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第8章
2 卑怯だ
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この女性が誰にせよ、自分の好意を澄斗が受け取らなかったからといってこんな仕打ちをしていいはずがない。
盗撮した写真を流し、それをダシにして慰めを得ようとするなんて最低の行為だ。
そもそも、ちゃんと告白してもいないのに、澄斗を悪のように決めつけて、貶めて、自分のプライドを守ろうとするなんて——……!!
「……い、郁也? どうした?」
智の怪訝そうな声が聞こえてくる。きっと僕は、ものすごく憎らしそうな顔で冴島さんを睨みつけているのだろう。
手にしていたスマホを智に押しつけ、僕はつかつかとまっすぐ冴島さんに近づいた。
「何だよ、あの写真」
「……はぁ?」
冴島さんを囲んでいた四人の女子が、僕を見てさっと距離を取った。不審者を見るような視線を頬に感じたが、そんなことはどうでもいい。
そして冴島さんは、突然机の前に現れた僕を下からきつい目つきで睨め上げてくる。普段の僕ならビビって何も言えなくなっていただろう。
だけど僕は溢れかえる怒りを必死で抑えるのに必死で、彼女の目つきに怯えている暇はなかった。
「あの写真、なんなんだよ。どうして澄斗のプライベートを暴くような真似をするんだ?」
「はぁ……? なにこいつ、うざ、あんたには関係ねーだろ」
「おおかた、澄斗が冴島さんの思うようにならなかったから逆恨みして、他人の写真を勝手に撮って大勢が目にする場所に流したんだろ? やり方が姑息で汚いね」
「っ……んだとぉ?」
ギロ……と睨めつけられ、女性の口から出ているとは思えないようなドスの効いた声で凄まれる。
でも僕は彼女から目を逸らさず、続けた。
「あの人が誰だか澄斗に確認取ったのか? 澄斗の交友関係なんて、冴島さんは知らないだろ?」
「LINEで聞いたよ、一応。これひょっとしてママ活ー? って。既読ついたけど返事なかったし、つまりそれって図星ってことじゃん?」
冴島さんは勝ち誇ったような目つきで僕を見上げ、ピンク色のツヤツヤした唇を吊り上げる。
その表情はどこまでも悪辣で、澄斗への想いなど微塵も感じられない。淡いグレーのカラーコンタクトが入った彼女の瞳には、己のプライドを打ち壊した澄斗への復讐心だけが燃えている。
彼女は綺麗だ、澄斗にお似合いだと思った自分をぶん殴りたくなった。
拳が震える。
そんな僕の姿を見てか、ざわざわと教室が不穏にざわめき始めた。
「……ふざけるなよ。冴島さんは卑怯だ。こんな手を使って澄斗を陥れようとするなんて」
「はァ!? 卑怯ってなんだよ!? あんたこそなんのつもり!? なんであたしがあんたみたいなモブに意見されなきゃいけねーんだよ! ちょーっと澄斗に優しくされたくらいでつけあがってんじゃねぇよ!!」
冴島さんが椅子を蹴って立ち上がる。彼女の燃えるような視線が真正面から突き刺さった。
(つけあがる? そんなんじゃない。僕は、ここにいる誰より澄斗のことを心配してる。だから冴島さんに文句を言ってるんだ……!!)
だが、そんなことをこの場で言いたくはなかった。
澄斗と過ごした宝物のような時間をこんなところで大っぴらにして、皆の下世話な関心で汚したくはない。
唇を引き結び、ただ無言で睨みつけるだけの僕が自分に屈したと思ったのだろう。
冴島さんは大きなビーズのついた鋭い爪を僕の胸元に突きつけて、さらに声高に言い放つ。
「ずっと返信なかったってことは、どーせこの美魔女と朝までイチャイチャしてたんだよ。やらしーよねぇ? ガッコでは爽やかキャラ気取ってるくせに、まさかこーんなことしてるなんて、ほんとショック。ガッカリだわ」
「っ……違う!! 澄斗はそんなことしてない!!」
「だーかーらー、なんであんたがそんなこと言ってくんのかって聞いてんの!? あのね、あたしは、あんたみたいな冴えないモブが話しかけていい相手じゃねーんだよ!」
冴えないモブに意見されることに我慢がならなかったのだろう。冴島さんが、大きく手を振り上げた。
ああ、僕にビンタを喰わせるつもりなのだ。それがわかっていてもなお、怒りのあまり僕はひどく冷静だった。
手を出したいなら出せばいい。それで気が済むのなら僕を痛めつければいい。
たぶんクラスメイトの皆が、冴島さんがやったことのマズさには気づいているに違いない。だけど、彼女に関わると面倒なことになるとわかっていて言い出せないだけだ。
それに澄斗がママ活をやってるなんてことを頭から信じてる人なんて、絶対にいない。
ぎゅっと目を閉じ歯を食いしばって衝撃に備える。
だけど、引っ叩かれる痛みはいつまでもやってこなかった。
おそるおそる目を開けてみると——……冷ややかな目をした澄斗が、冴島さんの手首を掴んでいた。
盗撮した写真を流し、それをダシにして慰めを得ようとするなんて最低の行為だ。
そもそも、ちゃんと告白してもいないのに、澄斗を悪のように決めつけて、貶めて、自分のプライドを守ろうとするなんて——……!!
