11 / 29
第11話だぞ【久方ぶりの再会】
しおりを挟むそして迎えた翌日。今日は久しぶりにえなと会う日だ。
「――ここで大丈夫か?」
「あぁ、わざわざありがとうな」
我は集合場所の喫茶店前で止まった車から降りると、ここまで運転してくれた悠介に礼を言う。
(昨日、ゆうりと話した後、どうやらその事を悠介に言っていたらしく、今朝準備をしている我の元に悠介が「喫茶店まで連れて行ってやる」と来たのだ。)
「いや、問題ない。妹の頼みだからな」
「本当に妹好きなのだな、悠介は。」
「当たり前だ。あんなに可愛い妹、そうそう居ないぞ」
「た、確かにそうかもな」
全く、前から時々思ってはいたが、やはり悠介、妹――ゆうりの事大好きだよな。
というか、そんな悠介に対して気を使える様になった我はやはりこの世界に馴染んで来たという事なのだろうか。
「――じゃあ、我は行くとするぞ。」
「あぁ、明日からはまた毎日仕事だ。今日は十分に息を抜けよ。」
「あぁ」
そうして悠介はどこかへ車で走って行った。
なんだかんだ、良い奴なんだよな、悠介は。――っし、それじゃあ我も行くとするか。
そして我はすぐ後ろにある喫茶店の方を振り返る。――するとそこには、
「ねぇ、さっきから兄貴となに話してたのよ。早く行くわよ。」
「お久しぶりです!魔王さんっ!」
いつもより派手めな服を着ているゆうりと、水色のワンピースを着るえなの姿があった。
♦♦♦♦♦
それから2人と合流し一緒に店内に入ると、どうやら今は空いているらしく、すぐに席へと連れられ、食べ物を頼んだ。――のだが、、
「――って、魔王!アンタさっきから話聞いてる?」
「――ん?あ、あぁ!すまない、少し考え事をしていた。」
「はぁ、全く。あたしと2人の時は別に良いけど、えなの居る時にそれはダメなんじゃないの?」
「あぁ……」
そう、実は悠介と初めて会ったあの時から我は何度かこの喫茶店に訪れていた。(悠介と仕事の昼休みに来たり、仕事終わりに家へ押しかけてくるゆうりと来たりだ)
だが、今日の様に全く話や食べる事に集中出来ないのは初めてであった。
「あ、あの魔王さん……?スパゲッティお口に合わなかったですか……?すいません、お好きなサンドイッチもあったのに私が勧めたせいで……」
「ん?あぁ!?い、いやいや!!全然そんな事ないぞ!?むしろとても美味しいぞ!」
「そうですか……?魔王さんさっきから全然食べてないから……」
「……ッ!!」
そうして我は急いで目の前に置かれたスパゲッティという食べ物を口に詰め込む。
いや、本当にスパゲッティが口に合わなかった訳では無い。今言った通りとても美味い。
だが、傍から見たら確かに口に合わなかったのではないかとも思われるだろうな。
いつも食べ物に対する食いつきの良さを見てきたえななら余計だろう。
(違う……違うのだえな……)
そう、我がこんなにも無口で会話や食事に集中出来ていない理由。それは目の前で我を心配そうな目で見ながらスパゲッティをすするえなにあるのだ。
あ、勘違いするなよ?別にえなが何をしたという訳では無い。我がひとりで久しぶりに会ったから緊張しているだけだ。
なぜか……先程から会話に参加しようとしても、寸前で(変な事を言ってしまったらどうしようか……)と、止まってしまう。以前なら全く無かったのにだ。
全く、笑えるよな。こんなの魔王らしくないだろう。
我自身もそう思うぞ。
だからそこ、今すぐに調子を戻したいのだが……
「……ッ」
無理だ、やはり寸前のところで止まってしまう。
――だが、だからと言ってこうずっと考えていてもラチがあかない。
(よし、それなら今日は無理に話そうとせず、とりあえず2人の会話を見ているとして、何か話を振られたら話す事にしよう。)
「――あ!そう言えば魔王さん!働き始めたんですよね!確かゆうり先輩のお兄さんの紹介とかって、」
すると、そこで早速えなから話が飛んできた。
「あ、あぁ。」
「どうです?やっぱり大変ですか?」
「うむ、まぁ正直に言うとそうだな、大変だ。だが、時々休みもある。だから、全然大丈夫だ。」
「へぇ~。なんだか魔王さん、変わりましたね」
笑顔でそう言ってくるえな。
「そうか?我はえなと初めて会った時からずっと変わらず魔王だぞ?」
「まぁ、それはそうかもですけど……なんていうか、現実的な考えをする様になったなって思います」
現実的、か。はは、確かにそうかもしれんな。
我は今まで、一向に働こうとはしなかった。きっとあの時悠介が仕事場に誘ってくれていなかったら今も前の様に食べ物を盗む公園生活を続けている事だろう。
今までの我からしたら、まず「誰かの下で働く」という事自体がありえなかったのだ。
だが、今は悠介と出会い、共に働く事でその考えは変わった。今まで自分に従って働いていた手下の気持ちも多少は理解する事が出来た。
そして、その変化は我にとってとても良かった事だと思う。確かに、今までの様な自分が常に頂点に立ち続けるのも良いが、こうやって同じ目線で共に頑張るのも、悪くは無いからな。
「現実的……確かにな。」
だから我は、「変わりましたね」そう言ってきたえなに笑顔でそう返した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる