【完結】今後の鉈枠は、

第四章 言い掛かりを止めるには？

＃０７：再会

　もっと驚いたことがあった。

　俺は運び込まれてから一週間近く昏睡から目覚めなかったらしい。というか、ずっと寝ている状態なのだが、本日やっと目覚めたのだ。

　医師からは色んな人が俺に呼びかけたことを聞かされた。無論、看護師だけでなく、感染時期に東京都内から地方へ移り住んだ俺の両親が遥々駆けつけて来てくれたり、俺の友人たち、おそらく智景や田茂、近江先輩が来てくれたのだと思うが、事情聴取に来たらしい刑事の何人かも呼びかけたとのことだった。

　俺は、無反応だったというが。

　悲しいかな。ラストが灘広で、なんで奴の呼びかけで俺は起きたのか。さっぱり分からない。だが嫌悪感が眠りの底から嫌だと拒否反応を起こして叩き起こしてくれたのだろうか。

　目覚めたのは良いことだが、正直、全然嬉しくない。

「あー、それより腹減ったなぁ」

　灘広に起こされた時点で既に午後。それから看護師に連れていかれて検査を受けまくり。いくつかの検査結果は数日に掛かるとかで、その間これから身内を再度呼んでくれるらしい。

「なんでも良い。何か腹に入れるもの…」

　俺には栄養入り点滴しか与えられていない。病院食は、明日からと聞かされたから、すなわち今の俺の胃はカラカラの空腹なのだ。

　窓の外に見えるのは、曇天どんてんの空。というか白くて重たそうな、ちょっと灰色のかかった雲だから雨が降りそうに思えた。

「なんで先輩が来てくれた時、俺、目覚めねぇんだよ」

　どこにも行き場のない愚痴が思わず出てしまう。命からがら助かって良かったのに、最悪な景色と共に目が覚めるなんて。

　思い出して、溜め息が出た。

　ガラガラと戸が開く音が聞こえる。何度目かの看護師が訪れたのかと思い「お疲れさまでーす」と、まだ見えぬ人物に声を掛けた。

「宗武。起きたのか、良かった！」

　俺の病室に入って来たのは、ようやく聞きたかった声だ。

「あ、先輩！」

　俺が感動の再会で先輩に呼びかけた瞬間、お腹の虫が盛大に鳴った。

「悪い。様子を見にきただけで何も持ってきてないんだ」

　眉を下げて残念そうに先輩は告げた。

「いや別にいいんすよ。俺。先輩の顔が見れただけで十分です。先輩も元気そうで良かった！」

「それはこっちのセリフだよ。まだ体中痛いよな？」

　心配そうに俺を見つめる先輩は「売店で何か買って来ようか？」と言ってくれた。

「体中すごい痛いっす。全身包帯だらけだもん。てか、ゼリーでも良いんで何か食べさせてほしいっす」

「そうか。分かった。ゼリーだな？　他には何かいるか？」

　先輩がポケットからスマホを出した時だ。メモ代わりに俺の欲しい物をスマホに記録するんだろうけど、そんなことより、俺は先輩の手元が気になった。

「先輩それ、どうしたんすか！」

　右の甲が包帯で巻かれている。大事な手を怪我しているのだ。

「あ、あぁ、これは――」

　言いかけたとき、俺の病室のドアを開けて、ガラガラと人が入って来る気配がした。