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35話 鉱山都市レレム
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あのあと、結局セザンヌの街に戻るとろくな目に遭わなそうであったため、メアリーへと帰って来ることにした。
だが、ずっとここにいるわけにもいかないので、次なる目的地を定め旅に出ることにする。
よし、っと出発の準備を終えた私は、名残惜しそうにこちらを見つめてくるPMCたちの方へと視線を向けた。
「そんな一生のお別れのような顔をしなくとも。またすぐ帰って来るからさ」
「じゃが、やはり豚トロ様がここを離れるというのは不安で仕方あらん」
「そうです豚トロ様! やはりわたくしたちと――いえ、わたくしと一緒に過ごしましょう」
「いやいや、私も外に出たいから。それに今回はちゃんとメアリーに貢献するよっ! 鉱山イベをやってこようと思うんだ!」
「鉱山イベ? でございましょうか」
「うん! 帰って来る頃には魔力結晶ががっぽがぽだよ!」
鉱山イベとは、ゲーム中におけるボーナスイベントのようなもので、大量の魔力結晶を得られるイベントだ。
この世界にそのイベフラグが残っているかは甚だ疑問だが、現在メアリーの魔力結晶収支は圧倒的な赤字。
これを改善するためにも魔力結晶を大量に仕入れる必要がある。
「あ、それでさ、イベは二人まで参加可能なんだけど、もしよかったら誰か同行を――」
「俺が行く!」「わらわが行く!」「わたくしがいきます!」「私が行きましょう」
四人から一斉に申し出があるのであった。
「うーん……。全員は多いし、何人かはここを守っといてほしいかな。そしたら、今回は大福ちゃんついてきてくれる?」
「わかったのじゃ!!!」
これまでで一番良いと思われる返事と共に、大福ちゃんがルンルン気分でこちらへとやってくる。
対するほかメンバーは悔し気な表情を浮かべていた。
そんなに私と一緒に旅行したいのだろうか……。
「人間には変化できるよね?」
「もちろんじゃ!」
「よしっ! そしたらいざっ、鉱山都市レレムの街へ!」
「うぅ、わたくしもご一緒したかった……。いや、まだ隠れてこっそりとついて行くという選択肢が――」
「ないからね。マナちゃんはちゃんとメアリーを守っといてね」
いやどうしてもって言うならそこまで縛るつもりもないが、可能ならここに滞在しておいてほしい。
*
「おおお! 硫黄の匂いがする!」
レレムへとやって来た私は、早速ゲームとの差に気付いて感動する。
エクスペディションオンラインには嗅覚の機能が備わっていなかったため、こういった感性を味わうことはできなかった。
「たしか、レレムの山は活火山じゃったかの」
「……あれ、前はそんなことなかったような気がするけど、気のせいか?」
山からあんなに煙がモクモクとは出ていなかった気がする。
が、ゲーム内のエフェクトの記憶なんて曖昧だ。
「よしっ! まずはギルドに行ってみましょう!」
冒険者ギルドに到着すると、なんだか物凄い視線に晒されることとなった。
「え……? 何か見られてる」
「自分で言うのもなんじゃが、おそらくは我らの容姿が美しいからであろうて。人間はそういった識別で交尾の相手を選んでいるのであろう?」
「こ、交尾ってねぇ……」
まあ確かに、大福ちゃんは目が飛び出るほどの美人だ。
色白の整った容姿に、白銀に輝く長髪。
そして何より、スタイルが抜群である。
見た目だけで言えば多くの男性を振り返らせることができるであろう。
「不遜にも豚トロ様に劣情を抱くなど、この場で全員血祭りにあげてしまおうかえ」
中身はかなり過激だが……。
「いやいや、やらないでよ。絶対ダメだからね!」
「御心のままに」
と思っていたら、キザッたらしい長髪の男と長身のイケメンが私たちを通せんぼしてきた。
「おうおう、ずいぶんとキレェな嬢ちゃんたちじゃねぇか。俺はこのレレムの街一番のSランク冒険者のライルっつーんだ。ここは嬢ちゃんたちが来るようなおしゃれなカフェじゃなくて、荒くれものが集う冒険者ギルドだぜ? 何の用だ? 俺らのことを慰めにでもきてくれたのか」
「「「「だっははははははは」」」」
周囲にいた男どもがドッと大笑いを始める。
大福ちゃんが前に出ようとしているが、彼女の腕を掴んで絶対に動くなと暗に示しておく。
なぜなら私は感動していたからだ。
「おお……おお! これほどまでにモブを再現した人が本当にいようとは! すごい! 感激した!!」
「な、なんだお前! 変な野郎だな! 喧嘩売ってんのか!?」
「うんうん、そうそう。流れはやっぱりそうだよね。このあと私が何を言ったとしても問答無用で斬りかかってくるところまでが全部テンプレだよね! すばらしいよ君! ゲームの中ではセリフなんてほとんど聞き流してたけど、異世界だと思って聞くとなかなかにいいね!」
「……っ」
なに言ってんだこいつ、という針のような空気が漂う中、私は突っかかって来た彼がいつ斬りかかって来るのかと待ち構えていた。
だが、当の本人たちはヒソヒソ話を始めてしまう。
「おい、コイツやべぇぞ。ナンパのつもりだったが、よしといた方がいいんじゃねぇか」
「だ、だが見てくれはいい。それに、ナンパしようっつったのはおめぇだろうが」
「頭のおかしな奴と仲良くしたって楽しくねぇだろ。むしろ後でストーカーとかになられても困る」
バギャァァン!!!
