転生生活をまったり過ごしたいのに、自作キャラたちが私に世界征服を進めてくる件について

ihana

文字の大きさ
33 / 48

33話 幹部会議

しおりを挟む
 ある夜、メアリーの第九階の特別執務室にて、ここ壁に耳あり障子にメアリーのPMC幹部たちによる会議が執り行われていた。
 出席者はクモの大福、ハムスター亜種、阿修羅マナ、そしてリラぁッくまだ。
 特段喧嘩をするという雰囲気でもないのだが、みなレベルが高いせいか各々から強力なオーラのようなものが発されており、低レベルプレイヤーがいようものなら恐怖におののいてしまうことであろう。

「さて、揃っておるかの。議論の内容は事前にも通達しておったとおり、今後の方針についてじゃ。豚トロ様は今後の方針なんてとくにないと言うておったが、そのようなはずもなかろうて」
「だな。豚トロ様は敢えて軽いノリで俺たちに話されるが、ありゃぁ間違いなく俺らに畏まった態度を取らせないための演技だ」
「であろう。わらわにも、もっと気軽に話してくれてよいと言われたのじゃが、畏れ多くてできもせん。
「わたくしにも友達のように接して欲しいと言ってこられました。さすがに御冗談が過ぎるのではと思いましたよ」

 一同がクスクスと笑っていく。

「それで、今日の議題は豚トロ様が今後どのようなことをされようとしているかについてじゃ。臣下たるもの、主の考えをいち早く読み解き、そのための準備を進めておくのは当然の行いと言えようて」
「その前に少しよろしいでしょうか。わたくしはそこの悪魔がさも当然のごとくこの幹部会議に参加していることに疑問があるのですが」

 阿修羅マナが敵意満々にリラぁッくまを睨みつける。

「わらわが呼んだんじゃ。たしかにこの者の忠義には疑問が残ろう。じゃが、こやつは豚トロ様と出会ってすぐに忠誠を示し、豚トロ様もこの者を進んで起用しておる。豚トロ様のお考えを知る上では議論の場におらねば話が進まんと思おての」
「情報ならば聞くだけでいいんではなくて? わざわざ議論の場に呼ぶ必然性がわからないのですが」
「こやつはレベルも2000近くある。我ら上位PMCとほぼ互角の実力の持ち主じゃ。場合によってはメアリーの組織編制に組み込んでもよいと思おておる。むろん豚トロ様の御許可を頂いてからじゃがの」
「メアリーに組み込むですって……? クモの大福、あなた耄碌したの?」

 棘のある言葉が飛ぶと、ハムスター亜種が威嚇のごとく尻尾を地面に叩きつける。

「おい阿修羅マナ、メアリーを離れるという不忠を犯しておきながら口が過ぎないか? 俺らぁずっとここを守ってきたんだぞ? ここの人員不足は前々から指摘されていたことだ」
「ならばわざわざメアリーに組み込む必要などないのではなくて? わたくしはそのためにポッピン教を用意したのです。外部組織であればいざとなったらいつでも切り離すことができます」
「ああそうだな。当然できることにも大きな制約があるがな」

 今度はハムスター亜種と阿修羅マナが視線をぶつけ合い火花を散らせる。
 そこへリラぁッくまが、手をポンポンと叩いてお互いの自制を促していった。

「皆さん、私がこの場にいない方が良いのであれば退席しますよ。今もっとも豚トロ様に対して不忠となる行為は、ここで内部の諍いを生むことでしょう。私がいなくなることでそれを防げるのであれば、そうすることになんの迷いがありましょうか」

 この呼びかけに二人は敵意を納めていく。

「……。ちげぇねぇな。第一に優先すべきは豚トロ様だ。俺ら個人個人の感情じゃねぇ」
「そうですね。失礼いたしました。あなたが信用にたる人物であるかどうかは今後も目を光らせて頂きます。とりあえずは同席を許可いたします」

 リラぁッくまが肩をすくめることで議論が再開する。

「それで、豚トロ様が今後どのような行動を取られるかについてじゃが、何か情報はあるかの?」

 自然と最近彼女に同行していたリラぁッくまの方へ視線が移るが、彼は首を横に振って見せる。

「ここ数日行動を共にさせて頂きましたが、私は終始豚トロ様から呆れられておりました」
「呆れられた?」
「恐らくは思慮の足りない行動ばかりだったのでしょう。冒険者ギルドでは豚トロ様の偉大さを知らしめようと人間を虫けら呼ばわりしようとしたのですが、殴り飛ばされてしまいました。また、私がゴミクズである人間に何かしようとするたびにため息をつかれ注意を何度もされたほどです」
「人間のごとき低レベルで下等な生き物に対してかの。それはやはり……なにか豚トロ様なりの狙いがあるのであろう」
「ええ。豚トロ様はどのようにしてかはわかりませんが、ポッピン教の拠点をすぐさま言い当て、その後の展開に至るまですべてを見通された行動を取られておりました。そのような御方からすれば、私の行動など幼児のままごとに等しいですからね」
「違いあらんな。まさかこれほど早く阿修羅マナを見つけてくるとは思おておらんかった。これもまた、豚トロ様の知略ゆえであろう」

