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友情?
6 芸術の神様……!?
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「ほう、うまそうじゃないか。いただくぞ」
「あ、はい……どうぞ……」
私が作ったわけじゃないけど……と思いつつ、こくりと頷く。パンク女性は舌なめずりをしながら器用にハンバーガーを持ち上げると、ちょっとびっくりしてしまうほど大きな口でがぶりとハンバーガーにかぶりついた。
女性の唇の端から肉汁とソースが滴る。決して行儀がいいとはいえない行動だけど、形のいい細身の唇を艶めかせる様子はなんだか妙に色っぽく、明美はなんとなく目を逸らした。
「うん、うん…………うまい!! こりゃうまい」
「は、はあ……ですよね。見るからに美味しそうで……」
「で? 願いはなんだ?」
「——はい?」
不意打ちで訳のわからない問いを投げかけられ、明美はきょとんとして彼女を見つめた。
「願い……というのは……?」
「願いは願いだ。そなた、何か叶えたい願いがあるからここにいるのだろう?」
「へ……?」
——叶えたい願い? 願い……って……。
あまりに唐突な申し出だ。だが、ふと頭に浮かんだことは……ある。
美玲の顔、SNSの画面、明美が描いた大事なイラストたちがぐるりと脳裡をめぐるが——……明美はぶんぶん頭を振り、戸惑いがちに女性を見つめた。
「……ね、願いって。どうしてそんなこと聞くんですか?」
「わしの名はクサノシラツメ。芸術を司る神のひとりよ」
「芸術を司る神……? え? 神……?」
「ああ、そうだ。樹貴と五十鈴から聞いておらんのか?」
「いえ、何も……」
「全く」
チラリとカウンターのほうを見やるも、相変わらず樹貴と五十鈴は忙しそうだ。樹貴はフロアに出てボックス席の客と何やら談笑しているし、五十鈴は五つあるサイフォンを相手に素早く手を動かしている。クサノシラツメと名乗ったパンク女性は残りのハンバーガーをバクバクと小気味よい勢いで平らげて、ぐびぐびと喉を鳴らしてお冷を飲み干した。
「そなた、翳に喰われそうになるほど思い悩んでいることがあるのだろう」
「かげ……。ああ、さっきあのお二人が何か言っていたような」
「翳というのはな、昏き人の心に引き寄せられてやってくる。あれに呑まれてしまうと、そなたはそなたではいられなくなるのだ」
「それって……人格が変わっちゃうとか、そういう意味ですか?」
「まあ、そういう解釈で間違いない」
クサノシラツメは頬杖をついて、親指で男らしく唇を拭った。とても様になっていてかっこいいし、落ち着いて話をしてくれる姿は、初対面でのときに感じた恐ろしさは鳴りをひそめている。
思い当たる節がありすぎて、明美は俯いてテーブルを見つめた。普段の自分なら絶対に考えないような恐ろしい考え頭に浮かんだのだ。あのままもし樹貴に声をかけられなかったら、いったいどういう行動に出ていたかわからない。
ゾッとした明美は自らを抱きしめるように両腕を摩った。
そんな明美を、クサノシラツメが無表情に見つめている。
「で? 願いはなんだ」
「あ……」
「翳を呼ぶほど呪わしいことがあるのだろう。そういう呪いを人界に蔓延らせないよう務めるのも神の仕事だ」
「……そ、そうなんですか?」
「——と、五十鈴に言われて仕方なくやってる仕事だがな」
「五十鈴……さん。あの、マスターの人ですよね」
「ますたあ?」
「あ、えーと。店主さん、ってことです」
「ほう、なるほど。ますたあ、か。洒落た言葉だ」
クサノシラツメは興味深そうに頷いた。神様の世界にない言葉を知って楽しげな顔をするあたり、人間に興味があるのだろう。それがなんとなく微笑ましくて、明美は小さく微笑んだ。
「そなたはわしに供物を捧げた。よって、そなたの願いをひとつ聞いてやる」
「供物……ああ、あの美味しそうなハンバーガー」
「ほう、あれはハンバアガアというのか。以前人間が食しているのをみてな、関心があったのだ」
腕組みをしてうむうむと頷くクサノシラツメの向かいで、同じように明美も腕組みをした。
——願い、か……。私、美玲のことをどうしたいと思ってるんだろう……。
答えが出せないでいると、樹貴がカウターからひらひらと手を振っているのが見えた。明美の視線の動きに気づいたらしいクサノシラツメはチラリと樹貴を振り返り、静かな声でこう言った。
「この店を出るまでに、胸の中で願いを唱えよ。わしはそれを聞き入れる」
「へ……なんでも? なんかこう……審査みたいなのはないんですか?」
「審査か。そなたにそんなものは必要ないように思うがな」
クサノシラツメは紫色の唇を引き締めるようにして、初めてうっすら微笑んだ。
およそ神様らしくない派手な格好をしていても、微笑みを浮かべた彼女の姿は驚くほど神々しい。まるで全身が淡く発光しているようにすら見える。