「聞こえておるんじゃが」
大福ちゃんが怒りのあまりすぐそこにあった頑丈そうなテーブルを素手で木端微塵に大破させていた。
「誰がストーカーじゃ!! 豚トロ様はそのような下世話なことなぞせん!! むしろわらわにしてほしいくらいじゃ!!! 豚トロ様はそれはそれは素晴らしき御方で、ストーカーなぞされた日には、天にも昇る幸福で幸せ死にするやもせんぞえ!!! むしろわらわはしてほしい!!!」
あー……。
空気が死んだ。
「や、やべぇ、もう一人も頭がおかしいぞ!」
「しまった! こいつら最近噂のポッピン教の関係者じゃねぇか!? 国の陰で暗躍する頭のおかしい集団だって聞いてるぞ!!」
「だ、だが、ポッピン教は壊滅したって話じゃなかったか? たしか、トロポークとかいう冒険者が一人で首魁の聖女を討伐したと聞いているぞ!」
「そんなん噂話だろうが! 実態がどうかなんてわかったもんじゃねぇ!」
「あー……。うん、えっと、関係者と言えなくもないような……」
マナちゃんが聖女を務めているため関係者と言えるし、なんなら私はそのトロポーク本人だ。
「やっぱりそうか! この街に一体何の用だ! おかしな真似をするならただじゃおかねぇぞ!」
「えっと、単に鉱石を掘りに来たんだけど」
「あの活火山が見えてねぇのか! どこの馬鹿が溶岩猛り狂う鉱山に入っていくっつーんだ!」
「ですよねー」
はい、イベントフラグなしっと。
来た段階で半分ぐらいわかってはいたけど、残念過ぎる結果に項垂れてしまう。
「な、なんだこいつ! そんな当たり前のことに対して途端に頭を抱えて悶え始めたぞ! やっぱり頭のおかしな奴だ!」
「やっべ、俺もう逃げるわ。ポッピン教は関わったが最後、骨の髄まで別の意味での恐怖を味わうことになるって仲間が言ってたし」
「あっ! 待て! 置いていくなっ!」
そんな具合に、私たちに対して下卑た視線を送っていた二人はこの場から走り去ってしまうのであった。
折角モブやっつけイベントをプレイできると思ったのに、ドン引きランナウェイである。
「さすがは豚トロ様!! 殺しはおろか、傷つけることすら厳禁とおっしゃられておったが、まさか手を下さずにああいった輩を追い払うとは。わらわも今度同じやり方を試してみるぞえ!」
「うん、全然違うけど、絶対試さないでね」
いろんな意味で私はメンタルを破壊されかけていたが、心に鞭を振るって受付嬢さんのところへと行く。
受付嬢さん目線を合わそうとしてくれなかったが、要件だけ述べていくことにした。
「えっと、あの、鉱石採掘関連のクエストってありますでしょうか?」
「……あの、先ほどの方達の話を聞いていなかったのでしょうか。現在レレムの山は活火山となっております。鉱石の採掘などは不可能です」
「ですよねー」
みんなに魔力結晶ががっぽがぽだよと言ってしまった手前、頭を抱えてしまう。
「か、活火山なのに皆さんは避難とかされないのですか? 噴火とかしないんですかね?」
「レレムの山は過去に噴火をした経歴が一度もありません。学者たちも今後は緩やかな活動を続けだろうと見込んでおります。一方で、ここレレムの地は物流の要所であり交易地として栄えております。また、温泉がわくため観光業も盛んです」
「お金が集まる場所というわけですね」
「その通りです。そのため多くの商人たちが集まり、街を賑わわせております」
なるほどなぁ、なんて思っていると、ふとカウンターの奥にあるクエストボードのとある内容が目に入った。
「あの! ちょ、ちょっとそのクエ! 見せてもらえますか!?」
「え? あっ、は、はい。どうぞ。ただ、こちらはもう何十年も解決できずにいるクエストですよ」
内容をマジマジと確認し確信する。
「これ! これ受けさせて下さい!」
だが、ずっとここにいるわけにもいかないので、次なる目的地を定め旅に出ることにする。
よし、っと出発の準備を終えた私は、名残惜しそうにこちらを見つめてくるPMCたちの方へと視線を向けた。
「そんな一生のお別れのような顔をしなくとも。またすぐ帰って来るからさ」
「じゃが、やはり豚トロ様がここを離れるというのは不安で仕方あらん」
「そうです豚トロ様! やはりわたくしたちと――いえ、わたくしと一緒に過ごしましょう」
「いやいや、私も外に出たいから。それに今回はちゃんとメアリーに貢献するよっ! 鉱山イベをやってこようと思うんだ!」
「鉱山イベ? でございましょうか」