 そういえば――と今度は阿修羅マナが口を開く。

「わたくしが世界征服などをされてはいかがでしょうかと提案したところ、豚トロ様は否定をすることもなく『ありがとう』と言っておられました」
「つまり世界征服は今後進めるべき案件と考えてよいというわけじゃな?」
「ええ、ただ……。なにかそう、それを述べた時の豚トロ様は酷く苦い顔をされておりましたわ」
「? 世界征服とは少し違う、ということかの?」
「そうではなくて、なにかわたくしが大きな思い違いをしていると言わんばかりの――」

「――世界征服はあくまで豚トロ様の御計画の一端に過ぎない、ということではありませんかね?」

 リラぁッくまの言葉により一堂に雷が走る。
 ややもすると、各々からまさにそれが答えだと言わんばかりの感嘆の息が漏れ出るのだった。

「なるほどの。たしかに豚トロ様からすれば、世界征服なぞ片手でできようて。それはあくまで豚トロ様の御計画の一つに過ぎないというわけじゃ。じゃが問題は、我らがそのお役に立てるかどうかじゃの。かの御方の深遠なるお考えに我らは遠く及ばん」
「だからとて考えるのをやめるわけにはいかないでしょう? 愚鈍は愚鈍なりに出来得る最良を考えなければなりません」

 今度はリラぁッくまが口を開く。

「そういえば、豚トロ様はしきりに人間たちのルールに従い、むやみやたらと殺さないよう私に言ってきました。これは何かのヒントとならないでしょうか?」
「下等な人間をかの……? なぜじゃ。声を発するだけの蛆虫どもになぜそのようなことをするのじゃ」
「考えても見て下さい。豚トロ様がそうされるということは、我々が考えもつかない何か深い思惑があるとは思えませんか」

 ここにいる者たちの知能指数はいずれも世界のトップクラスであるわけだが、その頭脳を千切れんばかりに回転させても答えにたどりつくことができない。

「ふーむ……。難題じゃの……」
「あ! そうそう! これを言うのを忘れてたぜ。豚トロ様は異世界を生きおられたこともあって、そこは酷くつまらない場所だったそうだ。んで、こっちの世界では『刺激を求めている』とおっしゃられていたぜ!」

 ハムスター亜種からの新たな情報により、一同の思考が答えを掴みかけていく。

「……豚トロ様は世界に『刺激』を求めておられる。世界征服の話に苦い顔をされたのも、短絡的な思考で行うな、ということなのでしょうか?」
「たしかに、武力を用いた征服なぞ我らからすれば容易じゃ。じゃが、それでは豚トロ様からして物足りないというわけじゃ」
「納得できる理屈ですね。そういえば以前にも豚トロ様は『称号のためにこんな縛りプレイするなんて、運営マジで鬼畜だよぉ』とおっしゃられておりました。ですがその表情たるや、笑顔に満ちたものでした」
「つまり、豚トロ様は縛りプレイで世界征服を実行されたいというわけじゃな」

 一同がこれに頷いていく。

「すると問題は豚トロ様が一体どのような縛りを設けているかじゃ」
「それは先ほど答えがあったじゃないですか。豚トロ様はあくまで『人間たちのルールに従って』行動されたいのですよ」

 その一言で全員が答えを理解する。

「なるほど。見えてきたぞえ。あくまで奴らの土俵で戦って、しっかりと勝ちをもぎ取りながら世界征服を果たす、というわけじゃな。となると、あとはどのような策を講じるかじゃ」
「そちらに関してはわたくしの方で案がございます。少々時間が必要となりますが、ポッピン教を使って準備を進めて参ります」
「おお、阿修羅マナよ、心強いのぉ。今回に限らず、今後豚トロ様に楽しんでもらうための案は日々出し合っておいた方がよいな。定例会を開催することとしようと思うが、異論はあらんか?」

 全員が了承とばかりに視線を交わす。

「よし。では今後の方針はそれでいこうぞ。このメアリー地上部分にある亜人種の街も発展させていくとなると、いくら手があっても足りんの」
「何をおっしゃいますか。我ら臣下たるもの、主のために死力を尽くしてこそ本望でしょう。むしろこれは望んだことです」
「違いあらんな」

 切実なるその想いを胸に、四者は行動を開始するのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

処理中です...