明美は立ち上がってぺこりと頭を下げ、カウンターへいそいそと戻った。
「あ、はい……どうぞ……」
私が作ったわけじゃないけど……と思いつつ、こくりと頷く。パンク女性は舌なめずりをしながら器用にハンバーガーを持ち上げると、ちょっとびっくりしてしまうほど大きな口でがぶりとハンバーガーにかぶりついた。
女性の唇の端から肉汁とソースが滴る。決して行儀がいいとはいえない行動だけど、形のいい細身の唇を艶めかせる様子はなんだか妙に色っぽく、明美はなんとなく目を逸らした。
「うん、うん…………うまい!! こりゃうまい」
「は、はあ……ですよね。見るからに美味しそうで……」
「で? 願いはなんだ?」
「——はい?」
不意打ちで訳のわからない問いを投げかけられ、明美はきょとんとして彼女を見つめた。
「願い……というのは……?」
「願いは願いだ。そなた、何か叶えたい願いがあるからここにいるのだろう?」
「へ……?」
——叶えたい願い? 願い……って……。
あまりに唐突な申し出だ。だが、ふと頭に浮かんだことは……ある。
美玲の顔、SNSの画面、明美が描いた大事なイラストたちがぐるりと脳裡をめぐるが——……明美はぶんぶん頭を振り、戸惑いがちに女性を見つめた。
「……ね、願いって。どうしてそんなこと聞くんですか?」
「わしの名はクサノシラツメ。芸術を司る神のひとりよ」
「芸術を司る神……? え? 神……?」
「ああ、そうだ。樹貴と五十鈴から聞いておらんのか?」
「いえ、何も……」
「全く」
チラリとカウンターのほうを見やるも、相変わらず樹貴と五十鈴は忙しそうだ。樹貴はフロアに出てボックス席の客と何やら談笑しているし、五十鈴は五つあるサイフォンを相手に素早く手を動かしている。クサノシラツメと名乗ったパンク女性は残りのハンバーガーをバクバクと小気味よい勢いで平らげて、ぐびぐびと喉を鳴らしてお冷を飲み干した。
「そなた、翳に喰われそうになるほど思い悩んでいることがあるのだろう」
「かげ……。ああ、さっきあのお二人が何か言っていたような」
「翳というのはな、昏き人の心に引き寄せられてやってくる。あれに呑まれてしまうと、そなたはそなたではいられなくなるのだ」
「それって……人格が変わっちゃうとか、そういう意味ですか?」
「まあ、そういう解釈で間違いない」
クサノシラツメは頬杖をついて、親指で男らしく唇を拭った。とても様になっていてかっこいいし、落ち着いて話をしてくれる姿は、初対面でのときに感じた恐ろしさは鳴りをひそめている。
思い当たる節がありすぎて、明美は俯いてテーブルを見つめた。普段の自分なら絶対に考えないような恐ろしい考え頭に浮かんだのだ。あのままもし樹貴に声をかけられなかったら、いったいどういう行動に出ていたかわからない。
ゾッとした明美は自らを抱きしめるように両腕を摩った。
そんな明美を、クサノシラツメが無表情に見つめている。
「で? 願いはなんだ」
「あ……」
「翳を呼ぶほど呪わしいことがあるのだろう。そういう呪いを人界に蔓延らせないよう務めるのも神の仕事だ」
「……そ、そうなんですか?」
「——と、五十鈴に言われて仕方なくやってる仕事だがな」
「五十鈴……さん。あの、マスターの人ですよね」
「ますたあ?」
「あ、えーと。店主さん、ってことです」
「ほう、なるほど。ますたあ、か。洒落た言葉だ」
クサノシラツメは興味深そうに頷いた。神様の世界にない言葉を知って楽しげな顔をするあたり、人間に興味があるのだろう。それがなんとなく微笑ましくて、明美は小さく微笑んだ。
「そなたはわしに供物を捧げた。よって、そなたの願いをひとつ聞いてやる」
「供物……ああ、あの美味しそうなハンバーガー」
「ほう、あれはハンバアガアというのか。以前人間が食しているのをみてな、関心があったのだ」
腕組みをしてうむうむと頷くクサノシラツメの向かいで、同じように明美も腕組みをした。
——願い、か……。私、美玲のことをどうしたいと思ってるんだろう……。
答えが出せないでいると、樹貴がカウターからひらひらと手を振っているのが見えた。明美の視線の動きに気づいたらしいクサノシラツメはチラリと樹貴を振り返り、静かな声でこう言った。
「この店を出るまでに、胸の中で願いを唱えよ。わしはそれを聞き入れる」
「へ……なんでも? なんかこう……審査みたいなのはないんですか?」
「審査か。そなたにそんなものは必要ないように思うがな」
クサノシラツメは紫色の唇を引き締めるようにして、初めてうっすら微笑んだ。
およそ神様らしくない派手な格好をしていても、微笑みを浮かべた彼女の姿は驚くほど神々しい。まるで全身が淡く発光しているようにすら見える。
明美は立ち上がってぺこりと頭を下げ、カウンターへいそいそと戻った。
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