【完結】転生したのは俺だけじゃないらしい。〜同時に異世界転生した全く知らない4人組でこの世界を生き抜きます(ヒキニートは俺だけ)〜

カツラノエース

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第2章2部【帝都ティルトル剣術祭編】

第51話【迫る出番〜今すぐ逃げたいんだが〜】

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「お!おかえり2人とも!ちなつ!強かったわよ!」
「おかえりー!」

 俺たちが帰って来たことに気付いたみさととくるみは、笑顔でそう言う。
 
 あの後、俺の元に戻って来たちなつは、疲労こそありそうではあったが、元気な笑顔を見せた。
 そしてそのまま俺たちは階段を登ってみさとやスザクのいる席に戻った。今はここだ。

「いい試合だったじゃないか。相手のスリードって奴、中々実力もある冒険者だぜ?」
「それにしてもぉ、最後に短剣で攻撃したのは良かったわねぇ」
「きっとあそこで普通の剣のまま行ってたら負けてたやろな。」

「は?なんでだよ?」

 そこで俺はそうレザリオのセリフに問い掛けた。
 正直俺もあそこで咄嗟に短剣に持ち替えたのは見事だとは思ったが、だからと言って普通に剣のままで行っていても大丈夫だっただろ。
 要するに盛り上げる為のパフォーマンス。そんな風に俺は見ていた。

 だが、それに対してレザリオは、

「いや、冷静になって考えてみい。あの場面――相手は後ろに下がってちなつちゃんが追いかけるというあの状況で、普通に剣のまま行ってたとしたら多分相手は咄嗟の判断で前に出て来てた思うで。」
「ん?だからなんでだよ?」

 すると、そんなレザリオの説明を聞いても全然何を言っているのか分からない俺に、スザクが横から補足を加えてくれた。

 スザクの言う通りに行くとすると――スリードは超近距離戦闘を得意とする短剣使いに対して、ちなつは普通の剣、近距離戦闘型だ。
 だからスリードにとってこの試合は、「いかに上手く間合いを詰めることが出来るのか」という事が1番大切なこと。

 そしてそんなスリードに対してちなつが自ら間合いを詰めに行ったとしたら――もちろんそれは絶好のチャンス。
 たとえ多少ダメージを負っていたとしても、前に出て攻撃をすべきなのだ。

 だからレザリオは「あのままもし超近距離では無い剣のままだと相手に距離を詰められて負けていた」そう思っていたという事だそうだ。

「――だが、ちなつちゃんはそこで自らも超近距離戦闘の短剣に持ち替えた。だから相手もその咄嗟の行動に戸惑い、前に出ることも、持ち前の驚異的な反射神経を発揮することも出来なかった。レザリオお前の言いたい事はそう言う事だろ?」

 そんなスザクのセリフにブンブン首を縦に振って肯定するレザリオ。どうやらそれであっている様だった。

「いやぁ、やからワイ、今回のでちょっとちなつちゃんの見方変わったで。中々やるやんか」
「そ、そうか?ハ、ハハハハ……」

 いや、絶対そんなの考えてなくてただ単に短剣で行こうと思って行っただけだろお前!!だってそんなレザリオの考えを聞いてた時、「確かに」みたいな顔で聞いてたじゃねぇか!!

「はぁ……」

 俺はそんないかにもわざとらしい反応をするちなつに対してため息を吐くのだった。
 まぁどちらにせよ勝ったんだから良いんだがな。

 ---

 それから数分後。遂に1回戦の最終試合のアナウンスが競技場内に響き渡った。

『では、あと五分後に第4試合を行いますので、該当選手は次のアナウンスが入るまでにフィールドの前のエリアで準備を済ませておいてください。』

「お、次の試合でとりあえず第1回戦は最後か。」
「もうそんなに試合したか?時間経つんは速いなぁ」

 スザクとレザリオは右隣でそんな会話を交わす。
 いつもならそこに俺も混ざるだろう。しかし、今はそれどころでは無かった。

 だって次の試合――遂に俺の出番なんだぜ!?
 もう心臓バックハグ!今にも逃げ出したいくらいだ。

 (そういえば俺がエルフの奴と決闘をした時も相当緊張したっけ。)

