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第2章2部【帝都ティルトル剣術祭編】
第52話【第4試合〜泣いたあの日のリベンジマッチ〜】
しおりを挟む「「うぉぉぉぉぉッ!!」」
俺がフィールドに姿を見せると、周りから溢れんばかりの歓声が耳へと飛び込んできた。
「って、これは……」
確かにみさとが言っていた通り重圧はヤバいし緊張も更に押しかけてきやがる。
でも――それ以上に俺はものすごく恥ずかしくなった。
だってよ?今ここにいる観客たちは当たり前だがフィールド内にいる俺と相手だけに注目してる訳だろ?
これまで生きてきてこんなに視線を浴びたのは初めてだから……なんだか心がくすぐったいぜ。
「どうもどうも……」
俺はそんな観客たちに向けてペコペコしながらフィールドの中心部分へと歩いて行く。
すると、ある程度歩いたところで相手の顔が見えた。
「よう、お前が今回の相手か。」
「あ、あぁ……」
って怖ぇ!!
確かにさっきスザクが相手は中々にガラの悪い奴だとは言われてたから覚悟はしていたが……まさかここまでとはな……
俺に話しかけた今回の対戦相手は、背中にバカでかい大剣を背負った金髪ショートの男だった。
街中で出会ったら絶対避けてるタイプの奴だよありゃあ……
戦う前に俺は更に戦意を失ってしまった。
しかし、もちろんだからと言って試合が無くなる訳では無い。
俺たちがフィールドの真ん中まで来ると、それを確認した審判が実況者に何やら試合開始が出来る状態にあるという合図を出す。
『ではッ!準備が出来た様なのでこれより第とうま選手VSディザード選手の第4試合を開始致しますッ!!』
「「うぉぉぉぉぉ!!」」
よし……もうここまで来たらヤケクソだ……!やってやるよ!
「……ッ!」
「へッ、思ってたよりやる気あんじゃねぇかよ、ガリガリ。」
「うるせぇよ」
俺たちは互いに背負った武器に手をかけ、何時でも相手を切り捨てられる様に構える。
するとタイミングよく、両者が構え終わった瞬間に戦いの火蓋は切られた。
『では――開始ッ!!』
---
試合の開始が告げられた瞬間――俺は身体中の力を全て足に集め力強く地面を蹴って相手の方に走って行く。
そして背中から勢い良く剣を抜くと、思いっきり斬り掛かった。
「はぁぁぁぁッ!!」
もう作戦とか様子見とか全部無しだッ!見とけよみんな!俺が正面から斬り捨ててやるよッ!!
「へッ、」
「……ッ?」
しかし、そんな俺に対して相手のディザードは余裕の表情を浮かべ鼻で笑う。
そして――
「おらぁぁぁ!」
「ぐぁ!?」
背中から勢い良く大剣を抜くと、斬りかかりに行く俺を一振で吹き飛ばした――って!?
「っぐ、がはぁ……」
後ろに数メートル吹き飛ばされ、無様に地面をコロコロと転がる俺。
くそが……試合が始まったばかりだってのに、身体がもう既にめちゃくちゃ痛ぇよ。
だが、不幸中の幸いか何とか相手の攻撃を寸前で剣でガード出来たから、ダメージは地面にぶつかった打撃だけだ――まだ全然やれる……!
「いきなり、やってくれるじゃ、、ねぇかよ……!」
「へぇ?まだその闘志に満ち溢れた目を向けて来るのか。試合が始まる前はあんなに縮こまってた癖によッ!!」
すると、今度は俺が立ち上がった瞬間にディザードの方から、何故か既視感のある表情で襲い掛かって来た。
「……クッソ……!」
だが、今回はさっき俺からした攻撃とは違って相手の動きをよく見る事が出来る。
何とか隙を見つけて攻撃を仕掛けたいところだ。
――だが、
「おらァッ!!」
「ってッ!?」
『おっと!?またもやとうま選手先程と同じ様にディザード選手の攻撃を食らったぞ!大丈夫なのでしょうか!』
武器のリーチが違い過ぎる……
更にスピードも何もかも相手が上を行っており、隙を見つけたところで反撃出来そうにも無かった。
「ハハハッ!カスが俺の前に立つんじゃねぇよ!」
「クッ……」
俺は地面にひれ伏した頭を何とか起こし、相手の方を向く。
すると――なんとディザードは、今度は俺が起き上がるのも待たずにこちらへ走って来た。
そして、
「早く負けろやッ!」
「がはぁ!?」
なんと俺の顔を下から蹴り上げた。
その衝撃で中に吹き飛ぶ身体。
あぁ……マジでヤバいかもしんねぇなこりゃ……
自分の意識がだんだんと遠のいて行くのがよく分かった。
「へッ、こいつァもう戦えねぇだろ。おい審判、早く判断出せや。」