「うん! 帰って来る頃には魔力結晶ががっぽがぽだよ!」
鉱山イベとは、ゲーム中におけるボーナスイベントのようなもので、大量の魔力結晶を得られるイベントだ。
この世界にそのイベフラグが残っているかは甚だ疑問だが、現在メアリーの魔力結晶収支は圧倒的な赤字。
これを改善するためにも魔力結晶を大量に仕入れる必要がある。
「あ、それでさ、イベは二人まで参加可能なんだけど、もしよかったら誰か同行を――」
「俺が行く!」「わらわが行く!」「わたくしがいきます!」「私が行きましょう」
四人から一斉に申し出があるのであった。
「うーん……。全員は多いし、何人かはここを守っといてほしいかな。そしたら、今回は大福ちゃんついてきてくれる?」
「わかったのじゃ!!!」
これまでで一番良いと思われる返事と共に、大福ちゃんがルンルン気分でこちらへとやってくる。
対するほかメンバーは悔し気な表情を浮かべていた。
そんなに私と一緒に旅行したいのだろうか……。
「人間には変化できるよね?」
「もちろんじゃ!」
「よしっ! そしたらいざっ、鉱山都市レレムの街へ!」
「うぅ、わたくしもご一緒したかった……。いや、まだ隠れてこっそりとついて行くという選択肢が――」
「ないからね。マナちゃんはちゃんとメアリーを守っといてね」
いやどうしてもって言うならそこまで縛るつもりもないが、可能ならここに滞在しておいてほしい。
*
「おおお! 硫黄の匂いがする!」
レレムへとやって来た私は、早速ゲームとの差に気付いて感動する。
エクスペディションオンラインには嗅覚の機能が備わっていなかったため、こういった感性を味わうことはできなかった。
「たしか、レレムの山は活火山じゃったかの」
「……あれ、前はそんなことなかったような気がするけど、気のせいか?」
山からあんなに煙がモクモクとは出ていなかった気がする。
が、ゲーム内のエフェクトの記憶なんて曖昧だ。
「よしっ! まずはギルドに行ってみましょう!」
冒険者ギルドに到着すると、なんだか物凄い視線に晒されることとなった。
「え……? 何か見られてる」
「自分で言うのもなんじゃが、おそらくは我らの容姿が美しいからであろうて。人間はそういった識別で交尾の相手を選んでいるのであろう?」
「こ、交尾ってねぇ……」
まあ確かに、大福ちゃんは目が飛び出るほどの美人だ。
色白の整った容姿に、白銀に輝く長髪。
そして何より、スタイルが抜群である。
見た目だけで言えば多くの男性を振り返らせることができるであろう。
「不遜にも豚トロ様に劣情を抱くなど、この場で全員血祭りにあげてしまおうかえ」
中身はかなり過激だが……。
「いやいや、やらないでよ。絶対ダメだからね!」
「御心のままに」
と思っていたら、キザッたらしい長髪の男と長身のイケメンが私たちを通せんぼしてきた。
「おうおう、ずいぶんとキレェな嬢ちゃんたちじゃねぇか。俺はこのレレムの街一番のSランク冒険者のライルっつーんだ。ここは嬢ちゃんたちが来るようなおしゃれなカフェじゃなくて、荒くれものが集う冒険者ギルドだぜ? 何の用だ? 俺らのことを慰めにでもきてくれたのか」
「「「「だっははははははは」」」」
周囲にいた男どもがドッと大笑いを始める。
大福ちゃんが前に出ようとしているが、彼女の腕を掴んで絶対に動くなと暗に示しておく。
なぜなら私は感動していたからだ。
「おお……おお! これほどまでにモブを再現した人が本当にいようとは! すごい! 感激した!!」
「な、なんだお前! 変な野郎だな! 喧嘩売ってんのか!?」
「うんうん、そうそう。流れはやっぱりそうだよね。このあと私が何を言ったとしても問答無用で斬りかかってくるところまでが全部テンプレだよね! すばらしいよ君! ゲームの中ではセリフなんてほとんど聞き流してたけど、異世界だと思って聞くとなかなかにいいね!」
「……っ」
なに言ってんだこいつ、という針のような空気が漂う中、私は突っかかって来た彼がいつ斬りかかって来るのかと待ち構えていた。
だが、当の本人たちはヒソヒソ話を始めてしまう。
「おい、コイツやべぇぞ。ナンパのつもりだったが、よしといた方がいいんじゃねぇか」
「だ、だが見てくれはいい。それに、ナンパしようっつったのはおめぇだろうが」
「頭のおかしな奴と仲良くしたって楽しくねぇだろ。むしろ後でストーカーとかになられても困る」
バギャァァン!!!
