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友情?
10 初めての感情
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——なんだろう……尊すぎて、さっきから胸が苦しい。
この二人は、ただの店主とバイトじゃない。
お互いに、なくてはならない存在なのだ。
怒りに我を忘れ、禍ツ神に堕ちていた五十鈴。
悪神の生贄として差し出された樹貴。
五十鈴は樹貴を癒すことで、神としての自分を取り戻した。
普通の人間には理解し得ない世界の中で、悠久に近い年月を、これからもふたりで寄り添って生きていくのだろう。
——なに、なんなのこの胸の高鳴り……。このお二人が愛おしいというか、切ないというか、なんだかよくわかんないけど、胸がいっぱいで今にも泣きそう……。
明美はごしごしと目をこすり、ぐすっと鼻をすすった。
「うう……はぁ……胸が苦しい……」
「ん? どうした、具合が悪いのか?」
「い、いえ! むしろこんなに体調がいいのは生まれて初めてで……!」
「? そうか、ならばよい」
「あれ? ふたりで何話してたの?」
とそこへ、樹貴が銀色の盆を片手にカウンターに戻ってきた。
「なんでもない」とそっけないことを言う五十鈴と、なんだか胸がつかえて言葉の出ない明美を、樹貴が首を傾げて交互に見比べる。
ふたりが肩を並べてそこに立っているだけで、明美はなぜだか泣きたいような気持ちになるのだ。
これまでに感じたことのない熱い感情が胸の中をぐるぐると駆け巡る。明美はぎゅっと拳を握ってふたりのすがたを眼球に焼き付ける。
夢から覚めても、この素晴らしい感情を忘れませんように——と、強く胸の中で願いながら。
「さて、もう夜も遅い。樹貴、彼女を家まで送って差し上げろ」
「ああ……ほんとだ。ごめんね、こんな遅くまで」
「いえいえとんでもないです! むしろありがとうございます。すごく大切なお話を聞かせてもらっちゃって……」
「大切な話?」
樹貴が小首を傾げて五十鈴を見上げる。すると五十鈴は樹貴の視線を受け止めて、「こちらのお嬢さんが話し相手になって欲しそうだったから、お前の食い意地のすごさについて話して差し上げたんだ」と言った。
「えー!? 俺、そんなに食い意地張ってる!?」
「張ってるだろ、かなり」
「そうかぁ? ま、でもそのおかげで『結』のメニューは常に充実してるわけだから、別に悪いことじゃないだろ?」
「悪いとは言ってない。俺は、お前が美味そうに食べてるところを見るのが好きだからな」
「そうだろ?」
——え、ちょ、ちょ……ここへきて畳み掛けるように尊い会話が……。
当たり前に交わされるふたりの会話を聞いているだけで、またしてもぎゅう~っと胸を引き絞られるような感覚に陥った。
五十鈴はツンデレかと思っていたが全然そんなことはなかった。クールな顔をして、ごく普通に明美という他人の前でデレているところを見ると、日頃から思ったことは素直に樹貴に伝えているのだろう。
樹貴のほうも、照れる様子もなく五十鈴のデレを受け止めてニコニコしている。普段はもっと巨大なデレを湯水のように浴びながら暮らしているのかも……。
「うぐ、うぐぐ……すみません、帰ります……。今日は本当に、本当にありがとうございました!」
「あ、待って! 送ってくから」
「い、いえいえお気遣いな……」
明美はささっと薄いコートを羽織り、コソ泥のようにバックを抱えて椅子から立ち上がった。だが、無駄に急いだせいで背の高い椅子の足に脚を引っ掛けてしまった。
後ろにひっくり返りながら洒落た天井を見上げ、明美はふと考えた。
——あれ? 私、いったい何に悩んでたんだっけ?
この二人は、ただの店主とバイトじゃない。
お互いに、なくてはならない存在なのだ。
怒りに我を忘れ、禍ツ神に堕ちていた五十鈴。
悪神の生贄として差し出された樹貴。
五十鈴は樹貴を癒すことで、神としての自分を取り戻した。
普通の人間には理解し得ない世界の中で、悠久に近い年月を、これからもふたりで寄り添って生きていくのだろう。
——なに、なんなのこの胸の高鳴り……。このお二人が愛おしいというか、切ないというか、なんだかよくわかんないけど、胸がいっぱいで今にも泣きそう……。
明美はごしごしと目をこすり、ぐすっと鼻をすすった。
「うう……はぁ……胸が苦しい……」
「ん? どうした、具合が悪いのか?」
「い、いえ! むしろこんなに体調がいいのは生まれて初めてで……!」
「? そうか、ならばよい」
「あれ? ふたりで何話してたの?」
とそこへ、樹貴が銀色の盆を片手にカウンターに戻ってきた。
「なんでもない」とそっけないことを言う五十鈴と、なんだか胸がつかえて言葉の出ない明美を、樹貴が首を傾げて交互に見比べる。
ふたりが肩を並べてそこに立っているだけで、明美はなぜだか泣きたいような気持ちになるのだ。
これまでに感じたことのない熱い感情が胸の中をぐるぐると駆け巡る。明美はぎゅっと拳を握ってふたりのすがたを眼球に焼き付ける。
夢から覚めても、この素晴らしい感情を忘れませんように——と、強く胸の中で願いながら。
「さて、もう夜も遅い。樹貴、彼女を家まで送って差し上げろ」
「ああ……ほんとだ。ごめんね、こんな遅くまで」
「いえいえとんでもないです! むしろありがとうございます。すごく大切なお話を聞かせてもらっちゃって……」
「大切な話?」
樹貴が小首を傾げて五十鈴を見上げる。すると五十鈴は樹貴の視線を受け止めて、「こちらのお嬢さんが話し相手になって欲しそうだったから、お前の食い意地のすごさについて話して差し上げたんだ」と言った。
「えー!? 俺、そんなに食い意地張ってる!?」
「張ってるだろ、かなり」
「そうかぁ? ま、でもそのおかげで『結』のメニューは常に充実してるわけだから、別に悪いことじゃないだろ?」
「悪いとは言ってない。俺は、お前が美味そうに食べてるところを見るのが好きだからな」
「そうだろ?」
——え、ちょ、ちょ……ここへきて畳み掛けるように尊い会話が……。
当たり前に交わされるふたりの会話を聞いているだけで、またしてもぎゅう~っと胸を引き絞られるような感覚に陥った。
五十鈴はツンデレかと思っていたが全然そんなことはなかった。クールな顔をして、ごく普通に明美という他人の前でデレているところを見ると、日頃から思ったことは素直に樹貴に伝えているのだろう。
樹貴のほうも、照れる様子もなく五十鈴のデレを受け止めてニコニコしている。普段はもっと巨大なデレを湯水のように浴びながら暮らしているのかも……。
「うぐ、うぐぐ……すみません、帰ります……。今日は本当に、本当にありがとうございました!」
「あ、待って! 送ってくから」
「い、いえいえお気遣いな……」
明美はささっと薄いコートを羽織り、コソ泥のようにバックを抱えて椅子から立ち上がった。だが、無駄に急いだせいで背の高い椅子の足に脚を引っ掛けてしまった。
後ろにひっくり返りながら洒落た天井を見上げ、明美はふと考えた。
——あれ? 私、いったい何に悩んでたんだっけ?
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