【完結】今後の鉈枠は、

ほわとじゅら

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第二章 ヘイトコメを止めるには?

#15:再訪

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 店に向かうと明かりが点いていた。

 これから向かうというメッセージを送ったのだから、先輩は店で俺が来店するのを待っているのだ。

 意を決してドアを開いた。カランという鐘の音と共に、

「いらっしゃい」

 言葉を掛けられた。

「お、おう。えっと、どこでも座って良いの?」

 カウンターテーブルしかない店内では、どこを座ってもパティシエと対面することになる。

 俺が以前、急遽使わせてもらったカウンター奥のテーブルに視線を向けると「できれば」と、声が飛んできた。

「え?」

「できれば真ん中に座ってくれないか?」

「真ん中?」

「特等席、だから」

 言葉をわざわざ切って、俺を見つめる先輩は「別にどこでも好きに座ってくれても構わないけど」と付け足した。

 パティシエの作っている様子を間近にみられる場所だ。そんなこと俺でも分かるが、どことなく先輩との距離が一番近い気もして、少し気まずさを感じてしまう。

 しかし促されたからには無碍むげに断ることもできなくて、俺は言われるまま、ど真ん中の席に腰を下ろした。

「それで何のデザートをご馳走してくれるんです?」

「ヨーグルト」

 間髪入れずに答えられたが、意外すぎて思わず「え?」と聞き返してしまった。

「ヨーグルトって、カレー食べたあとに合うデザートだから?」

「そうだよ」

 先輩の手は、カウンター内で忙しなく動き始めた。白い液体をボールに入れて、泡だて器で混ぜ始めた。

「じゃあ市販のヨーグルトで良くね?」

「まさか。そんなものを俺が出すとでも?」

 質問を質問で返されてしまった。きっとヨーグルトを使って何か先輩なりにアレンジしたデザートを提供してくれるのだろうけど、完成するまでの間、他に何を喋って良いやら。

「ちょっと意外だな」

 ぼそりと呟くように先輩が言葉を零した。

「意外って何が?」

「お前の配信」

 俺の配信の何が意外だというのだろうか。

「どうしてそう思うんです?」

「だって予告しなかったじゃないか。さっき」

 そう指摘されて、俺はハッとした。

「やべ! そうだったっけ!?」

 トレーナーのポケットからスマホを取り出して、自分のSNSを表示させた。〈今から配信始めるぞ!〉という配信ページに誘導する呟きから俺は何も更新していない。

 いつもなら配信内で次回予告を掛けてから、同時にSNSも更新するのだ。

「ウッカリしてた」

 俺は両手の指先を高速で動かした。SNSに次回予告を呟いて軽く謝罪の言葉も入れておく。既に何件か、予告がないことを心配したリスナーからの問い合わせが入っていた。

「あっぶね」

「珍しいな。予告を忘れるなんて」

 先ほどの開示請求で人生を狂わされたから謝罪しろという投げ銭付きの書き込みに振り回されたからだ。稀にあることなのだが、他のチャンネル主と間違ってリスナーが来ることもある。

 一瞬、配信が荒れることもあるが7年目ともなると場数も踏んできているから、何とか乗り切れる。それでも俺の精神は疲弊ひへいするけれど。

「ムリに切り上げたから単純に予告をし忘れただけです。俺疲れちゃいましたよ。はぁ、こんなときは甘い物を食べたいなぁ」

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