「聞こえておるんじゃが」
大福ちゃんが怒りのあまりすぐそこにあった頑丈そうなテーブルを素手で木端微塵に大破させていた。
「誰がストーカーじゃ!! 豚トロ様はそのような下世話なことなぞせん!! むしろわらわにしてほしいくらいじゃ!!! 豚トロ様はそれはそれは素晴らしき御方で、ストーカーなぞされた日には、天にも昇る幸福で幸せ死にするやもせんぞえ!!! むしろわらわはしてほしい!!!」
あー……。
空気が死んだ。
「や、やべぇ、もう一人も頭がおかしいぞ!」
「しまった! こいつら最近噂のポッピン教の関係者じゃねぇか!? 国の陰で暗躍する頭のおかしい集団だって聞いてるぞ!!」
「だ、だが、ポッピン教は壊滅したって話じゃなかったか? たしか、トロポークとかいう冒険者が一人で首魁の聖女を討伐したと聞いているぞ!」
「そんなん噂話だろうが! 実態がどうかなんてわかったもんじゃねぇ!」
「あー……。うん、えっと、関係者と言えなくもないような……」
マナちゃんが聖女を務めているため関係者と言えるし、なんなら私はそのトロポーク本人だ。
「やっぱりそうか! この街に一体何の用だ! おかしな真似をするならただじゃおかねぇぞ!」
「えっと、単に鉱石を掘りに来たんだけど」
「あの活火山が見えてねぇのか! どこの馬鹿が溶岩猛り狂う鉱山に入っていくっつーんだ!」
「ですよねー」
はい、イベントフラグなしっと。
来た段階で半分ぐらいわかってはいたけど、残念過ぎる結果に項垂れてしまう。
「な、なんだこいつ! そんな当たり前のことに対して途端に頭を抱えて悶え始めたぞ! やっぱり頭のおかしな奴だ!」
「やっべ、俺もう逃げるわ。ポッピン教は関わったが最後、骨の髄まで別の意味での恐怖を味わうことになるって仲間が言ってたし」
「あっ! 待て! 置いていくなっ!」
そんな具合に、私たちに対して下卑た視線を送っていた二人はこの場から走り去ってしまうのであった。
折角モブやっつけイベントをプレイできると思ったのに、ドン引きランナウェイである。
「さすがは豚トロ様!! 殺しはおろか、傷つけることすら厳禁とおっしゃられておったが、まさか手を下さずにああいった輩を追い払うとは。わらわも今度同じやり方を試してみるぞえ!」
「うん、全然違うけど、絶対試さないでね」
いろんな意味で私はメンタルを破壊されかけていたが、心に鞭を振るって受付嬢さんのところへと行く。
受付嬢さん目線を合わそうとしてくれなかったが、要件だけ述べていくことにした。
「えっと、あの、鉱石採掘関連のクエストってありますでしょうか?」
「……あの、先ほどの方達の話を聞いていなかったのでしょうか。現在レレムの山は活火山となっております。鉱石の採掘などは不可能です」
「ですよねー」
みんなに魔力結晶ががっぽがぽだよと言ってしまった手前、頭を抱えてしまう。
「か、活火山なのに皆さんは避難とかされないのですか? 噴火とかしないんですかね?」
「レレムの山は過去に噴火をした経歴が一度もありません。学者たちも今後は緩やかな活動を続けだろうと見込んでおります。一方で、ここレレムの地は物流の要所であり交易地として栄えております。また、温泉がわくため観光業も盛んです」
「お金が集まる場所というわけですね」
「その通りです。そのため多くの商人たちが集まり、街を賑わわせております」
なるほどなぁ、なんて思っていると、ふとカウンターの奥にあるクエストボードのとある内容が目に入った。
「あの! ちょ、ちょっとそのクエ! 見せてもらえますか!?」
「え? あっ、は、はい。どうぞ。ただ、こちらはもう何十年も解決できずにいるクエストですよ」
内容をマジマジと確認し確信する。
「これ! これ受けさせて下さい!」
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