追放守護者の影光譚〜用済みだと追放され、平和な大陸に流れ着くもスローライフなんてする訳ない。〜

カツラノエース

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第6話「今だけは」

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 宿屋の天井を見つめていたライゼンは、眠る気配のない静寂の中で、ふとベッドを出た。

 ギルドの空き部屋──木造の小さな個室は、最低限の寝具しかないが、それでも彼の故郷とは比べ物にならないほど「穏やか」だった。

 外に出ると、夜の風が頬を撫でた。静かだ。ヴァルメルの夜は、魔物の咆哮が風とともに唸っていた。……だが、ここは違う。

 ライゼンはギルド裏の階段に腰を下ろし、月を見上げる。

(……温すぎる。俺には似合わない)

 それでも、目の奥にちらつくのは、今日の会話。

 ──「ねぇ、カッコよすぎないっ!?」

 ──「ふふ、ちゃんと話せるんじゃない」

 ──「……お前に助けられて、俺たちは助かった。感謝してる」

 あの三人。妙に賑やかで、まとまってなくて、それでもどこか、強く結びついている──

「おーい、ライゼーン!」

 不意に、元気な声が飛んできた。

 ギルドの影から現れたのはリィナ。手にはパンを握っている。

「寝れないなら、一緒に夜食食べよーっ!」

「……いつから見ていた」

「えへへー、さっき! ルークとセリアが寝ちゃっててさ。なんか、あたしだけ寝れなくて……探したら、いた!」

 パンを差し出す。ライゼンは一度見た後、黙って受け取った。

「……なんで、俺を気にかける」

「うーん……勘、かな?」

 リィナは階段に座り、空を見上げる。

「ライゼン、強いけど、なんか無理してる感じがするの。背負ってるもの……すっごく重そう」

「……背負うしかなかった」

 それは言い訳ではなかった。ただの事実だった。

 リィナは少しだけ目を伏せ、静かに微笑む。

「……そっか。でもね、あたしたちがいるよ」

「……ああ?」

「頼ってくれていいんだよ、ってこと! まだまだ弱いけどさ! これから強くなるし、頑張るし!」

 その言葉は、あまりにもまっすぐで、ライゼンは返す言葉を見つけられなかった。

 しばしの沈黙。月の光が二人の影を重ねる。

 やがてライゼンはパンをひと口かじる。

「……まずい」

「うそ!? それセリアがくれたパンなんだけど!」

「それならセリアの味覚はあまり良くないらしい」

「ひどっ!!」
「……冗談だ」

「……え?えっ!?ライゼンが冗談言った!じょうだんいったー!!」

 リィナが笑い出し、その声が静かな夜に溶けていった。

(……こんな時間が、続くわけがない)

 それでも、今だけは──

 
 翌朝。出発の準備が整い、ギルドの前に立つ四人。

「北の森、そしてその奥地……未踏の地下遺跡だな」

 ライゼンが確認すると、ルークがうなずいた。

「道中は長いが、今の俺たちなら行ける」

「よーし、行こう行こうっ!」

 リィナが笑顔を弾けさせて言い、セリアが微笑む。

「ライゼン、私たちを少しでも信じてくれると嬉しいな」

 ……応えは、ない。ただ、静かに頷いて歩き出す背中。

 ライゼンの足取りは、確かに変わっていた。

 冷徹だったその歩みが、ほんのわずか、誰かの歩幅を待つように──

 旅は、次の“脅威”へと動き出す。

 ◇ ◇ ◇
 
 ラシェルの町を出発して三日目。道は未舗装の獣道となり、木々が生い茂る森へと変わっていった。

「うわー……道っていうより、ただの草むらじゃない?」

 リィナが不満そうに草をかき分ける。けれど、歩を止める者は誰もいない。

 ライゼンは先頭を歩き、片手には古びた地図。もう片方には鉱石でできた独自の“感知針”──この世界には存在しない、彼独自の道具だ。

「目的地まで、あと二十キロ。日没までに拠点候補を探す」

「了解ですわ、隊長さん」

 セリアがからかうように微笑み、ルークも後ろから一言。

「このまま進めば問題ないが……」

 その時だった。

 ライゼンの感知針が微かに震えた。

(……魔力の流れ。だが、自然なものではない)

 この大陸の魔力は、空気とともに流れ、草木に溶け込んでいる。だが、今、森の先に感じたのは“溜まり”だ。人工的な、あるいは生物的な偏り。

「止まれ」

 即座に命令が飛ぶ。三人は反射的に動きを止め、緊張が走る。

「なにか……いるの?」

「ああ。──おそらく、索敵型ではない。だが、殺気がある」

「魔物、なの?」

「断定はできん。だが、構えろ。来るぞ」

 言い終える前に、それは現れた。

 森の奥から、巨大な影──六本脚の獣。全身が苔むした木のような皮膚に覆われ、目だけが深紅に光っていた。

 セリアが小声で呟く。

「……ミミルビースト。Bランク魔物……っ、でも、なんでこんな場所に……!」

 ルークが剣を抜き、リィナが弓を構える。

「ライゼン、どうする?」

「三手に分かれろ。ルーク、左に回り込んで動きを制限。リィナは高所を確保。セリア、詠唱支援──時間を稼げ」

「了解!」

「任せてっ!」

「ええ、援護するわ」

 彼らが散開すると同時に、ライゼンは懐から小瓶を投げた。爆ぜる閃光と同時に、魔物の動きが一瞬鈍る。

(このタイミング──足を砕く)

 ライゼンは前脚の関節を狙って跳び込んだ。足元に滑り込むように転がり、鋭く逆手に握った剣を突き立てる。

 ──ズシャァッ!

 肉を裂く音。だが、ミミルビーストは咆哮とともに大きく後退した。負傷を抑えるように低く唸る。

「うわっ、リィナ、気をつけ──!」

「平気!こっちだよ、でっかいやつーっ!」

 高所に登ったリィナが矢を放つ。一本、また一本──その全てが的確に魔物の関節や目を狙っていた。

「詠唱完了──“光鎖結界《ルミナス・バインド》”!」

 セリアの魔法が発動し、地面から光の鎖が伸びて魔物の脚を絡め取る。

 その隙に、ルークが跳び斬りで背中を叩き斬る!

「今だ、ライゼン!」

「ああ──終わらせる」

 地形は把握済み。この魔物の動きは直線的。ならば、誘導して崖の縁へ。

 ライゼンは一瞬で走り出すと、魔物の正面を横切り、囮として飛び跳ねた。

 それに釣られるように、ミミルビーストが突進──そして、

「……地面が消えた?」

 リィナの声とともに、魔物は足元の崖を踏み外し、奈落へと落下した。

 ライゼンは、崖の縁で剣を納め、ただ呟く。

「地図には載っていた。崖の存在も、落石で緩んだ地盤もな」

 ──敵の能力ではなく、地形、速度、習性──全てを分析して勝利へ導く。

 それが、ライゼンの戦い方だった。

 戦闘が終わった後、リィナが駆け寄ってくる。

「ね、ねぇ!今の、ちょっと格好良すぎじゃない!?」

「……当然の結果だ」

「へへっ、だよねー!」

 セリアとルークも、少し疲れた顔で歩み寄ってくる。

「……ライゼン、お前やっぱりすごいな」

「分析力も対応力も、常人の域を超えてるわ」

「……過大評価だ」

 けれど、ライゼンの目には、ほんの僅かに笑みの色が浮かんでいた。

 ──こうして、彼らの旅は、少しずつ「仲間」として形を成していく。
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