73 / 82
卒業式のその先へ/テーマ:卒業
3 卒業式のその先へ
しおりを挟む
「ありがとう……」
「別に」
何とか恥の上乗せはせずに済んだ。
返事は素っ気ないし、私の方を見ようとはしないけど、これは彼なりの優しさなんだろうか。
クラスでの彼はクールというか無口で、女子は勿論男子とだって話てるところを見たことはない。
私が彼と話したのだって、同じ図書委員で当番が重なったときに数回話した程度。
良くない言い方だけど、こんな風に気にかけてくれるなんて意外。
「て、本鈴鳴ってたよね? ごめん、サボらせちゃって」
「別に」
さっきから「別に」しか言わないから、どうしたらいいのかわからない。
お礼も伝えたから話すことも見つからないし、そもそも何でこの場に居座っているのか。
気まずくて仕方がない。
沈黙が耐えきれなくなった私は、何で宮橋くんはここに来たのか訪ねた。
すると黙り込んでしまい、また沈黙が続くのかなと思ったとき「偶然見かけたから」と言われ、私の脳内が処理を始める。
ここは校舎裏で、普段生徒が来ることはまずない。
つまり、私が保健室から逃げ出した後のどこかで、宮橋くんは私を見てわざわざ追いかけてきてくれたということ。
宮橋くんは授業を欠席したことはないから、今ここにいるということはつまりそういう事になる。
私の勝手な嫉妬が招いた事なのに、何だか申し訳なくて謝れば「何で謝る」と言われたけど、理由なんて話せるはずもなく「兎に角ごめん」と再度伝える。
またやってきた沈黙。
気まずいけど、移動しようにもここ以外は目立つ。
動くに動けないこの状況。
さっきとは別の意味で逃げ出したくなる。
だけど、彼はわざわざ私を追いかけてきてくれたんだと思うと、少し心が軽くなるのを感じた。
きっと一人だったら、さっきのことを思い出しては胸がモヤモヤして、イライラして、そして後悔するを繰り返していたに違いない。
「ありがとう」
「謝ったり礼言ったり、忙しいやつだな」
相変わらずこっちを見ないけど、横から見た彼の口元に笑みが浮かんでいるのが瞳に映る。
普段無表情だから、こんな顔もするんだ、なんて少し驚いていると、私の視線に気づいた彼と一瞬目が合う。
彼はバッと顔を逸らして片手で口元を隠したので、きっと照れたんだろうけど、それが可愛くてつい笑ってしまう。
それからどれくらい経ったのか。
聞こえてきたのは、授業の終了を知らせる音。
次の授業は出なくてはと立ち上がると、宮橋くんに「教室に戻ろ」と声をかけ、校舎の中へと入る。
その後をしっかりと授業を受け、部活に入っていない私はそのまま帰宅。
と言いたいところだけど、一つやり残したことがあるから、私はある人物を訪ねた。
扉の前で立ち止まりノックをすれば、中から「どうぞ」という声が聞こえ中へと入る。
ここはカウンセラーの人と話すための一室。
そして勿論いるのは、都長先生。
「山野さん……。お昼は勝手に決めつけたようなことを言ってごめんなさい。不快にさせてしまったわよね」
「いえ、心配してくれた都長先生に酷い言い方をしてしまってごめんなさい。それを伝えたかっただけなので、失礼します」
私がお昼に保健室に行くのは、その時間保健室には基本人が来ないからで、先生と過ごすための唯一の時間だから。
都長先生は、そんな私の話を聞いて悩みがあると勘違いしたみたいだけど、別にイジメられてるとか、人間関係が上手くいってないからじゃない。
普通に友達だっている。
先生は、なんで都長先生に私のことを話したのかはわからない。
ただ保健室に来ることが迷惑だからなのか。
都長先生と話す口実に使ったのか。
それとも、先生は私が何か悩みを抱えていると勘違いしていたのか。
一番最後の理由だけはイヤだ。
毎日好きって伝えているのに、その言葉を本気にしてすらいないってことだから。
でも、都長先生にはちゃんと謝れた。
先生には嫌われただろうし、保健室に行く勇気もないから、私はそのまま帰宅する。
あんな風に怒った先生の姿を初めて見て、顔なんて合わせられるはずがない。
本当は、どんな理由で都長先生に私のことを話したのかとか聞きたいけど、同じくらいに聞きたくない自分がいる。
もし、私の好きが伝わっていなかったら。
考えるだけで辛いのに、本人の口からなんて聞きたくない。
家へと着いた私は、宮橋くんから借りたハンカチをスカートのポケットから取り出すと、洗濯をして綺麗にアイロンをかけた。
そしてその日以降。
私が保健室に近づくことはなくなり、先生と顔を合わせることもないまま、卒業式を翌日に控えた。
もう長い間、先生と会えてないし好きだと言えていない。
その代わり、あの切っ掛け以降、宮橋くんと話すことが増えた。
明日で卒業。
周りは就職先が決まった人や、大学が決まった人しかいない。
そして私は大学へは行かず就職を決めた。
これで晴れて社会人になる。
私はこの日をずっと待ち続けていた。
翌日、卒業式が行われ、涙を流す生徒もいた。
卒業式が終わったあとは、皆最後の思い出に写真を撮っていたけど、私はある人物を探す。
キョロキョロとしていると、声をかけてきたのは宮橋くん。
彼にはあの日からとても助けられた。
今私がこうして前を向いていられるのも、彼のお陰だ。
