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4吸血 説明できない物語

4 説明できない物語

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 そこにいたのはラルムで、口元に赤い何かがついていることに気づき、私は嫌な予感がした。



「ラルム、口元に……」

「ん? ああ、付いてしまっていたようですね。遅くなってしまい申し訳ありません」



 いつもと同じ優しい笑みに声音。
 なのに、私の心に黒い何かが渦巻く。



「何してたの?」

「喉が乾いたので少し人の血を、っ!?」



 驚くラルム。
 私の瞳からは涙が零れ落ちていた。

 私の感情はぐちゃぐちゃでわからなくなる。
 なんで私は泣いているんだろう。
 わからない。
 いや、わかっているけど言えないんだ。

 なんで私の血じゃなく他の人の血を吸うのか。
 私はラルムの特別じゃなかったんじゃないのか。
 気持ち全てぶつけたいのに、ぐちゃぐちゃでわからない。

 ただ何も言えずに泣き出す私に、ラルムは少し困ったような、悲しむような表情を私に向け「どうかされたのですか?」と心配する。

 私は何も答えずただ泣き続け、気づいたときには朝になっていた。
 どうやら泣き疲れて眠った私をベッドに寝かせてくれたようだ。

 きっとラルムを凄く困らせてしまったに違いない。
 気持ちは封じ込めたはずなのに、ラルムが他の人の血を吸ったことを知って、私は特別なんかじゃないんだとわかって辛くなってしまった。

 思い出したらまた視界が涙で歪み出したため、これ以上考えないように頭から振り払う。

 夏休みも終わり、今日からまた学校。
 何とか溜まってた宿題も徹夜して終わらせることもできたし、これでなんの心配もなく学校へ行ける。

 取り敢えず制服に着替えようと起き上がったとき、床で眠るラルムの姿が見えた。

 ラルムは棺の中でないと眠れないはずなのに、なんでこんなところで寝てるんだろう思っている、ラルムの瞼が動く。



「ん……おはようございます。もう大丈夫ですか?」



 目覚めたラルムに、もう大丈夫だよと伝えると、泣いた理由を聞かれたけど、あんなこと話せるはずもなく、ラルムはなぜ床で寝ていたのかと私は話をそらす。



「とても辛そうでしたので」

「なんで……なんで私に優しくするの」



 期待してしまう。
 ラルムは私のことを恋愛としてなんて見てないのに、自分が特別じゃないんだと知った後、今度は優しくされて。
 私の心は乱されてばかり。

 つい口にしてしまった言葉をなかったことにして、私は制服に着替えると行ってきますと言い残し家を出た。
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