配信の果て

ほわとじゅら

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不穏なスタート

元妻のこと

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 企画部には、そのうちに来ようと思っていたからフギからの誘いに乗ることにした。

 俺が配属されたマネージャーたちがいるのフロアは、一面にPCやデスクが並ぶ大所帯おおじょたいだ。だが逆に企画部は、数名しかいないと聞いた話の通り4つのデスクの内、2つの机上だけパソコンが2台設置されているだけだった。

「結構広いフロアなのに一角に机が数席しかなくて、壁際のコーナーにソファ席があるだけなんだね」

「凄いサッパリとしたオフィスでしょう? 今日は寿々丘さんは出張でいなくて、新入社員さんは休職中で、僕に色々と教えてくれる市河さんという方は別の部署に駆り出されていて終日オフィスには戻ってこないんですよ」

 もう一人、女性社員がいる筈だ。俺と宇多野のターゲットとなるパンファミのリーダーの元妻だ。

「そういえば初日に来たとき、挨拶をしたんですよ。もう一人いましたよね?」

 俺から問いかけると、彼はコクコクと頷いた。

「あ、御堂さんのことですよね?」

「そうそう。その御堂さん。綺麗な人が入りましたよね?」

 若干、意地の悪い返しだが彼は苦笑を浮かべて軽く首を横に振った。

「いやいや僕はぜんぜん相手してくれませんよ。つい先日、デートに誘ったんですが、まったくダメでしたから!」

「入ったばっかりでもうナンパしたのかよ!」

 思わずツッコミが出てしまった。

「言っておきますけど僕は誰かれ構わずナンパなんかしませんよ?」

「ほんとかぁ?」

「ほんとです!」

 彼は一度咳ばらいをした。

「数週間前のことなんですけど。僕が企画部で働きたいと直談判しにきたとき無下に追い返すんじゃなくて、僕の話を親身しんみに聞いてくださったんです。普通ならマネージャーに押し付けたり、適当に軽く聞いてあしらったりするんじゃないかとも思ったんですけど。最後まで僕の言い分を聞いてくれた。だから、これはもしかしてワンチャン有りなのかなって」

 青年の悩みや希望を親身に聞いてくれたという優しさを、自分のことが好きなのかもしれないと勘違いをしたのだろう。専属契約で結んだ大事な配信者だからこそ丁重にもてなしただけだと思うが。

「そうか。でもデートを断られたからといって落ち込むことはないさ。また次はあると思うよ」

 適当なフォローを返したつもりだが、フギは不思議そうな目でみるように反論してきた。

「何言ってるんですか。御堂さん。僕とデートをしてくれましたよ?」

「は? デートに誘ったけど、まったくダメだったって今、自分で言ってたじゃないか!」

 軽い動作で真横に首を振りながら、彼は苦笑した。

「いえ、そうじゃないんですよ。実はフシのシチュボをGWまでに作る課題が入社直後に出たんで、早速、彼氏彼女のデートの台本を作るという話になって。リアル感を引き出そうと御堂さんに疑似デートの提案をしたんです」

「はぁ。シチュボ台本作りのためのデートか。なるほど」

 シチュボくらいは知ってる。サンライブに潜入前から、いろいろと調べた。

「御堂さんが僕との疑似デートに乗ってくれたとき、彼女がデートの調査費用は経費に計上できるって、寿々丘さんに許諾を得られたから行けるわよって言われてしまいました。休日デートは完全に仕事として応じてくれたので、まったく僕は相手にされませんでしたよ」

「いやいや。それは建前かもしれないよ。御堂さんは超真面目なのかもしれない」

 確か碧山の調査では、パンファミのリーダー元夫は元妻より年上。つまり単に彼女は、年下に興味がないだけなのかもしれない。

「そうですかねぇ」

「ところで。その肝心の御堂さんが今日いないのは、寿々丘さんと出張なのかい?」

「いえ、そうじゃなく。今週は酷い風邪で休んでいるんです。先週末に朝から晩まで丸一日じゅう疑似デートに付き合わせてしまいましたから。いやぁ僕だけはしゃいじゃって。申し訳ないことをしました」

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