「別に」
何とか恥の上乗せはせずに済んだ。
返事は素っ気ないし、私の方を見ようとはしないけど、これは彼なりの優しさなんだろうか。
クラスでの彼はクールというか無口で、女子は勿論男子とだって話てるところを見たことはない。
私が彼と話したのだって、同じ図書委員で当番が重なったときに数回話した程度。
良くない言い方だけど、こんな風に気にかけてくれるなんて意外。
「て、本鈴鳴ってたよね? ごめん、サボらせちゃって」
「別に」
さっきから「別に」しか言わないから、どうしたらいいのかわからない。
お礼も伝えたから話すことも見つからないし、そもそも何でこの場に居座っているのか。
気まずくて仕方がない。
沈黙が耐えきれなくなった私は、何で宮橋くんはここに来たのか訪ねた。
すると黙り込んでしまい、また沈黙が続くのかなと思ったとき「偶然見かけたから」と言われ、私の脳内が処理を始める。
ここは校舎裏で、普段生徒が来ることはまずない。
つまり、私が保健室から逃げ出した後のどこかで、宮橋くんは私を見てわざわざ追いかけてきてくれたということ。
宮橋くんは授業を欠席したことはないから、今ここにいるということはつまりそういう事になる。
私の勝手な嫉妬が招いた事なのに、何だか申し訳なくて謝れば「何で謝る」と言われたけど、理由なんて話せるはずもなく「兎に角ごめん」と再度伝える。
またやってきた沈黙。
気まずいけど、移動しようにもここ以外は目立つ。
動くに動けないこの状況。
さっきとは別の意味で逃げ出したくなる。
だけど、彼はわざわざ私を追いかけてきてくれたんだと思うと、少し心が軽くなるのを感じた。
きっと一人だったら、さっきのことを思い出しては胸がモヤモヤして、イライラして、そして後悔するを繰り返していたに違いない。
「ありがとう」
「謝ったり礼言ったり、忙しいやつだな」
相変わらずこっちを見ないけど、横から見た彼の口元に笑みが浮かんでいるのが瞳に映る。
普段無表情だから、こんな顔もするんだ、なんて少し驚いていると、私の視線に気づいた彼と一瞬目が合う。
彼はバッと顔を逸らして片手で口元を隠したので、きっと照れたんだろうけど、それが可愛くてつい笑ってしまう。
それからどれくらい経ったのか。
聞こえてきたのは、授業の終了を知らせる音。
次の授業は出なくてはと立ち上がると、宮橋くんに「教室に戻ろ」と声をかけ、校舎の中へと入る。
その後をしっかりと授業を受け、部活に入っていない私はそのまま帰宅。
と言いたいところだけど、一つやり残したことがあるから、私はある人物を訪ねた。
扉の前で立ち止まりノックをすれば、中から「どうぞ」という声が聞こえ中へと入る。
ここはカウンセラーの人と話すための一室。
そして勿論いるのは、都長先生。
「山野さん……。お昼は勝手に決めつけたようなことを言ってごめんなさい。不快にさせてしまったわよね」
「いえ、心配してくれた都長先生に酷い言い方をしてしまってごめんなさい。それを伝えたかっただけなので、失礼します」
私がお昼に保健室に行くのは、その時間保健室には基本人が来ないからで、先生と過ごすための唯一の時間だから。
都長先生は、そんな私の話を聞いて悩みがあると勘違いしたみたいだけど、別にイジメられてるとか、人間関係が上手くいってないからじゃない。
普通に友達だっている。
先生は、なんで都長先生に私のことを話したのかはわからない。
ただ保健室に来ることが迷惑だからなのか。
都長先生と話す口実に使ったのか。
それとも、先生は私が何か悩みを抱えていると勘違いしていたのか。
一番最後の理由だけはイヤだ。
毎日好きって伝えているのに、その言葉を本気にしてすらいないってことだから。
でも、都長先生にはちゃんと謝れた。
先生には嫌われただろうし、保健室に行く勇気もないから、私はそのまま帰宅する。
あんな風に怒った先生の姿を初めて見て、顔なんて合わせられるはずがない。
本当は、どんな理由で都長先生に私のことを話したのかとか聞きたいけど、同じくらいに聞きたくない自分がいる。
もし、私の好きが伝わっていなかったら。
考えるだけで辛いのに、本人の口からなんて聞きたくない。
家へと着いた私は、宮橋くんから借りたハンカチをスカートのポケットから取り出すと、洗濯をして綺麗にアイロンをかけた。
そしてその日以降。
私が保健室に近づくことはなくなり、先生と顔を合わせることもないまま、卒業式を翌日に控えた。
もう長い間、先生と会えてないし好きだと言えていない。
その代わり、あの切っ掛け以降、宮橋くんと話すことが増えた。
明日で卒業。
周りは就職先が決まった人や、大学が決まった人しかいない。
そして私は大学へは行かず就職を決めた。
これで晴れて社会人になる。
私はこの日をずっと待ち続けていた。
翌日、卒業式が行われ、涙を流す生徒もいた。
卒業式が終わったあとは、皆最後の思い出に写真を撮っていたけど、私はある人物を探す。
キョロキョロとしていると、声をかけてきたのは宮橋くん。
彼にはあの日からとても助けられた。
今私がこうして前を向いていられるのも、彼のお陰だ。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる