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エピローグ
ドキドキにはまだ慣れない
しおりを挟むこれまで平々凡々と過ごしてきた自分の人生とは思えない劇的な変化に、自分でも驚いてしまう。
「選手としてやってくなら身体も作っていかないとだよな。あ、筋トレも教えるよ!」
「筋トレか……。澄斗みたいにいい身体になれたら、確かに速く泳げそうだなぁ」
ちら、ととなりに立つ澄斗のエプロン姿を見やる。
今日は黒いタンクトップにハイビスカス柄の短パンというド派手な格好をしている澄斗だ。
剥き出しの二の腕はほっそりして見えるがしっかりと筋肉が備わっている。
膝頭から伸びるふくらはぎはきゅっと高い位置で締まっていて、足首にかけて流れるように綺麗なラインを描いている。
ハーフパンツで見えないけど、太もももきっと筋肉で締まっているのだろう。肩幅は広いのに腰は細めの逆三角形ボディだ。
男らしくて、綺麗で、こんな肉体を持てたらどんなに誇らしいだろう。心の底から憧れる……
(さすがバレー部のエース候補。つくづく見惚れるほどかっこいい身体だなぁ……)
「……なぁ郁也、どこ見てんの?」
「へ?」
いつしかジロジロと澄斗の全身を眺め回していたらしい。
頬を赤らめた澄斗が、怒ったような笑い出したいような、なんともいえない目つきでこっちを見ていた。
「あっ……ごめん! 澄斗は身体までかっこいいんだなと思って、つい……」
「へっ!? 俺のカラダ……!? え、なに? もっと見たいの?」
澄斗の頬がさらに赤くなり、ちょっと声が低くなる。
僕は慌てて「み、見たいけど……見たいとは言ってない!!」としどろもどろになりながら断りを入れた。
「あははっ、見たいんじゃん。まー……ちょっと恥ずかしいけど、全然いいよ?」
「いい、いい!! まだそんな、そんな、は、裸を見るなんて、心の準備が……」
「裸とは言ってないけどなー。へへ、郁也のえっち」
「っぐ……」
握っていたパスタをパッと大鍋に放りこみながら、澄斗がくすぐったそうな笑みをこぼした。
ううむ、可愛い。
僕よりこんなに大きくてイケメンでかっこいいのに、なんで澄斗はこんなに可愛いのだろう……
きゅぅぅぅうん……と僕の胸を締めつけるときめきとやらに身悶えていると、澄斗がすっと僕にくっついてきた。
「ひゃ……」
「ところで鷹の爪は切れた?」
「あ。うん、一応……」
「お、上手に切れてんじゃん。大きさもいい感じ」
「まあ、これくらいはね」
今日のお昼はシーフードのペペロンチーノだそうだ。
僕はただおっかなびっくり小さな鷹の爪を切っただけだけど、澄斗はエビを剥いてイカを切ってパスタを茹でるなどなど……作業量が全然違って申し訳なくなってしまう。
なので、洗い物は僕の担当だ。
一度は断った料理レッスンだけど、あれからいくつか僕は澄斗から料理を習った。
味噌汁の作り方、魚の焼き方、卵焼きの巻き方などの基本的な和食メニューや、カレーやポトフ、シチューなんかの家庭的な洋食メニュー。
まだまだ完璧とは言えない出来栄えではあるけど、家で披露すれば母さんが大袈裟に喜んで褒めてくれる。
ちょろい僕は褒められるとやる気が出る。なのでちょっとずつ、ちょっとずつやれることが増えてきた。
「郁也、シーフード炒めてみる? 簡単だしさ」
「えっ、大丈夫かな……。せっかくの美味しそうな海鮮が消し炭にならないかな」
「ふはっ、消し炭って! 大丈夫だよ、俺見てるから」
「う、うん……」
腕と腕がくっついたまま、僕は澄斗を見上げて頷いた。
すると澄斗はすでに僕をじっと見つめていたようで、すぐにパチッと目が合った。
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