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ある日の昼下がり。身の震えるような寒さの時間が減り、穏やかな日差しが欠伸を誘うような、そんな午後のこと。
「公女様、お手紙が届いてますよ」
リエッタがそう言って、封筒を差し出してくる。金色の封筒に赤の結び紐、そして太陽の紋章。見るからに仰々しいそれは、言うまでもなく皇室からの手紙だった。
「もうすぐ、デュクセル殿下の誕生祭だものね」
嫌でもヴァージルと遭遇してしまう可能性の高い日だ。だからと言って、行かない訳にもいかない。それが招待された帝国民の義務だからだ。
そして、帝国では15歳を成人として扱い、15歳になるとパーティに参加する際にはパートナーが必要になる。
今まで、私がヴァージルのパートナーを務めていたが、疎遠になった今、私を選ぶはずがない。きっと向こうも、私が避けていることに気付いているだろうから。
私はまだ13歳だから、お父様とお母様にくっついて行けばいいのだわ。
それに……今まではヴァージルのパートナーとして、服の色を合わせたりしてたけど、その必要もない。自分の好きなドレスを着ていいのだ。
「リエッタ!ヤン夫人をお呼びして!」
私は目を輝かせてリエッタに指示を出す。
「はい!ただいま!」
彼女は私の勢いに押され、パタパタと部屋を出ていく。
好きなドレスを着れると分かった瞬間、新しいドレスを作りたくなってしまったのだ。
何色にしようか、どんな生地を使おうか、装飾はどうしようか……。
(はあ、早くヤン夫人にお会いしたいわ!)
翌日、応接間には、ヤン夫人と10体のトルソーが用意されていた。
リエッタから連絡を受けた夫人が、昨日のうちから相当急いで準備を進めてくれていたらしい。誕生祭まで1ヶ月を切っているから無理もない。
「さぁ、公女様、どれをベースにいたしましょうか」
ヤン夫人は、形から色までそれぞれのドレスを仮縫いして用意してくれた。
「そうですね……」
うーんと顎に手を置く。いつもはヴァージルの瞳の色に合わせて、それに合う色の服を着ることが多かった。
あの真っ青な瞳の____
「……赤やオレンジはどうかしら」
「あ、赤!?」
ヤン夫人は驚いて目を見開く。今まで彼女に赤いドレスを作ってもらったことは無かった。
「し、しかし、それだと……」
おそらく彼女が気にしているのはヴァージルのことだ。彼が赤を選ぶことは、絶対にないから。
「いいのよ、私、皇子にエスコートされる予定がないから」
「ええっ!?」
あの公女様が!?とヤン夫人は後退る。余程衝撃だったのか、続く言葉もなく口をパクパクと動かしている。
そりゃあそうだ。彼女にはいつも、「殿下が〇色だから…」「殿下からこの色のプレゼントをいただいたから……」と、ヴァージルファーストのリクエストをしてきた。
そんな私が、急にそれを辞めたのだから、驚いて当然だ。
「うん、赤がいいわ。あんまりフリフリし過ぎないで、タイトなものが___」
「こ、公女様?」
ハッと、自分の今の体型を思い出す。
前世の終盤に着ていた大人びたドレスは、この体にはまだ似合わないだろう。
「え、えっと……で、デザインはヤン夫人に任せるわ!」
「……左様でございますか、お任せ下さい……」
まだ頭の上にひよこでも飛んでいそうな夫人が、細々と声を出す。
……なんだか、誰よりも驚いてる気がするわ。
夫人を見送って、私も部屋に戻る。
私の後ろで、リエッタが何故かニコニコと微笑んでいた。
「どうしたの?」
「いえ、公女様が赤いドレスをお召しになるのは凄く珍しいので、どれほど美しいか今から楽しみです!」
「まったく、褒めても何も出ないわよ」
やれやれと息を吐き、頬杖をつく。しかし、心の奥では少しワクワクしていた。