 しかし、あの思い出も今なら霞むくらいだ。そのレベルで緊張している。
 例えるならそうだなぁ、学校の合唱コンクール前のあの緊張する雰囲気を何百倍にも増やした感じだろうか。
 どうだ?少しは俺の緊張具合が伝わっただろうか?

 ま、まぁでも?どうせ誰も俺なんかに期待なんてしてないだろうし?最悪あっさり負けても良い――よ、な?
 
 そう、俺が今緊張している1番の理由は、観客が多いからだとか、もちろんそういうのもあるが、今のところ俺と親しい人間(パーティーメンバーのみさと、ちなつや、仲のいいスザクなど)が全員見事に初戦を勝っているからなのだ。

 だってさ!もうこの流れ俺が絶対に勝たなきゃいけないみたいじゃん!やめてくれよそういうの!ただの元ヒキニートだぞこっちは!
 こういう時に限ってニートだからアピールを使う俺である。


 ――だが、先程も言った通りどうせ誰も俺が勝つなんて思っていないだろう。結局いつも周りの力に助けられてばかりで弱いし……

「っし。じゃあとりあえず頑張るだけ頑張ってくるわ」

 俺は静かに席から立ち上がると、なるべく期待されない様にとりあえず「頑張る」姿勢だけ見せて階段の方へ歩いて行く。
 よし……!これで万が一ボッコボコにされても大丈夫だろう……!

 しかし、階段を降りようとしたその時。後ろから声が聞こえた。

「とうまーッ!私たちの頼れるリーダーなんだから頑張りなさいよね!!」
「そうだぞ!私たちのリーダーだってところを見せてやれ!」
「頑張れとうまー!」

 っておい!!こんな時だけリーダーとかいいやがって!

「い、いや、お前ら――」

 俺は何とかここから期待を下げようと言い訳を並べようとする。しかしそれも、スザクやレザリオの声にかき消された。

「そうだぞ、相手は中々に柄の悪い奴だがいっちょぶちかましてやれ。」
「頑張るんやで!ワイ、めちゃくちゃ期待してるからな!」
「頑張ってねぇ」

 く、くぅ……お前らぁ……
 これまで誰からも期待されずに誰からも応援されなかった奴がここまでみんなに真正面からエールを送られて、期待されて。
 
 俺は軽くため息を吐くと――

「っしゃお前らッ!見とけよ俺の力!度肝抜く様な勝ち方してやるよッ!」

 笑顔で両手を腰に当て、そう叫んだ。

 ---

 それから数分後。
 【悲報】先程の威勢、完全に喪失。
 い、いや、だってよぉ……

 今はもう階段を降りてフィールド前のエリアで選んだ武器(いつも使ってる物と変わらない剣)を持ち、いつアナウンスが掛かっても良い状態ではあるんだが……

 ずっと鳴り止まぬ歓声が俺の緊張を更にエスカレートさせてとにかくもうやばい。
 今日見た試合中に、語り部である俺の独断と偏見でそこまで歓声の大きさは誇張していないが、やっぱりずっとうるさくて仕方ねぇんだよ。(だからウザったくてそこまで誇張しなかったってのもある)

「あぁ、やべぇなこれ。」

 みさとやちなつは良く耐えられたもんだ。マジで尊敬出来るぜ。
 それに――さっきスザクが俺の対戦相手は中々に柄の悪い奴って言ってたしよ……はぁ……

 
 するとそこで、遂に試合の始まりを告げるアナウンスが鳴り響いた。

『それではッ!只今より第4試合を開始致しますッ!両選手入場ッ!』
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