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番外編③ 郁也視点
BLと澄斗の不安
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「いらっしゃい! わ、甚兵衛じゃん! すげえ可愛い!」
「う、うわ……澄斗こそ」
涼しい家の中に入れてもらい、僕はしげしげと澄斗の全身を見回した。
なんと、澄斗は濃紺の浴衣を身につけている。
それに髪の毛も軽く後ろに流し、額や耳を出していて、綺麗に整った顔がすっきり見えて——……
「わ、うわ……すごい似合う。すごいかっこいい」
「え? そう? そんな褒めてもらえると思わなかったな」
「すごい、モデルさんみたいだ。それになんか色っぽ……」
……と言いかけて、僕は慌てて口をつぐんだ。
(色っぽいなんて、なんか、そんな、下心あるみたいな言い方じゃないか……!!)
ちょっとえっちなシーンのある漫画を読んでしまったせいで、僕の目にはなにか妙なフィルターがかかってしまったのかもしれない……
僕は取り繕うようにニコッと笑い、澄斗と並んでリビングへ向かう。
「郁也の甚兵衛姿、すげー新鮮」
「あ、ありがと。花火行くならこっちのほうがいいでしょって、母さんが用意してくれて……。澄斗のも、すごくかっこいい浴衣だね」
「ああこれ、じいちゃんが昔着てたやつなんだ」
「へぇ、すごいな。物持ちがいいね」
「だよな~」
僕が着ている灰色のペラッとした甚兵衛とは違い、澄斗の浴衣は仕立てが良さそうだ。うっすら縦縞模様が入っているところが渋くて素敵だ。
「おじいさんは一緒に見ないの?」
「今年はな。いつも店の前でコーヒーゼリーとかアイスとか売るんだよ。中学んときは兄貴とその手伝いしてた」
「え!? 今年はいいの? なんなら僕も手伝いに……」
「大丈夫だよ。今年は露店みたいなことはしないで、友達の店で花火酒するらしいから」
「へえ、風流だなぁ……」
澄斗は終始笑顔で僕に氷入りのお茶を入れてくれ、ついでのようにスナック菓子や焼き菓子など、系統もさまざまなおやつを用意してくれた。
今夜は夕飯がてら、僕にたこ焼きを作ってくれるらしい。
ダイニングテーブルにはすでにたこ焼き機とホットプレートが準備されていて、なんだか僕もわくわくしてきた。
「まだちょっと時間あるし、ゲームでもする?」
「……あっ、う、うん」
リビングのソファに座った僕のとなりに、浴衣姿の澄斗が腰を下ろした。
距離が近づくと、それだけでドキドキする。甚兵衛の裾から剥き出しになった膝小僧を手のひらで覆いつつ、僕は暴れ回る胸をなんとか宥めようと細長く息を吐いた。
「あのさ、郁也」
「ん!? な、なに!?」
「その……俺、いきなり手出したりしないからさ、もっとリラックスしてくれてて大丈夫だよ」
「へ!?」
——澄斗は僕の心が読めるのか……!? と、驚愕する。そんな僕の顔を見て、澄斗は眉尻を下げて苦笑した。
「あ、図星? やっぱ緊張してただろ」
「い、いや、別に、そういうわけじゃ……」
「郁也はわかりやすいからな~。……てか俺、そんなにガツガツした空気出てる?」
「そ、そういわけじゃないんだけど、ちょっと読書の影響で、」
「読書って?」
しまった、また言わなくてもいいことを言ってしまった……
俯き、己の失言を悔いて唇を噛み締めていると、澄斗が身を屈めて僕の顔を覗き込んでくる。
「何読んだの? ……あ、まさかBL?」
「っぐ……!? な、なんでわかったの!?」
「あはっ、また当たっちゃった」
「ぐう……」
「いや、こないだ田辺さんに何か借りてんの見たからさ。あの子、たまに女子同士でBLがどうとか喋ってんの聞いたことあるし」
視野が広いと言うかなんというか……小学校から同じ学び舎にいた僕よりも彼女のことをさりげなく知っているなんて。
びっくりするやら感心するやらで澄斗をぽかんと見上げていると、澄斗はふっと微笑んだ。
「俺もたまに読むよ。今後の参考になるかなーって」
「え!? す、澄斗も……?」
「うん。いいよな、BL。夢と希望が溢れてる」
「う、うん……」
ちょっとえっちすぎるところもあるけど……と心の中で付け加えつつ、僕はこくりと頷いた。
「でも、郁也とうまく絡めなかったときにああいうの読んでたら、ちょーっと腹立ったんだよね。こんなうまくいかねーだろって」
「そ、そうなんだ……」
「でも今は、こうして郁也と付き合えてるわけだし。俺にもハッピーエンドが用意されてたのかと思うと、嬉しいけどね」
「ハッピーエンド……って、しっくりこなくない? だって、僕らはこれから始まるわけだから」
なにげなくそう答えると、澄斗がふと真顔になった。
あれ? 僕はなにかまた変なことを言ってしまったのかな?
