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第2章1部【中央大陸編】
第30話【中央大陸からの返事〜誰かの英雄〜】
しおりを挟む俺の名前は伊吹冬馬、この世界で冒険者をしている元ヒキニートだ。
自分で言うのもなんだが、俺は人並み以上には幸せな人生を送れていると思っている。
確かにモンスターとの戦闘では命を危険に晒すことになるし、平穏な日々を送れているのはみんなの方だろう。
だが、俺の周りには大切なパーティーメンバーや、エスタリたちがいる。だから、俺は今すごく幸せだ――――と、そろそろツッコまれそうだから、一旦止めておく。
さて、なぜこんな始まり方をしたのか、だが、それは遂に中央大陸のギルドの方からあの返事が返って来たからだ。
あの返事。忘れたやつの為に軽く説明しておくと、
先日、俺たちは中央大陸のギルドから突如課された「昇級クエスト」を無事達成し、その事を向こうに手紙で伝えてもらっていた。
それの返事のことだ。
そして気になる結果だが――――無事、俺たちは「中級上位」まで昇級することが出来た。
実はこの事をお姉さんから聞いたのはさっきだから、正直なところまだ実感が湧かない。
だって一気に2つも昇級だぜ?ヤバいだろ。
「本当に昇級したのね……」
「はい、私も凄く驚きましたが――おめでとうございます」
お姉さんは興奮冷めやらぬ俺たちに、嘘偽りの無い賞賛を送ってくれる。
「いや、めちゃくちゃ嬉しいんだが、色々考えてしまうな」
ちなみに今はアンテズ村からラペルに帰ってきてから3日後だ。
今日もいつも通り地獄のトレーニングを終えた後、「ちーっす」てな具合いにギルドに行ったらいきなり言われたもんだから、そりゃ気持ちの整理もすぐにはつかないだろ?
(そろそろ中央大陸から返事が来るだろうなぁ)
なんて昨日くらいから呑気に考えてはいたが、実際に来るとなかなかだな。
「――だって、この昇級で俺たちが中央大陸に行く事が決まったって訳だろ?」
「ですね」
そう、俺がこれからの事を考えている一番の理由はこれだ。
正直、別にただ俺たちが中級上位に昇級しただけなら素直に喜べる。
前のエスタリたちが喜んでいたのと同様に、依頼に対するモチベーション向上にも繋がるからな。
だが、今回の昇級は訳が違う。
中央大陸のギルドは、俺たちを中央大陸に入れる為に、いわば無理やり昇級させたからだ。
(正直なところ、俺たちはエスタリたちと力が並んだのかと聞かれれば、とても首を縦には振れないしな)
そしてそんな状態で強者たちの集う中央大陸に行くなんて――――あー怖い怖い。
すると、そこで俺が緊張している事に気づいたのか、お姉さんが声を明るくしてこう言う。
「でもまぁ、今回はおそらく依頼を何度も受ける。ということも無いでしょうからそこまで緊張しなくても良いと思いますよ?」
なんでお姉さんがそこを分かるんだよ?実際俺たちは中央大陸の冒険者ギルドに呼ばれてるんだから、何をするのかはあっちが決めるんじゃないのか?
「なんでお姉さんが分かるんだよ?」
俺はいじけた声でそう聞く。
すると、お姉さんはそこで予想外のセリフを口にした。
「分かるというか――今回皆さんを中央大陸に招待したのは確かに向こうの冒険者ギルドですが、実際にはひとりの冒険者なんです。」
ん?ひとりの冒険者?
確かにお姉さんは最初、実力派の冒険者が俺たちに会いたい的な事は言ってたがそれは、「このギルドに違う大陸の冒険者が来るなら会いたいな!」みたいな、そんな感じなんじゃなかったのか?
俺はそう聞いたが、どうやら違うらしく、なんとひとりの冒険者が、俺たちの噂を耳にし、そして中央大陸に招待したんだと。
――一体そいつ、どんな権利を持ってるってんだよ。
ひとりの発言で中央大陸の冒険者ギルドが動くレベル、少なくとも只者では無さそうだった。
そしてもうひとつ、そいつには別名があるらしい。
「狂乱の戦士だって?」
「はい」
俺はお姉さんが吐いたセリフをオウム返しの様に繰り返す。
その冒険者は、別名狂乱の戦士と言うらしい。
別名からしてろくでもない奴だって事だけ分かった。
「で、私たちはその狂乱の戦士さんと会えば良いって訳?」
「はい、そうですね」
「ちなみにそれは、いつここを出発すれば良いのかしら?」
おぉ……!ナイスみさと!気になってた事を聞いてくれるじゃねぇか。
俺は次にくるお姉さんのセリフに耳を傾ける。
するとお姉さんは、今までと変わらない口調で、
「そうですね……返事の手紙が来たのは先程ですので――今日のお昼くらいでしょうか?」
「「き、今日!?!?」」
今日って!?そんなに俺たちはすぐに出発しなくちゃいけないのかよ!
「それって変えられないのか……?」
出来れば心の準備とか色々したいのだが……
しかし、送られてきた手紙にはガッツリ「この手紙が届いた日には来るように」と書いてあったらしく、到底日にちを変更出来そうでは無かった。
「――分かったよ。で、どこに向かえば良いんだ?」
俺は中央大陸と繋がってる港?の場所なんて知らねぇぞ
「それはですね――前アンテズ村に行った時の、ラペルの出入り口に行って貰えれば大丈夫です。」
「?なんであそこに?」
「アンテズ村の方に馬車で船の止まる場所まで乗せて貰えるので。」
「え?」
「実は昨日から、待機してもらってるんです。」
「待機って……」
なんかめちゃくちゃ申し訳ないな。
前からアンテズ村の人達には助けて貰ってばっかりだ。
しかし、この役をアンテズ村の人達は自ら選んだらしかった。
もちろん俺は「なんでそんな――」って聞いたよ。
じゃあお姉さんに言われた、「忘れたんですか?皆さんはアンテズ村を救った英雄なんですよ?」ってな。
正直俺たちにはまだまだ英雄なんてそんな大層な称号勿体ないと思う。
でもよ――そうやって呼んでくれる人がいるんなら、その人たちの英雄で居られ続けるよう、頑張らねぇとな。
こうして俺たちは、中央大陸に出発することになったのだった。
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