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第10話だぞ【夜の来客】
しおりを挟む我が悠介の仕事場で働き始めてから数日後――何時も通り仕事を終え、部屋の前まで車で送ってもらった後、部屋の中で予め買っていた夜食のサンドイッチを食べていると――
コンコン
古い扉がそんな高い音を出した。
ん?なんだ?こんな時間に誰か我に用があるのか?――って、ま、まさか悠介か……?
い、いや、確かにそれなら尋ねてくる理由も理解出来るのだ。今日、仕事中に軽いミスをしてしまってな。(コンクリートを作る時に、水を多く入れ過ぎて使い物にならなくなったのだ。)
で、でもそれに対して悠介は「失敗は誰にでもある。それを次に活かしていけ」なんて涼しい顔で言ってたから、別に怒ってた訳じゃ無かったと思うんだが……
「……」
我はサンドイッチを食べる手を止め、無言で考える。
すると、そこで扉の先にいる人物が無視されているのかと思ったらしく、
コンコンッ!!
再び、今度は先程よりも強く扉が叩かれた。
も、もう良い!とりあえず考えるのは後だ!
「誰だ?鍵は空いている。入ってこい」
そこで我は扉の向こうにいる誰かにそう投げかける。
すると、
「なんだ、アンタいたのね。てっきり留守かと思ってたわ」
「……ッ!!ゆ、ゆうり?」
扉が開き、その向こうには悠介ではなくその妹のゆうりが立っていた。って、な、なぜゆうりがここに……?
「どうしたのだ?」
「いや、アンタが働き始めてから数日経ったから、上手くやってるかなってさ。」
「?ま、まぁ良い。とりあえず上がれ」
「ええ」
「へぇ、アンタ、こんなところに住んでるのね。まさか魔王がボロ部屋に住むなんてね」
「おい、それ絶対バカにしてるだろ」
「いやいや、してないわよ。魔王も我慢できるんだなって思っただけ。あたしのイメージではさ、魔王とかめちゃくちゃ豪華な部屋じゃないと怒りそうじゃない?」
「ゆ、ゆうり……確かに我は元の世界では城に住んでいたから、この部屋はすごく窮屈だ。だが、わざわざ悠介が貸してくれてるんだぞ?そこに文句を言うなんて――それこそ魔王のプライドが傷付くぞ。」
はぁ……全く魔王をなんだと思っているのだ。
――と、まぁ雑談はこのくらいにしておいて、
「――で、ゆうり。さっき言った我が上手くやっているか見に来た以外にも要件があるのだろう?」
「――なんでそう思うの?」
「いや、だって本当にそれだけだとしたらわざわざ我の部屋まで来る必要が無いだろう。」
我の事など兄の悠介からいくらでも聞けるだろうからな。
それに、今は夜。ゆうりもおそらく仕事帰りなのだろう。我がゆうりだとしたら、わざわざそれだけの為に寄り道なんてめんどくさい事したくないからな。
すると、それに対してゆうりは数秒間黙った後、「はぁ……」とため息を吐くと、
「話の途中でいきなり言ってリアクションを見たかったのだけれど……もう良いわ。そうよ、アンタの言う通りあたしは今日、もちろん最初に言った事も要件のひとつだけれど、それともうひとつ、伝えに来た事があるのよ。」
「伝えに来た?我に?」
「えぇ」
なんだ?すごく気になるぞ。
「何を伝えに来たのだ?」
我はゆうりにそう問う。
すると、ゆうりは「実はね~」と、分かりやすく期待させる様な言い方をしてから、
「この前、えなが会社で大切な企画を任されたって言ってたでしょ?公園に来れなかった原因の。その企画が上手く行ったのよ。」
「おぉ!という事は――――なんだ?」
いや、確かにそれは良いことではあるのだろうが、この世界に来てまだそこまで経っていない我からするとそれがどの様な意味を指すのかがよく分からなかった。
という事は、ゆうりはその事をわざわざ我に伝える為にここまで来たというのか?我がえなの事を好きだから?
もちろん気持ちはありがたいが、それこそ悠介を通して伝える事が出来るだろうと我は思った。
――しかし、どうやら違うらしく、
「はぁ……アンタ、ホントに鈍感ね。」
「?」
「普通に考えてみなさいよ、ホントにその事を伝えに来ただけな訳ないでしょ?」
「――えなね、今回の企画に取り組む間、休みの日も削って働いていたの。」
「あぁ、凄い働き者だな。」
「それで、こうしてその企画が無事に成功したから、明日代休をもらったのよ。」
「おぉ、えなは明日休みなのだな。良かったではないか。」
「あたしも休みなのよねぇ~」
「あぁ、それで?」
ダメだ。ゆうりが何を伝えようとしてるのかが全く分からんぞ……?
しかし、どうやらもう気付いていなければいけなかった様で、しびれを切らしたのかゆうりは「あぁ!もうっ!」そう声を張り上げると、
「だから!明日アンタとあたしとえなの3人で喫茶店にでも行こうって事よッ!!」
「……ッ!?」
って、マジか!!!
そ、そうだ!よく考えればそうではないか!確かに我だって明日は休みだしな!
長い期間会っていなかったから、こんなに気軽に会えるという事を忘れかけていたぞ。
でも、今のでそれを思い出した。それなら――
「――で?どうするの?行くの?行かないの?」
「行く!行くに決まっているぞッ!!」
「はぁ……たく、調子いいんだから」
ふははっ……!!見ておけ……!明日こそえなとの恋を進展させてやるからな……ッ!!
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