「ん? なにか違う?」
「……違わない。全っ然違わない! 抱きしめてもいい?」
「えっ? と、唐突になにを…………いいけど」
頬を赤らめながら頷くと、すぐさま澄斗の腕の中に閉じ込められた。
顔を埋めた澄斗の浴衣からは、いつもの匂いとは違う香りがする。だけどその奥にはやっぱり、僕を落ち着かせる澄斗の匂いがした。
大きな手が僕の背中を愛おしげに撫で、澄斗のため息が僕の耳元を甘くくすぐった。
「……そうだよな。俺たち、これから始まるんだ」
「う、うん……そうだよ」
「そんなふうに思ってもらえて嬉しいな。なんかさ、俺、まだちょっと怖いんだ」
「え!? な、なにが?」
びっくりして澄斗の顔を見ようとしたが、その腕はびくともしない。
もぞもぞと腕の中で身じろぎする僕を、澄斗はいっそう強い力で抱きすくめた。
「郁也が、ふと我に返ったらどうしようって」
「我に返る?」
「俺ががっついて付き合ってもらえたはいいけど、やっぱり女の子のほうが可愛いじゃんって思ったり。男と付き合ってるなんておかしいんじゃないかって思われたら……って」
「澄斗……」
僕は澄斗の背中を軽く叩き、なんとかして顔を見上げた。
額が露わになっているから、かすかに寄った眉間の皺や不安そうに揺らめく栗色の瞳がいつもよりはっきり見える。
「う、うわ……澄斗こそ」
涼しい家の中に入れてもらい、僕はしげしげと澄斗の全身を見回した。
なんと、澄斗は濃紺の浴衣を身につけている。
それに髪の毛も軽く後ろに流し、額や耳を出していて、綺麗に整った顔がすっきり見えて——……
「わ、うわ……すごい似合う。すごいかっこいい」
「え? そう? そんな褒めてもらえると思わなかったな」
「すごい、モデルさんみたいだ。それになんか色っぽ……」
……と言いかけて、僕は慌てて口をつぐんだ。
(色っぽいなんて、なんか、そんな、下心あるみたいな言い方じゃないか……!!)
ちょっとえっちなシーンのある漫画を読んでしまったせいで、僕の目にはなにか妙なフィルターがかかってしまったのかもしれない……
僕は取り繕うようにニコッと笑い、澄斗と並んでリビングへ向かう。
「郁也の甚兵衛姿、すげー新鮮」
「あ、ありがと。花火行くならこっちのほうがいいでしょって、母さんが用意してくれて……。澄斗のも、すごくかっこいい浴衣だね」
「ああこれ、じいちゃんが昔着てたやつなんだ」
「へぇ、すごいな。物持ちがいいね」
「だよな~」
僕が着ている灰色のペラッとした甚兵衛とは違い、澄斗の浴衣は仕立てが良さそうだ。うっすら縦縞模様が入っているところが渋くて素敵だ。
「おじいさんは一緒に見ないの?」
「今年はな。いつも店の前でコーヒーゼリーとかアイスとか売るんだよ。中学んときは兄貴とその手伝いしてた」
「え!? 今年はいいの? なんなら僕も手伝いに……」
「大丈夫だよ。今年は露店みたいなことはしないで、友達の店で花火酒するらしいから」
「へえ、風流だなぁ……」
澄斗は終始笑顔で僕に氷入りのお茶を入れてくれ、ついでのようにスナック菓子や焼き菓子など、系統もさまざまなおやつを用意してくれた。
今夜は夕飯がてら、僕にたこ焼きを作ってくれるらしい。
ダイニングテーブルにはすでにたこ焼き機とホットプレートが準備されていて、なんだか僕もわくわくしてきた。
「まだちょっと時間あるし、ゲームでもする?」
「……あっ、う、うん」
リビングのソファに座った僕のとなりに、浴衣姿の澄斗が腰を下ろした。
