追放守護者の影光譚〜用済みだと追放され、平和な大陸に流れ着くもスローライフなんてする訳ない。〜

カツラノエース

文字の大きさ
5 / 28

第5話「守護者の名、冒険者の影」

しおりを挟む

 日が傾き始めたころ、ライゼンたちは《北の深森》から帰還した。

 血塗れだったライゼンの外套は、途中でリィナが「怖い!」と泣きそうな顔で言ったため、川でざっと洗い流された。結果、今はしっとり濡れたまま街道を歩いている。

「いやぁ~~っ、でも本当に倒しちゃったね、シュリヴァー・ファング……!」

 リィナが明るい声で何度目かの感嘆を漏らす。

「まさか右目を狙えって言われるなんて思わなかったけど、ライゼンが言うと“そうすればいい”って確信できるの、なんでだろ?」

「それだけ的確ってことよ。状況判断も、行動の早さも……正直、私たちじゃ届かない場所にいる人間だわ」

 セリアが歩きながらライゼンを見る。彼は相変わらず表情を変えず、前を向いたままだったが──

「お前の狙撃が完璧だっただけだ。俺はそれに合わせただけだ」

「へ、へへへ……なんか、うれしい……」

 リィナが照れ隠しに顔を逸らした。

 ルークはそんな二人を見つつ、小さく笑った。

「信頼されてる証拠だ。……だが、あの獣を倒したことで、ギルドの連中がどう動くかは分からないな」

「確かに。普通の中級冒険者なら、まず無理な相手だったもの」

 セリアの声に、ライゼンも短く頷いた。

(……見られるだろう、“何者か”として)

