢は、おそらく二十代後半か、三十代前半といったところだろうか。
澄斗の腕に絡めたなまめかしい白い腕の先にある指先は、豪華に盛られた付け爪がある。
そして、薬指には華やかに輝く指輪。
つまり、この人は結婚しているということ……
澄斗の表情はどうかと思い視線をやると、ちょうど横を向いていてわからない。無表情なので澄斗がどういう感情を抱いているかを推し量るのは難しく、ふたりの関係性はよくわからなかった。
「これ……なに?」
「下世話な話題だが、うちのクラスの本条澄斗を都内のインペリアルホテルで見かけたという女子がいて、なぜだか写真が回っている」
「インペリアルホテル……?」
「親にしてはだいぶ若いし薬指に指輪をしているから、ママ活をしてるんじゃないかと一部の生徒が騒ぎ立てているという状況だ」
「ま、ま、ママ活……!? 澄斗が!?」
思わず智からスマホをひったくってトーク画面を遡る。
そこには『え、ショックー』『最近付き合い悪かったのはこれが理由?』『そういえば、土曜は部活休んでたらしいじゃん』『てかすげー美人。おばさんでもこれなら俺余裕かもw』など……主に陽キャ組の面々がゴシップに群がっている。
(な、なんだこれ……!? ていうか土曜日? その日は澄斗、うちに来てたじゃないか……!!)
この情報を誰が発信した? スクロールしてこの騒ぎの一番上まで辿っていくと——……そこには、ピンク色のアゲハ蝶のアイコンがある。
アカウント名を確認すると『MIKA』とある。冴島美嘉のことだ。
(冴島さんが、澄斗のこんな写真をあげた……!?)
信じられない。澄斗が自分に靡かないからこんなことをしたのか?
わざわざ澄斗をつけ回してこんな写真を撮った? いや、たまたま通りかかっただけ……? となると、冴島さんはここで何をしていたのかということになるし……
わからないことだらけだ。頭の中にいろんな憶測がぐるぐると駆け巡り、僕は眩暈に襲われた。
教室を見回すも、澄斗をはじめとした運動部員たちの姿は見えない。まだ朝練から戻っていないのだ。それにホッとするものの、グループLINEで回っているのなら、すでに澄斗もこの情報を知っているのかもしれない。
すると、にわかに廊下が騒がしくなった。
澄斗が登校してきたのかと思い弾かれたようにそっちに目をやるも、数人の派手なタイプの女子を引き連れて歩いていたのは冴島美嘉その人だった。
「そーそー、たまたまママとホテルランチいっててエレベーター降りたら澄斗いるじゃん? こんなとこで会うなんてラッキーと思って声かけようとしたら、これよ。どう見ても親じゃないよねー? 女兄弟もいないって言ってたし、そもそもそういう雰囲気でもないし、まじヤバいとおもって撮っちゃったんだよね……ショックすぎてさぁ」
冴島さんはなぜか被害者のような顔をしていて、僕は頭を殴られたようなショックを受けた。
しかも彼女の周りには、「美嘉、あんなにアピールしてたのにね~」「澄斗くん、ひどい。てかママ活とかまじで終わってる」「もっとまともな男いるって、大丈夫だよ!」などと冴島さんを擁護して澄斗を責めるようなことを言い交わしている。
腹の奥底から、感じたことのないような激しい怒りが込み上げてくる。
これまでの人生で一度も感じたことのないような、ドス黒い怒りの感情だった。
そもそもクラスLINEにて大事な情報が共有されることはほとんどなく、使いたい人が自由な使い方をしている緩いグループだ。僕は通知をオフにしていて、日常的に使うことは一切ない。
そのため、僕は何も知らないままごく普通に月曜日を迎えていた。
足を踏み入れた教室は、いつもよりなんだか騒がしい。あちこちでクラスメイトがかたまっていて、その中心にはスマホがある。
なにか特別なニュースでも流れたのだろうかと思いつつ自分の席に向かっていると、たまたまロッカーのそばにいた織田智が声をかけてきた。
「おはよう、郁也」
「おはよ、智。どうしたの? なんか騒がしいね」