距離が近づくと、それだけでドキドキする。甚兵衛の裾から剥き出しになった膝小僧を手のひらで覆いつつ、僕は暴れ回る胸をなんとか宥めようと細長く息を吐いた。
「あのさ、郁也」
「ん!? な、なに!?」
「その……俺、いきなり手出したりしないからさ、もっとリラックスしてくれてて大丈夫だよ」
「へ!?」
——澄斗は僕の心が読めるのか……!? と、驚愕する。そんな僕の顔を見て、澄斗は眉尻を下げて苦笑した。
「あ、図星? やっぱ緊張してただろ」
「い、いや、別に、そういうわけじゃ……」
「郁也はわかりやすいからな~。……てか俺、そんなにガツガツした空気出てる?」
「そ、そういわけじゃないんだけど、ちょっと読書の影響で、」
「読書って?」
しまった、また言わなくてもいいことを言ってしまった……
俯き、己の失言を悔いて唇を噛み締めていると、澄斗が身を屈めて僕の顔を覗き込んでくる。
「何読んだの? ……あ、まさかBL?」
「っぐ……!? な、なんでわかったの!?」
「あはっ、また当たっちゃった」
「ぐう……」
「いや、こないだ田辺さんに何か借りてんの見たからさ。あの子、たまに女子同士でBLがどうとか喋ってんの聞いたことあるし」
視野が広いと言うかなんというか……小学校から同じ学び舎にいた僕よりも彼女のことをさりげなく知っているなんて。
びっくりするやら感心するやらで澄斗をぽかんと見上げていると、澄斗はふっと微笑んだ。
「俺もたまに読むよ。今後の参考になるかなーって」
「え!? す、澄斗も……?」
「うん。いいよな、BL。夢と希望が溢れてる」
「う、うん……」
ちょっとえっちすぎるところもあるけど……と心の中で付け加えつつ、僕はこくりと頷いた。
「でも、郁也とうまく絡めなかったときにああいうの読んでたら、ちょーっと腹立ったんだよね。こんなうまくいかねーだろって」
「そ、そうなんだ……」
「でも今は、こうして郁也と付き合えてるわけだし。俺にもハッピーエンドが用意されてたのかと思うと、嬉しいけどね」
「ハッピーエンド……って、しっくりこなくない? だって、僕らはこれから始まるわけだから」
なにげなくそう答えると、澄斗がふと真顔になった。
あれ? 僕はなにかまた変なことを言ってしまったのかな?
「ん? なにか違う?」
「……違わない。全っ然違わない! 抱きしめてもいい?」
「えっ? と、唐突になにを…………いいけど」
頬を赤らめながら頷くと、すぐさま澄斗の腕の中に閉じ込められた。
顔を埋めた澄斗の浴衣からは、いつもの匂いとは違う香りがする。だけどその奥にはやっぱり、僕を落ち着かせる澄斗の匂いがした。
大きな手が僕の背中を愛おしげに撫で、澄斗のため息が僕の耳元を甘くくすぐった。
「……そうだよな。俺たち、これから始まるんだ」
「う、うん……そうだよ」
「そんなふうに思ってもらえて嬉しいな。なんかさ、俺、まだちょっと怖いんだ」
「え!? な、なにが?」
びっくりして澄斗の顔を見ようとしたが、その腕はびくともしない。
もぞもぞと腕の中で身じろぎする僕を、澄斗はいっそう強い力で抱きすくめた。
「郁也が、ふと我に返ったらどうしようって」
「我に返る?」
「俺ががっついて付き合ってもらえたはいいけど、やっぱり女の子のほうが可愛いじゃんって思ったり。男と付き合ってるなんておかしいんじゃないかって思われたら……って」
「澄斗……」
僕は澄斗の背中を軽く叩き、なんとかして顔を見上げた。
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