「……い、郁也? どうした?」
智の怪訝そうな声が聞こえてくる。きっと僕は、ものすごく憎らしそうな顔で冴島さんを睨みつけているのだろう。
手にしていたスマホを智に押しつけ、僕はつかつかとまっすぐ冴島さんに近づいた。
「何だよ、あの写真」
「……はぁ?」
冴島さんを囲んでいた四人の女子が、僕を見てさっと距離を取った。不審者を見るような視線を頬に感じたが、そんなことはどうでもいい。
そして冴島さんは、突然机の前に現れた僕を下からきつい目つきで睨め上げてくる。普段の僕ならビビって何も言えなくなっていただろう。
だけど僕は溢れかえる怒りを必死で抑えるのに必死で、彼女の目つきに怯えている暇はなかった。
「あの写真、なんなんだよ。どうして澄斗のプライベートを暴くような真似をするんだ?」
「はぁ……? なにこいつ、うざ、あんたには関係ねーだろ」
「おおかた、澄斗が冴島さんの思うようにならなかったから逆恨みして、他人の写真を勝手に撮って大勢が目にする場所に流したんだろ? やり方が姑息で汚いね」
「っ……んだとぉ?」
ギロ……と睨めつけられ、女性の口から出ているとは思えないようなドスの効いた声で凄まれる。
でも僕は彼女から目を逸らさず、続けた。
「あの人が誰だか澄斗に確認取ったのか? 澄斗の交友関係なんて、冴島さんは知らないだろ?」
「LINEで聞いたよ、一応。これひょっとしてママ活ー? って。既読ついたけど返事なかったし、つまりそれって図星ってことじゃん?」
冴島さんは勝ち誇ったような目つきで僕を見上げ、ピンク色のツヤツヤした唇を吊り上げる。
その表情はどこまでも悪辣で、澄斗への想いなど微塵も感じられない。淡いグレーのカラーコンタクトが入った彼女の瞳には、己のプライドを打ち壊した澄斗への復讐心だけが燃えている。
彼女は綺麗だ、澄斗にお似合いだと思った自分をぶん殴りたくなった。
拳が震える。
そんな僕の姿を見てか、ざわざわと教室が不穏にざわめき始めた。
「……ふざけるなよ。冴島さんは卑怯だ。こんな手を使って澄斗を陥れようとするなんて」
「はァ!? 卑怯ってなんだよ!? あんたこそなんのつもり!? なんであたしがあんたみたいなモブに意見されなきゃいけねーんだよ! ちょーっと澄斗に優しくされたくらいでつけあがってんじゃねぇよ!!」
冴島さんが椅子を蹴って立ち上がる。彼女の燃えるような視線が真正面から突き刺さった。
(つけあがる? そんなんじゃない。僕は、ここにいる誰より澄斗のことを心配してる。だから冴島さんに文句を言ってるんだ……!!)
だが、そんなことをこの場で言いたくはなかった。
澄斗と過ごした宝物のような時間をこんなところで大っぴらにして、皆の下世話な関心で汚したくはない。
唇を引き結び、ただ無言で睨みつけるだけの僕が自分に屈したと思ったのだろう。
冴島さんは大きなビーズのついた鋭い爪を僕の胸元に突きつけて、さらに声高に言い放つ。
「ずっと返信なかったってことは、どーせこの美魔女と朝までイチャイチャしてたんだよ。やらしーよねぇ? ガッコでは爽やかキャラ気取ってるくせに、まさかこーんなことしてるなんて、ほんとショック。ガッカリだわ」
「っ……違う!! 澄斗はそんなことしてない!!」
「だーかーらー、なんであんたがそんなこと言ってくんのかって聞いてんの!? あのね、あたしは、あんたみたいな冴えないモブが話しかけていい相手じゃねーんだよ!」
冴えないモブに意見されることに我慢がならなかったのだろう。冴島さんが、大きく手を振り上げた。
ああ、僕にビンタを喰わせるつもりなのだ。それがわかっていてもなお、怒りのあまり僕はひどく冷静だった。
手を出したいなら出せばいい。それで気が済むのなら僕を痛めつければいい。
たぶんクラスメイトの皆が、冴島さんがやったことのマズさには気づいているに違いない。だけど、彼女に関わると面倒なことになるとわかっていて言い出せないだけだ。
それに澄斗がママ活をやってるなんてことを頭から信じてる人なんて、絶対にいない。
ぎゅっと目を閉じ歯を食いしばって衝撃に備える。
だけど、引っ叩かれる痛みはいつまでもやってこなかった。
おそるおそる目を開けてみると——……冷ややかな目をした澄斗が、冴島さんの手首を掴んでいた。
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