【悲報】魔王の我、日本に転移し数日目、一目惚れの女に『我の女になれ命令』するもあっさり振られる。ここから始まった生まれて初めての恋愛奮闘記。

カツラノエース

文字の大きさ
8 / 29

第8話だぞ【仕事終わりに......】

しおりを挟む

「はぁ、はぁ……もう、動けん、ぞ……」
「ん?魔王というのはそんなに体力が無いものなのか?」
「く……我、戦う時は魔力を使うからこうやってそのままの体力は使わないのだ……」

 って、絶対聞いてないだろ……悠介め……
 辺りが暗くなった頃、無事作業を終えた我はひとつの建物の前に連れてこられていた。

「ほら、着いたぞ。」
「あ、あぁ」

 そうして我は、車の扉を開けて外に出る。
 すると目の前には、廃れた横長の二階建ての建物があった。
 な、なんだここは……

「悠介、ここはなんだ?」
「ここは、今日からお前が暮らすアパートだ。お前の部屋は204――階段を登って1番奥の部屋、生活に必要な物はある程度準備しておいた。」

「とりあえず、そこにある服を着てすぐ出てこい。今日は仕事初日、特別に銭湯に連れて行ってやる。」
「銭湯?」
「風呂のことだよ。」

 あぁ、風呂か。確かに我はまだこの世界に来てから一度も入っていなかったからな。
 これは普通に嬉しいぞ……!


 それから、風呂と聞き一気に気分の上がった我はウキウキで茶色に錆びた階段を上がり、言われていた通り一番奥の部屋の前に来た。

 これってあれだろう?旅している冒険者たちが利用する宿の様なものだろう?
 だから、大丈夫だ。そこまで内装の事に関しては高望みしていない。

 確かに、良い宿もあるにはあるが、この外見からしてそうでは無い事くらい分かる。
 ふっ、どうせ高望みしていると思っていただろう?残念だったな。

 ガチャ、階段と同じ様に錆びた扉の、唯一最近付けられたのか綺麗なドアノブを我は持つと捻り、手前にそれを引く。

 するとその瞬間、部屋の中からモワッとホコリの匂いが溢れてきた。
 中は明るい。どうやら悠介が付けてくれていたようだ。

「よし」

 そして、そのまま我はこれから自分の物になる部屋に入った――って、は、はぁ!?

「って、狭すぎやしないか!?!?」

 そこで我は、たまらずそう叫んだ。
 い、いや、さすがにこれは狭すぎるぞ……!?

 まず、入ったすぐ右にあるキッチン。まぁ、これは分かる。
 そしてその反対、左には扉の付いていないトイレがあり、正面には小さな部屋が一部屋。以上だ。

 こ、これ……我がずっと城に住んでいたから小さく感じるのか……?いや、違うだろう。いくらなんでも狭過ぎるぞ。
 だが、そこで先程の叫びが不審に思われたのか、

「おい?何をしてるんだ。お前の隣にも職場の仲間が住んでいるんだから静かにしろ。それに、早く着替えて出てこい。」

 開きっぱなしにしていたドアからそう悠介の声が聞こえて来た。

「あ、あぁ。分かっている。」

 だが、そこで我が「おい悠介!この部屋狭すぎないか!?」と叫ぶことは無かった。
 確かに、昨日までの我ならそう叫んでいただろうが、今日、我は1日通して悠介や、周りの人間たちに仕事の事を教えてもらったのだ。

 確かに口調は荒いし、命令も厳しいものばかりで、まだ何度も言い返したりはするが、それでも分かる。
 きっとこれは新しく入った我の為にしてくれている事なんだと。

 それに、仮にもこの部屋だってタダで貸してくれているのだ。たとえどれだけ酷い部屋だったとしても貸してくれた悠介に文句を言うのは違うだろう。
 それこそ、魔王としてのプライドが許さない。

 だから、そのまま玄関を上がると、部屋の真ん中に置いてあった布団の上に置いてある何着かの服の中から、我はひとつ選んで着替える事にした。


「お、やっと来たか。遅いぞ」
「あぁ、すまない」

 それから我は着替え終わり、階段から降りて悠介の車の方へ行くと、そこには待ちくたびれた様子の悠介が車にもたれかかって暗い空を見上げて待っていた。

「よし、じゃあ乗れ。銭湯はここから近いんだ。すぐに着く。」
「了解だ。」
 
 我と悠介は車に乗り込む。
 こうして銭湯へ向かった。

 ♦♦♦♦♦

「こ、これが、この世界の風呂なのか……!!」
「おい、他の人も居るんだ、静かにしろよ」

 それから銭湯に着き、会計などを悠介に済ませてもらった後、服を脱いで浴場へと入った瞬間、我はついそう口に出してしまった。

 だって、ものすごく広いではないか……!我の城も中々の大きさではあったが、流石にここまでとは思わなかったぞ……!

「お、おい悠介……!もうあそこに飛び込んで良いか……!?」
「ダメに決まってるだろ。まずは身体を綺麗に洗うぞ。湯船に浸かるのはそれからだ。」
「くぅ……まぁ良いだろう。」

 楽しみは後に残しておく方が良いしな。
 そうして悠介の背後をついて行く我。

「じゃあ、ササッと洗うぞ。」
「あぁ、って、お、おい悠介?」
「この管の様な物から、どうやって湯を出すのだ……?」
「お前、殴るぞ。」


「ふぅ……最高に気持ちが良いぞ……」
「だろ、仕事終わりの風呂は俺も好きだ。」

 それから、シャワーという物の使い方を悠介に教えてもらい、身体を洗い終わった我は、遂に待望の湯船へ浸かった。
 はぁ……この身体全体を湯が包み込む感覚……これは他の何でも感じる事が出来ない感覚だ……

 先程頭を洗った時も痒いところが無くなって行く感じで良かったが、久しぶりの湯船も良いものだな。

「で、どうだった?初めての仕事は」
「ん?あぁ、まぁ中々に疲れるが、我は魔王、そのくらい余裕だ。」
「そうか、それなら良かった。――好きなんだろ?ゆうりの後輩の事」
「――!?」

 って、な、何故悠介がその事を――

「な、何故!?その事を知っているんだ……ッ!?」
「まぁ、ゆうりから色々聞いてるんだよ。」
「な……」

 あ、あいつ本当になんでも話すな……デリカシーの無い奴だ。

「――まぁ、頑張れよ。俺は応援してるからな」
「ん?あ、あぁ……」

 だが、この悠介は我の見た感じ悪い奴ではないしな、今回は魔王の我に免じて許してやるとするか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...