『おっと、とうま選手、ディザード選手に頭を蹴られてこれはもう厳しいか!?審判が駆け寄って行きますッ!』
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」
仰向けで倒れる俺と、それを見下す相手――ディザード。そして周りから湧き上がる歓声。
あぁ、やっとさっき相手の襲いかかって来る表情から感じ取った既視感の正体が分かったせ。
――そういえばあの時もそうだったよな。
学生時代。俺は高校2年で中退したのだが、それまでずっとクラスのいじめっ子にいじめられていてな、その時、よく見せ物みたいにボコボコにされてたんだ。
教室の机で俺といじめっ子を囲い、作られたフィールド。
その中でボコボコに殴られ蹴られる俺。それを見て笑うクラスメイトたち。もちろん誰も俺の味方なんてしねぇ。
それは今の状況と良く類似していた。
やっぱり転生してもダメだったか。ったく、俺はいつもこうだ。
社会で輝く主人公たちに踏み台にされ、バカにされ、嘲笑われるモブ。それが俺って存在なんだろうな。
遠のいて行く意識の中で、自分のまぶたから涙が零れ落ちて行くのが分かった。
あぁ、どうせ俺なんて誰からも――
しかし、そこで俺は周りから向けられる歓声の中で、確かにその声を聞いた。
「とうまーッ!!何負けてんのよ!!私たちは何時までも貴方の味方なんだから頑張りなさいッ!!」
「……ッ?」
更に言葉は聞こえて来る。
「とうまッ!!私の背中を押してくれた――頼りになるリーダーが何やってんだよ!!」
「とうまッ!!こんなとこで負けちゃダメだよッ!!頑張れぇぇぇぇ!!」
「……ッ!!!!」
――へッ、
「あ、だ、大丈夫ですか?ダメージは相当受けている様に見えますが。」
「うるせぇ、下がってろ」
「す、すいません!」
俺は自分の容態を確認していた審判にそう言い下がらせると、横にある自分の武器を拾い、身体中の痛みを我慢しながら立ち上がる。
はぁ、一体どんな勘違いをしていたんだ、俺はよ。
確かに高校時代俺に味方なんて誰1人いなかった。
でもよ、いるじゃねぇか……!俺をこうして慕ってくれる最高の仲間が!!
「あ?なんだお前、まだやんのか?」
「あぁ、目がやっと覚めたよ」
「あん?」
「見とけよ、これは俺の――あの時の続き、リベンジマッチだ。」
そしてこのリベンジマッチは――あの時とは違う最高の仲間が付いているッ!!
---
「この一撃で全てを決めるッ!!」
「ハハ!やれるもんならやって見やがれ!返り討ちにしてやるよ!」
俺はプルプルと震える身体に心でムチを打ち、ディザードに向けて全速力で走る。
すると、ディザードもそんな俺に合わせる様に全速力で走って来た。
やっぱりな。こいつはどうせまたさっきみたいに俺を力でねじ伏せようという魂胆だな?
へッ、良いよなぁ元から体格に恵まれてる奴はよぉ。
だが、俺にはその代わり――まぁなにかがある訳でも無いんだが、一か八かこれに賭けるしかねぇ……!!
「おらおらッ!この一撃でお前は終わりだァ!」
その時にはもう相手の領域内に入っており、その大剣を振りかぶり俺に向けて振り下ろし始めていた。
それに今から同じ様に対抗してこっちも剣で攻撃しようとしたって、別に特段スピードがある訳でも無い俺は確実に負けるだろう。
だから――
「……フッ!!」
そこで俺は自分の身体に急ブレーキを掛け、後ろにバックステップで下がった。
「なッ!?!?」
そこで、予想通り思いっきり空振りをするディザード。
ほらなッ!お前はなんでも力でねじ伏せようとするから攻撃さえ避ければ攻略なんて簡単なんだよ!
そして、相手が今空ぶった武器は普通の小さな剣なんかでは無い。
身長とほとんど変わらない巨大な大剣だ。当然反動もその分デカくなる……!!
「ひ、卑怯だぞお前!」
「ん?卑怯だと?――」
俺は反動でよろけるディザードに斬撃の照準を合わせると――バックステップの反動を利用し、前へ飛ぶ様に突撃する。
そして――
「俺みたいなモブはこうでもしねぇと勝てねぇんだよボケがァァァァァァッ!!」
会心の一撃でディザードを吹き飛ばした。
『な、なんと!!これは驚きましたッ!なんとあの状態からとうま選手が逆転だァァァ!!』
「やったぞ……勝っ……」
だが、そこで身体の限界が来たのか、俺の身体は膝から崩れ落ち、意識も同様に闇へ落ちて行った。
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