公女様、前世に用はないですか?

みあはら

文字の大きさ
9 / 22

9.

しおりを挟む
 ある日の昼下がり。身の震えるような寒さの時間が減り、穏やかな日差しが欠伸を誘うような、そんな午後のこと。

「公女様、お手紙が届いてますよ」

 リエッタがそう言って、封筒を差し出してくる。金色の封筒に赤の結び紐、そして太陽の紋章。見るからに仰々しいそれは、言うまでもなく皇室からの手紙だった。

「もうすぐ、デュクセル殿下の誕生祭だものね」

 嫌でもヴァージルと遭遇してしまう可能性の高い日だ。だからと言って、行かない訳にもいかない。それが招待された帝国民の義務だからだ。
 そして、帝国では15歳を成人として扱い、15歳になるとパーティに参加する際にはパートナーが必要になる。
 今まで、私がヴァージルのパートナーを務めていたが、疎遠になった今、私を選ぶはずがない。きっと向こうも、私が避けていることに気付いているだろうから。
 私はまだ13歳だから、お父様とお母様にくっついて行けばいいのだわ。
 それに……今まではヴァージルのパートナーとして、服の色を合わせたりしてたけど、その必要もない。自分の好きなドレスを着ていいのだ。

「リエッタ!ヤン夫人をお呼びして!」

 私は目を輝かせてリエッタに指示を出す。

「はい!ただいま!」

 彼女は私の勢いに押され、パタパタと部屋を出ていく。
 好きなドレスを着れると分かった瞬間、新しいドレスを作りたくなってしまったのだ。
 何色にしようか、どんな生地を使おうか、装飾はどうしようか……。

(はあ、早くヤン夫人にお会いしたいわ!)


 翌日、応接間には、ヤン夫人と10体のトルソーが用意されていた。
 リエッタから連絡を受けた夫人が、昨日のうちから相当急いで準備を進めてくれていたらしい。誕生祭まで1ヶ月を切っているから無理もない。

「さぁ、公女様、どれをベースにいたしましょうか」

 ヤン夫人は、形から色までそれぞれのドレスを仮縫いして用意してくれた。

「そうですね……」

 うーんと顎に手を置く。いつもはヴァージルの瞳の色に合わせて、それに合う色の服を着ることが多かった。
 あの真っ青な瞳の____

「……赤やオレンジはどうかしら」

「あ、赤!?」

 ヤン夫人は驚いて目を見開く。今まで彼女に赤いドレスを作ってもらったことは無かった。

「し、しかし、それだと……」

 おそらく彼女が気にしているのはヴァージルのことだ。彼が赤を選ぶことは、絶対にないから。

「いいのよ、私、皇子にエスコートされる予定がないから」

「ええっ!?」

 あの公女様が!?とヤン夫人は後退る。余程衝撃だったのか、続く言葉もなく口をパクパクと動かしている。
 そりゃあそうだ。彼女にはいつも、「殿下が〇色だから…」「殿下からこの色のプレゼントをいただいたから……」と、ヴァージルファーストのリクエストをしてきた。
 そんな私が、急にそれを辞めたのだから、驚いて当然だ。

「うん、赤がいいわ。あんまりフリフリし過ぎないで、タイトなものが___」

「こ、公女様?」

 ハッと、自分の今の体型を思い出す。
 前世の終盤に着ていた大人びたドレスは、この体にはまだ似合わないだろう。

「え、えっと……で、デザインはヤン夫人に任せるわ!」

「……左様でございますか、お任せ下さい……」

 まだ頭の上にひよこでも飛んでいそうな夫人が、細々と声を出す。
 ……なんだか、誰よりも驚いてる気がするわ。

 夫人を見送って、私も部屋に戻る。
 私の後ろで、リエッタが何故かニコニコと微笑んでいた。

「どうしたの?」

「いえ、公女様が赤いドレスをお召しになるのは凄く珍しいので、どれほど美しいか今から楽しみです!」

「まったく、褒めても何も出ないわよ」

 やれやれと息を吐き、頬杖をつく。しかし、心の奥では少しワクワクしていた。
 案外、赤は似合うかもしれない――そんな予感がするのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦いの終わりに

トモ
恋愛
マーガレットは6人家族の長女13歳。長く続いた戦乱がもうすぐ終わる。そんなある日、複数のヒガサ人、敵兵士が家に押し入る。 父、兄は戦いに出ているが、もうすぐ帰還の連絡があったところなのに。 家には、母と幼い2人の妹達。 もうすぐ帰ってくるのに。なぜこのタイミングで… そしてマーガレットの心には深い傷が残る マーガレットは幸せになれるのか (国名は創作です)

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―

佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。 19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。 しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。 突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。 「焦らず、お前のペースで進もう」 そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。 けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。 学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。 外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。 「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」 余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。 理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。 「ゆっくり」なんて、ただの建前。 一度火がついた熱は、誰にも止められない。 兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

替え玉の私に、その愛を注がないで…。~義姉の代わりに嫁いだ辺境伯へ、身を引くはずが……持ちかけられたのは溺愛契約。

翠月 瑠々奈
恋愛
ベルン皇国の辺境伯ソラティスが求めたのは、麗しき皇都の子爵令嬢レイアだった。 しかし、彼の元へ届けられたのは、身代わりに仕立て上げられた妹のラシーヌ。 容姿も性格も全く違う姉妹。 ​拒絶を覚悟したラシーヌだったが、ソラティスは緋色の瞳を向けて一つの「契約」を持ち掛けた。 その契約とは──? ソラティスの結婚の理由、街を守る加護の力。そして、芽生える一つの恋。それに怯える拙い拒み。 ※一部加筆修正済みです。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

処理中です...