【完結】お供え喫茶で願いごと

餡玉(あんたま)

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友情?

3 ナンパ!?……なわけないか

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 若い男の声がして、明美ははっと我に返った。
 思わず顔を上げると、そこにはバイト先の高校生たちと同じ年頃に見える少年がいた。明美と同じ姿勢でしゃがみこみ、心配そうに顔を覗き込んでいる。

 ——ひぃ、イケメン……!
 
「ゃ、あ、あの、いえ、別にそういうわけじゃなくて……」

 顔貌が整っている人々への劣等感がこんなところでも顔を出し、頬がカッと熱くなる。距離を取るために勢いよく立ちあがろうとした拍子に、握りしめていたスマホが手からつるりと飛び出して、道路の上でカツンと跳ねた。
 
 ああやってしまった、恥ずかしいところを見せてしまったと二重に恥を感じながら道路に手を伸ばす。
 
 そのとき、足元に広がる黒い影がにゅるりと不気味に震えたように見えて、明美はふと手を止めた。
 その隙をつくように少年の白い手がひょいとスマホを拾い上げ、すっと明美に手渡した。

「あ、あ、ありがとう、ございます……」
「お姉さん、顔色悪いよ。……あんまり思い詰めないほうがいいんじゃない?」

 画面にヒビが入っていないことを確認し安堵していた明美に、少年が静かな声でそう言った。

 見上げた少年の顔はやはり驚くほど綺麗に整っていて、目が離せなくなった。

 端整なだけでなく、肌もすごく綺麗だ。街灯の白い灯りに透けてしまいそうなほどきめが細かくて、儚くも見えるけれどしっかりと芯がありそうな強い目をしている。

 その瞳の色は、日本人とは思えないほど明るい栗色をしていて、さらに目を引いた。

「気分が悪いなら、そこの店で休んで行かない?」
「…………え?」

 ——え? まさかのナンパ? いやまさか、私みたいな地味で冴えない女をこんなイケメンがナンパするわけ……。

 うん、ナンパなわけがない。そうだ、きっとこの子、金銭を巻き上げる目的で、仲間のいる店に私を連れこもうとしてるんだ——……思考を調整している明美に、少年は小さく笑みを浮かべてみせた。

 そして、トントンと自分の目の下を指で叩く。

「すっごいクマ。あんま眠れてないんじゃない?」
「あ……い、いえ。そんなことは……あの私、もう失礼して……」

 思わず走り出しかけたそのとき、ぐらりとめまいが襲ってきた。
 すると、咄嗟のように伸びてきた少年の腕が明美の肩をしっかりと支えてくれた。

 だが他人に、しかも異性に触れられる機会など生まれて初めてだった明美は、「うわっ!! す、すみません!!」と大慌てで少年を突き飛ばす勢いでするりと逃れ、無機質な街灯のポールにしがみつく。
  
 とはいえ、それは少年の言う通りだ。
 美玲のことで思い詰めるようになってからこっち、疲れていても頭ばかりが冴えてしまい、うまく眠れなくなってしまった。

 ぎゅっと目を閉じ、なんとかこの少年の前から華麗に立ち去るすべを考えていると、少年が首を傾げて苦笑した。

「あ、あのさ……店っていっても、変な店じゃなくて。ほら、そこの喫茶店」
「……喫茶店?」

 ここはほぼ毎日通る道だ。寂れた商店街を抜けると、その先に続くのは古い民家を寄せ集めたような住宅街。ブロック塀が延々と続くだけの道に、喫茶店なんかあったっけ……? と怪訝に思いつつも、少年が指差す方向へ視線を向けると——ある。

 レトロで可愛らしい雰囲気の喫茶店だ。色ガラスのはまった窓から漏れる柔らかな光が、数メートルの道路をぼんやりと照らしている。

「あんなところに……?」
「俺、あそこでバイトしてるんだ。あったかいものでも飲んで、少し休んでから家に帰ったほうがいいんじゃない?」

 少年はそう言って、さらさらの黒髪を揺らしてにっこり笑う。

 彼の吐く息が白く烟るのを見て、今日は朝から極寒だったことを思い出す。
 なのに明美ときたら、長袖の薄いTシャツに綿のズボン、そして何年も着続けて生地がすっかり薄くなったウールのコートを羽織っただけ。バイトに行くだけだからとたかを括っていたけれど、寒くて手がかじかんでいる。スマホを落とすわけだ。

「……じゃ、じゃあ、一杯だけ……」
「うん、そうしたほうがいい。行きましょう!」

 少年の明るい笑顔があまりに眩しい。
 笑いかけてもらえるのが嬉しくて、明美はつられてへらりと笑った。
 
 
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