6 / 28
第6話「今だけは」
しおりを挟む宿屋の天井を見つめていたライゼンは、眠る気配のない静寂の中で、ふとベッドを出た。
ギルドの空き部屋──木造の小さな個室は、最低限の寝具しかないが、それでも彼の故郷とは比べ物にならないほど「穏やか」だった。
外に出ると、夜の風が頬を撫でた。静かだ。ヴァルメルの夜は、魔物の咆哮が風とともに唸っていた。……だが、ここは違う。
ライゼンはギルド裏の階段に腰を下ろし、月を見上げる。
(……温すぎる。俺には似合わない)
それでも、目の奥にちらつくのは、今日の会話。
──「ねぇ、カッコよすぎないっ!?」
──「ふふ、ちゃんと話せるんじゃない」
──「……お前に助けられて、俺たちは助かった。感謝してる」
あの三人。妙に賑やかで、まとまってなくて、それでもどこか、強く結びついている──
「おーい、ライゼーン!」
不意に、元気な声が飛んできた。
ギルドの影から現れたのはリィナ。手にはパンを握っている。
「寝れないなら、一緒に夜食食べよーっ!」
「……いつから見ていた」
「えへへー、さっき! ルークとセリアが寝ちゃっててさ。なんか、あたしだけ寝れなくて……探したら、いた!」
パンを差し出す。ライゼンは一度見た後、黙って受け取った。
「……なんで、俺を気にかける」
「うーん……勘、かな?」
リィナは階段に座り、空を見上げる。
「ライゼン、強いけど、なんか無理してる感じがするの。背負ってるもの……すっごく重そう」
「……背負うしかなかった」
それは言い訳ではなかった。ただの事実だった。
リィナは少しだけ目を伏せ、静かに微笑む。
「……そっか。でもね、あたしたちがいるよ」
「……ああ?」
「頼ってくれていいんだよ、ってこと! まだまだ弱いけどさ! これから強くなるし、頑張るし!」
その言葉は、あまりにもまっすぐで、ライゼンは返す言葉を見つけられなかった。
しばしの沈黙。月の光が二人の影を重ねる。
やがてライゼンはパンをひと口かじる。
「……まずい」
「うそ!? それセリアがくれたパンなんだけど!」
「それならセリアの味覚はあまり良くないらしい」
「ひどっ!!」
「……冗談だ」
「……え?えっ!?ライゼンが冗談言った!じょうだんいったー!!」
リィナが笑い出し、その声が静かな夜に溶けていった。
(……こんな時間が、続くわけがない)
それでも、今だけは──
翌朝。出発の準備が整い、ギルドの前に立つ四人。
「北の森、そしてその奥地……未踏の地下遺跡だな」
ライゼンが確認すると、ルークがうなずいた。
「道中は長いが、今の俺たちなら行ける」
「よーし、行こう行こうっ!」
リィナが笑顔を弾けさせて言い、セリアが微笑む。
「ライゼン、私たちを少しでも信じてくれると嬉しいな」
……応えは、ない。ただ、静かに頷いて歩き出す背中。
ライゼンの足取りは、確かに変わっていた。
冷徹だったその歩みが、ほんのわずか、誰かの歩幅を待つように──
旅は、次の“脅威”へと動き出す。
◇ ◇ ◇
ラシェルの町を出発して三日目。道は未舗装の獣道となり、木々が生い茂る森へと変わっていった。
「うわー……道っていうより、ただの草むらじゃない?」
リィナが不満そうに草をかき分ける。けれど、歩を止める者は誰もいない。
ライゼンは先頭を歩き、片手には古びた地図。もう片方には鉱石でできた独自の“感知針”──この世界には存在しない、彼独自の道具だ。
「目的地まで、あと二十キロ。日没までに拠点候補を探す」
「了解ですわ、隊長さん」
セリアがからかうように微笑み、ルークも後ろから一言。
「このまま進めば問題ないが……」
その時だった。
ライゼンの感知針が微かに震えた。
(……魔力の流れ。だが、自然なものではない)
この大陸の魔力は、空気とともに流れ、草木に溶け込んでいる。だが、今、森の先に感じたのは“溜まり”だ。人工的な、あるいは生物的な偏り。
「止まれ」
即座に命令が飛ぶ。三人は反射的に動きを止め、緊張が走る。
「なにか……いるの?」
「ああ。──おそらく、索敵型ではない。だが、殺気がある」
「魔物、なの?」
「断定はできん。だが、構えろ。来るぞ」
言い終える前に、それは現れた。
森の奥から、巨大な影──六本脚の獣。全身が苔むした木のような皮膚に覆われ、目だけが深紅に光っていた。
セリアが小声で呟く。
「……ミミルビースト。Bランク魔物……っ、でも、なんでこんな場所に……!」
ルークが剣を抜き、リィナが弓を構える。
「ライゼン、どうする?」
「三手に分かれろ。ルーク、左に回り込んで動きを制限。リィナは高所を確保。セリア、詠唱支援──時間を稼げ」
「了解!」
「任せてっ!」
「ええ、援護するわ」
彼らが散開すると同時に、ライゼンは懐から小瓶を投げた。爆ぜる閃光と同時に、魔物の動きが一瞬鈍る。
(このタイミング──足を砕く)
ライゼンは前脚の関節を狙って跳び込んだ。足元に滑り込むように転がり、鋭く逆手に握った剣を突き立てる。
──ズシャァッ!
肉を裂く音。だが、ミミルビーストは咆哮とともに大きく後退した。負傷を抑えるように低く唸る。
「うわっ、リィナ、気をつけ──!」
「平気!こっちだよ、でっかいやつーっ!」
高所に登ったリィナが矢を放つ。一本、また一本──その全てが的確に魔物の関節や目を狙っていた。
「詠唱完了──“光鎖結界《ルミナス・バインド》”!」
セリアの魔法が発動し、地面から光の鎖が伸びて魔物の脚を絡め取る。
その隙に、ルークが跳び斬りで背中を叩き斬る!
「今だ、ライゼン!」
「ああ──終わらせる」
地形は把握済み。この魔物の動きは直線的。ならば、誘導して崖の縁へ。
ライゼンは一瞬で走り出すと、魔物の正面を横切り、囮として飛び跳ねた。
それに釣られるように、ミミルビーストが突進──そして、
「……地面が消えた?」
リィナの声とともに、魔物は足元の崖を踏み外し、奈落へと落下した。
ライゼンは、崖の縁で剣を納め、ただ呟く。
「地図には載っていた。崖の存在も、落石で緩んだ地盤もな」
──敵の能力ではなく、地形、速度、習性──全てを分析して勝利へ導く。
それが、ライゼンの戦い方だった。
戦闘が終わった後、リィナが駆け寄ってくる。
「ね、ねぇ!今の、ちょっと格好良すぎじゃない!?」
「……当然の結果だ」
「へへっ、だよねー!」
セリアとルークも、少し疲れた顔で歩み寄ってくる。
「……ライゼン、お前やっぱりすごいな」
「分析力も対応力も、常人の域を超えてるわ」
「……過大評価だ」
けれど、ライゼンの目には、ほんの僅かに笑みの色が浮かんでいた。
──こうして、彼らの旅は、少しずつ「仲間」として形を成していく。
0
あなたにおすすめの小説
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる