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第三章 コラボはムリなんですが?
#18:漫画みたいなことが起こるって、マ?
しおりを挟む「い、い、い、妹おおおおおお!?」
思わず声が出た。店中に反響するくらいのデカさだったが、俺は声を抑えることができなかった。
「うるさぁ~!」
先輩に紹介された妹は両耳を塞いで、片目を瞑り、頭の後ろで縛ったポニーテールの髪が揺れた。兄と同じ黒髪に店のライトが当たって薄茶色に見えた。良く見れば、イケメン兄に負けず劣らずの整った可愛い顔立ちである。
「あれ。言ってなかったっけ?」
とぼけたように言葉を零した先輩は首を傾げた。彼方に視線を向けて記憶を遡るように昔を思い出しているのだろうが、俺は一度だって妹がいるだなんて聞いたことがない。
「だって俺、先輩の家に遊びに行ったことありますけど、女性っぽい部屋なかったし!」
俺のためにバースデーケーキを先輩が作ってくれたとき、学校に持って行けないから家に食べに来いと言われて、昔、近江家にお邪魔したことがあるのだ。マンション住まいで、小綺麗な先輩の家は、品の良い家具で揃っており落ち着いた部屋だったが、妹がいるような女性的な部屋などなかった。
「あたしのママとパパが離婚したからよ。高校入学直後にね! あたしは丈田莉愛。背丈の丈の字と田んぼの田の字。草かんむりに利発の利を組み合わせた漢字と、愛してるの愛って書いて、莉愛。よろしくね!」
割って入るように喋り出した彼女は、自ら名乗り雑な敬礼でポーズをした。丈田は母親性とのことだ。
「はぁ。丈田莉愛さん。どうも。俺は」
「鉈チャンネルの人でしょ? 鉈ちゃん!」
間髪入れず彼女は俺のことを指を差して突っ込まれた。
俺は、直ぐに真横を向いた。先輩は少し気まずそうに俺を見て「例の部屋の件。莉愛は知ってる」とボソリと呟いた。
「はぁ。やっと会えたぁ。鉈枠の中の人。嬉しいなぁ。あたし一度でいいから会ってみたかったのよね!」
黄色い声を上げて、莉愛は真っすぐに俺を見つめる。満面の笑みだ。
「は、はぁ。それはどうも」
「あ、それと今日は、どうもありがとうございました!」
莉愛は深々と、お辞儀した。ポニーテールの髪も逆さまに転げて、長い髪は地面に着きそうなほどだった。
「え、今日は?」
莉愛に言われた言葉が分からない。彼女に会ったのは今日が初対面だ。
一体、何のことだと訊ねる瞬間、先輩の口が開いて、
「今日の凸者」
またボソリと呟いた。
「え。凸者?」
ふと思い出す。今日の配信で取り上げた凸者のことを、俺は思い浮かべた。
配信で取り上げたのは、配信者2名。
ゼノゼノンと、もう一人は―――。
「りある」
俺が口にした言葉に、ピンと手を真っすぐに伸ばして「はい!」と元気よく答える彼女と再び目が合う。
「りある!?」
また店内中に響く俺の声。莉愛は再び両耳を塞いだ。
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