 街の門をくぐり、喧騒が耳に入る。

 以前と変わらぬ人の流れ。だが、その中で、彼らの姿はどこか浮いていた。

 ──あまりにも“異物”を倒した者たち、という空気を纏っていたから。

 ギルドの扉を開くと、夕暮れの光が差し込む室内に、相変わらずの受付の男──ハイルがいた。

「……帰ったか――って、」

 彼は目を丸くして、血の付いた布と報告書を受け取る。

「これは、討伐証明の牙……まさか本当に……お前らが本当に倒したのか?」

「本当ですっ!えっへん!ライゼンの指揮で完璧に仕留めました!」

 リィナが胸を張る。

「……あの規模の獣を倒すとは、これはBランクの依頼者でも警戒するクラスだぞ。依頼を進めた人間である俺が言うのも変だが……信じられない、」

 ハイルはしばらく無言で牙を見つめ、やがてため息とともに言った。

「……よし、ギルドとして正式に認定する。シュリヴァー・ファング討伐、成功だ」

「おお~……」

 リィナが感動の声を漏らし、セリアも微笑を浮かべた。

 ハイルは報告書を見直しつつ、ちらりとライゼンを見やる。

「……お前、何者なんだ?異邦人だとしてもこの動き、ただの剣士では考えられない、軍属か?」

「元守護者だ」

 ライゼンはあっさりと答える。

 ハイルの目がわずかに鋭くなる。

「守護者……?よく分からんが、」

「それならそれで構わない」

「……分かった。お前らしい返事だ」

 ハイルは苦笑しながら報酬袋を差し出す。

「とはいえ、これは間違いなく大きな成果だ。街に“お前らの名”が知られるきっかけになるだろう」

「お、おおお……! あたしたち、ちょっと有名人……!?」

「変な格好した冷血戦士と、その仲間たちってとこだろう」

「それ悪口じゃん!」

 リィナがふてくされる中、ルークが真顔で口を開いた。

「……名が広まるということは、目をつけられるということでもある」

「その通りだ。気をつけるんだな」

 ハイルは真面目な顔で頷いた。

 ――その瞬間、ギルドの奥の扉が開き、重厚な足音とともに一人の男が姿を表す。

 鋭い目をした中年の戦士。ギルド支部の幹部──

「ライゼン、と言ったな。少し話を聞かせてもらいたい」

 空気が一変した。

 彼の名は──ギルド長代理【グレン・アルフォード】。

 ライゼンの冷徹な目が、じわりと相手を見据えた。


 鋼のような雰囲気を纏うその男は、ラシェル冒険者ギルドの副支部長であり、Aランク以上の依頼を管理する実質の実力者だ。

「……“守護者”という言葉が聞こえた気がする」

 グレンは受付カウンター前で立ち止まり、ライゼンを見下ろした。

「貴様、どの国の出身だ?」

「国はもう滅びかけている。名を告げる意味はない」

 ライゼンは一歩も引かぬ目で答える。

 その冷静さと威圧感に、リィナは小さく息を呑み、ルークはわずかに構えた。

「……どういうこと?」

 セリアが低く問いかけたが、ライゼンは答えない。ただ、視線を外さずにグレンを見つめていた。

 沈黙の中で、グレンはふっと鼻で笑った。

「……よかろう。少なくとも、貴様が只者ではないことは証明された」

 男は一枚の書類を持ち出した。

「実は、別件で“正体不明の流れ者”の調査依頼が上がっていてな。偶然かどうか、興味深い一致だ」

 それは、“正体不明の実力者”が街に現れたという匿名通報の調査書。

「誰かが俺を探ってるってことか」

「そうだ。……冒険者ギルドは表向きは依頼を仲介する組織だが、裏では有力人材を把握し、時に管理し、時に監視する。お前のような存在は特に、な」

「……面倒な世界だな」

「だが悪いようにはしない。少なくとも俺は実力主義者だ」

 グレンは視線を外し、仲間たちに目をやる。

「こいつらと組んでいる以上、お前の今後はこのチーム次第でもある。──だから、任せてみたい依頼がある」

 リィナが身を乗り出す。

「え!? それってもしかして……昇格試験とか!?」

「昇格とは違う。だが、今回の討伐で“Aランク並の潜在性”を見せたお前たち。それに見合う任務だ」

 ルークが眉をひそめる。

「その依頼、具体的には?」

「北の森のさらに奥。未踏の地下遺跡だ。近頃、低級モンスターの消失が相次いでいる。原因を探れ」

「……モンスターが“消えた”? 何それ……逆じゃなくて?」

 リィナが首をかしげるが、グレンは真面目なままだ。

「そう。何かが“狩っている”可能性がある。人か、魔物か、はたまた……」

 ライゼンの眉がわずかに動いた。

「……罠の匂いがするな」

「わかっている。だが、お前たちにしか頼めない」

 グレンはそこで真っすぐにライゼンを見る。

「──そして、これは個人的な興味だが。お前の戦い、“見せてもらいたい”」

 その目に宿るのは、明確な《戦士》としての欲求だった。

「──いいだろう」

 ライゼンが静かに応じた。

 その答えに、セリアが目を見開き、リィナが「うっそ、引き受けちゃった!」と小声で言う。

 ルークは静かに息を吐いた。

「……なら準備を整えよう。どうせ、俺たちの旅はここから先が本番だ」

 グレンは小さく笑い、踵を返す。

「出発は二日後。情報が集まり次第、詳細は渡す。期待してるぞ、“元・守護者”」

 ──ライゼンの異名は、ゆっくりとこの街に広がり始めていた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?

黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。 古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。 これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。 その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。 隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。 彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。 一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。 痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。

無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。

霞杏檎
ファンタジー
田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半…… まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。 そんなある日、『スキルが発動しない無能はこの王宮から出て行け』と自身が働いていたイブニクル王国の王宮から解雇・追放されてしまった。 そして挙げ句の果てには、道中の森でゴブリンに襲われる程の不遇様。 だが、レイクの不運はまだ続く……なんと世界を破壊する力を持つ最強の竜種"破滅古竜"と出会ってしまったのである!! しかし、絶体絶命の状況下で不意に出た言葉がレイクの運命を大きく変えた。 ーーそれは《竜族語》 レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。 こうしてレイクは"ヴィルヘリア"と名乗り美少女の姿へと変えた破滅古竜の眷属となったが、与えられた膨大なスキルの量に力を使いこなせずにいた。 それを見たヴィルヘリアは格好がつかないと自身が師匠代わりとなり、旅をしながらレイクを鍛え上げること決める。 一方で、破滅古竜の悪知恵に引っかかったイブニクル王国では国存続の危機が迫り始めていた…… これは"無能"と虐げられた主人公レイクと最強竜種ヴィルヘリアの師弟コンビによる竜種を統べ、レイクが『竜人王』になるまでを描いた物語である。 ※30話程で完結します。

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。 死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった! 呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。 「もう手遅れだ」 これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!

処理中です...