案外、赤は似合うかもしれない――そんな予感がするのだった。
「公女様、お手紙が届いてますよ」
リエッタがそう言って、封筒を差し出してくる。金色の封筒に赤の結び紐、そして太陽の紋章。見るからに仰々しいそれは、言うまでもなく皇室からの手紙だった。
「もうすぐ、デュクセル殿下の誕生祭だものね」
嫌でもヴァージルと遭遇してしまう可能性の高い日だ。だからと言って、行かない訳にもいかない。それが招待された帝国民の義務だからだ。
そして、帝国では15歳を成人として扱い、15歳になるとパーティに参加する際にはパートナーが必要になる。
今まで、私がヴァージルのパートナーを務めていたが、疎遠になった今、私を選ぶはずがない。きっと向こうも、私が避けていることに気付いているだろうから。
私はまだ13歳だから、お父様とお母様にくっついて行けばいいのだわ。
それに……今まではヴァージルのパートナーとして、服の色を合わせたりしてたけど、その必要もない。自分の好きなドレスを着ていいのだ。
「リエッタ!ヤン夫人をお呼びして!」
私は目を輝かせてリエッタに指示を出す。
「はい!ただいま!」
彼女は私の勢いに押され、パタパタと部屋を出ていく。
好きなドレスを着れると分かった瞬間、新しいドレスを作りたくなってしまったのだ。
何色にしようか、どんな生地を使おうか、装飾はどうしようか……。
(はあ、早くヤン夫人にお会いしたいわ!)
翌日、応接間には、ヤン夫人と10体のトルソーが用意されていた。
リエッタから連絡を受けた夫人が、昨日のうちから相当急いで準備を進めてくれていたらしい。誕生祭まで1ヶ月を切っているから無理もない。
「さぁ、公女様、どれをベースにいたしましょうか」
ヤン夫人は、形から色までそれぞれのドレスを仮縫いして用意してくれた。
「そうですね……」
うーんと顎に手を置く。いつもはヴァージルの瞳の色に合わせて、それに合う色の服を着ることが多かった。
あの真っ青な瞳の____
「……赤やオレンジはどうかしら」
「あ、赤!?」
ヤン夫人は驚いて目を見開く。今まで彼女に赤いドレスを作ってもらったことは無かった。
「し、しかし、それだと……」
おそらく彼女が気にしているのはヴァージルのことだ。彼が赤を選ぶことは、絶対にないから。
「いいのよ、私、皇子にエスコートされる予定がないから」
「ええっ!?」
あの公女様が!?とヤン夫人は後退る。余程衝撃だったのか、続く言葉もなく口をパクパクと動かしている。
そりゃあそうだ。彼女にはいつも、「殿下が〇色だから…」「殿下からこの色のプレゼントをいただいたから……」と、ヴァージルファーストのリクエストをしてきた。
そんな私が、急にそれを辞めたのだから、驚いて当然だ。
「うん、赤がいいわ。あんまりフリフリし過ぎないで、タイトなものが___」
「こ、公女様?」
ハッと、自分の今の体型を思い出す。
前世の終盤に着ていた大人びたドレスは、この体にはまだ似合わないだろう。
「え、えっと……で、デザインはヤン夫人に任せるわ!」
「……左様でございますか、お任せ下さい……」
まだ頭の上にひよこでも飛んでいそうな夫人が、細々と声を出す。
……なんだか、誰よりも驚いてる気がするわ。
夫人を見送って、私も部屋に戻る。
私の後ろで、リエッタが何故かニコニコと微笑んでいた。
「どうしたの?」
「いえ、公女様が赤いドレスをお召しになるのは凄く珍しいので、どれほど美しいか今から楽しみです!」
「まったく、褒めても何も出ないわよ」
やれやれと息を吐き、頬杖をつく。しかし、心の奥では少しワクワクしていた。
案外、赤は似合うかもしれない――そんな予感がするのだった。
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