「ああ……」
智は黒縁眼鏡のブリッヂをクイと押し上げ、スマホを取り出し僕に画面を見せてきた。
「……え?」
表示されているクラスLINEのトーク画面に、澄斗の姿がある。
そして、澄斗の腕に腕を組んで傍らにいるのは——……見たこともない、艶やかな女性だった。
豊満な胸を強調するタイトな黒いワンピース、首元には大ぶりのネックレス。長い黒髪を緩やかに巻き、目が覚めるような赤い口紅を塗った唇を妖艶に吊り上げている女性だった。
(……え? だ、だれ、この人……)
年齢は、おそらく二十代後半か、三十代前半といったところだろうか。
澄斗の腕に絡めたなまめかしい白い腕の先にある指先は、豪華に盛られた付け爪がある。
そして、薬指には華やかに輝く指輪。
つまり、この人は結婚しているということ……
澄斗の表情はどうかと思い視線をやると、ちょうど横を向いていてわからない。無表情なので澄斗がどういう感情を抱いているかを推し量るのは難しく、ふたりの関係性はよくわからなかった。
「これ……なに?」
「下世話な話題だが、うちのクラスの本条澄斗を都内のインペリアルホテルで見かけたという女子がいて、なぜだか写真が回っている」
「インペリアルホテル……?」
「親にしてはだいぶ若いし薬指に指輪をしているから、ママ活をしてるんじゃないかと一部の生徒が騒ぎ立てているという状況だ」
「ま、ま、ママ活……!? 澄斗が!?」
思わず智からスマホをひったくってトーク画面を遡る。
そこには『え、ショックー』『最近付き合い悪かったのはこれが理由?』『そういえば、土曜は部活休んでたらしいじゃん』『てかすげー美人。おばさんでもこれなら俺余裕かもw』など……主に陽キャ組の面々がゴシップに群がっている。
(な、なんだこれ……!? ていうか土曜日? その日は澄斗、うちに来てたじゃないか……!!)
この情報を誰が発信した? スクロールしてこの騒ぎの一番上まで辿っていくと——……そこには、ピンク色のアゲハ蝶のアイコンがある。
アカウント名を確認すると『MIKA』とある。冴島美嘉のことだ。
(冴島さんが、澄斗のこんな写真をあげた……!?)
信じられない。澄斗が自分に靡かないからこんなことをしたのか?
わざわざ澄斗をつけ回してこんな写真を撮った? いや、たまたま通りかかっただけ……? となると、冴島さんはここで何をしていたのかということになるし……
わからないことだらけだ。頭の中にいろんな憶測がぐるぐると駆け巡り、僕は眩暈に襲われた。
教室を見回すも、澄斗をはじめとした運動部員たちの姿は見えない。まだ朝練から戻っていないのだ。それにホッとするものの、グループLINEで回っているのなら、すでに澄斗もこの情報を知っているのかもしれない。
すると、にわかに廊下が騒がしくなった。
澄斗が登校してきたのかと思い弾かれたようにそっちに目をやるも、数人の派手なタイプの女子を引き連れて歩いていたのは冴島美嘉その人だった。
「そーそー、たまたまママとホテルランチいっててエレベーター降りたら澄斗いるじゃん? こんなとこで会うなんてラッキーと思って声かけようとしたら、これよ。どう見ても親じゃないよねー? 女兄弟もいないって言ってたし、そもそもそういう雰囲気でもないし、まじヤバいとおもって撮っちゃったんだよね……ショックすぎてさぁ」
冴島さんはなぜか被害者のような顔をしていて、僕は頭を殴られたようなショックを受けた。
しかも彼女の周りには、「美嘉、あんなにアピールしてたのにね~」「澄斗くん、ひどい。てかママ活とかまじで終わってる」「もっとまともな男いるって、大丈夫だよ!」などと冴島さんを擁護して澄斗を責めるようなことを言い交わしている。
腹の奥底から、感じたことのないような激しい怒りが込み上げてくる。
これまでの人生で一度も感じたことのないような、ドス黒い怒りの感情だった。
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