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卒業式のその先へ/テーマ:卒業
2 卒業式のその先へ
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「あの、もう大丈夫ですので」
「また転んだりしたら大変でしょう。俺が運ぶんで気にしないでください」
「すみません。山野さん、何かあればいつでも訪ねてきてくださいね」
二人が出ていくと、保健室は今まで感じたことがないくらい静かになった。
先生はいつも保健室にいたから、他の先生達と話すところを見たことがなかったけど、私に対してと違って都長先生には丁寧な言葉遣いなんだと思ったら、胸がギュッと締め付けられる。
私に対して口調が砕けているのは、子供扱いされている証拠で。
それでも、お茶を用意してくれたり笑みを見せてくれることが嬉しかったのに、都長先生にも同じ様に優しくするんだと思ったら、箸を持つ手が止まる。
結局その後は食欲もなく、教室に戻った。
そして翌日の今日、お昼にお弁当を持って来てみればこれだ。
何で中から都長先生の声がするの。
ここは保健室で、お昼は今まで誰も来ない先生と私だけの唯一の時間だったのに。
開けるのが怖い。
扉にかけた手が動こうとしない。
もう先生が都長先生といるのを見たくない。
でも、何でまた二人が一緒にいるのか気になる。
どうしたらいいのかわからず扉の前で立ち止まっていると、不意に扉が開き、先生が目の前に現れる。
ドキッとしたのも束の間「山野さん、今日も保健室でお昼なのね」と、一番聞きたくない声が聞こえて視線を向ければ、先生の後ろに都長先生がいた。
鼓動の高鳴りはまたもムカムカとしたものに変わり「今日も」という言葉に私はイラッとする。
私がお昼に保健室に来るのは都長先生が来るより前からだし、それをいうなら都長先生の方がまた保健室に来ているのに。
「青谷先生から聞きましたよ。もし教室でお弁当を食べたくない理由があるなら私に――」
「大丈夫です。それに私がどこでお弁当を食べようと、都長先生に関係ないでしょ」
ムカムカしていたからか、強い口調でそういえば「都長先生はお前を気にして言ってるんだろ」と先生が口を挟む。
そこには、いつもの優しい笑みはなく、怒っている先生の姿だった。
私の胸はズキンと痛み、目頭が熱くなるとその場から逃げていた。
走り出した私の頭の中はモヤモヤで一杯。
何で都長先生は、先生の事を青谷先生と呼んだのとか、何で先生は都長先生を都長先生と呼ぶのとか、もう心がグチャグチャだ。
私のことは一度だって名前で呼んだことはない。
いつも、お前とかなのに。
それに何で、私が保健室でお昼を毎日食べてることを都長先生に話したの。
私が迷惑だから、邪魔だからなの。
都長先生との時間のが私より大事だってことなのか。
顔を伏せたまま走っていた私は、何度か誰かにぶつかった気がするけど、そんなこと気にする余裕なんてない。
それが子供だというなら、どうしたら私は先生に好きになってもらえるの。
どうしたら振り向いてもらえるの。
この感情を抱えながら平然でなんていられない。
そんな私じゃ最初から無理だったのかな。
とうとう疲れて立ち止まり、肩で息をする。
冷たい風が全身に吹き付けてきたので顔を上げれば、そこは校舎裏だった。
気づかないうちに外まで出てきたらしく、靴すら履き替えていない。
戻らなくちゃいけないけど、授業を受けられる気分じゃなくて、私は隅でしゃがみ込んで顔を伏せた。
冬の寒い季節、制服だけでは寒いはずなのに気にならない。
都長先生は、ただ私を心配してくれただけ。
教室ではなく保健室でお昼を食べるなんて、カウンセラーなら気にして当然のこと。
なのに私は、自分の感情に任せてあんな酷い言い方をしてしまった。
このムカムカもイライラも、全ては嫉妬なんだってことくらいわかっている。
それでも感情をコントロールできないのは、やっぱり私がまだ子供だからなのか。
卒業式が終わったら、先生に告白して、その時はハッキリ返事をもらうと決意したのに、あれじゃもう先生に嫌われた。
何も悪くない都長先生にあんな態度をとったんだもん、嫌われて当然だ。
これからはもう、保健室にも行けなくなる。
卒業式に告白も出来ない。
そう思ったら、大粒の涙が地面を濡らす。
そんな私の目の前にハンカチが差し出され、顔を上げてみれば同じクラスの男子、宮橋くんがいた。
驚いて彼を見詰めていると「これで拭け」と、ハンカチを押し付けてくる。
私は何も言う事ができずハンカチを受け取ると、涙を拭いて気持ちを落ち着かせる。
お礼を言いたいけど、こんな姿を見られた挙句、鼻声で伝えたりなんてしたら恥ずかしさの上乗せだ。
しばらくハンカチを両手でぎゅっと握り、しゃがんだままの状態でいるが、宮橋くんは横で立ったまま去る気配すらない。
何でここにいるのとか、私達そんなに仲良しってわけでもないよねとか、聞きたいことはあるけど、今私が伝えなくちゃいけないのはこの一言。
「また転んだりしたら大変でしょう。俺が運ぶんで気にしないでください」
「すみません。山野さん、何かあればいつでも訪ねてきてくださいね」
二人が出ていくと、保健室は今まで感じたことがないくらい静かになった。
先生はいつも保健室にいたから、他の先生達と話すところを見たことがなかったけど、私に対してと違って都長先生には丁寧な言葉遣いなんだと思ったら、胸がギュッと締め付けられる。
私に対して口調が砕けているのは、子供扱いされている証拠で。
それでも、お茶を用意してくれたり笑みを見せてくれることが嬉しかったのに、都長先生にも同じ様に優しくするんだと思ったら、箸を持つ手が止まる。
結局その後は食欲もなく、教室に戻った。
そして翌日の今日、お昼にお弁当を持って来てみればこれだ。
何で中から都長先生の声がするの。
ここは保健室で、お昼は今まで誰も来ない先生と私だけの唯一の時間だったのに。
開けるのが怖い。
扉にかけた手が動こうとしない。
もう先生が都長先生といるのを見たくない。
でも、何でまた二人が一緒にいるのか気になる。
どうしたらいいのかわからず扉の前で立ち止まっていると、不意に扉が開き、先生が目の前に現れる。
ドキッとしたのも束の間「山野さん、今日も保健室でお昼なのね」と、一番聞きたくない声が聞こえて視線を向ければ、先生の後ろに都長先生がいた。
鼓動の高鳴りはまたもムカムカとしたものに変わり「今日も」という言葉に私はイラッとする。
私がお昼に保健室に来るのは都長先生が来るより前からだし、それをいうなら都長先生の方がまた保健室に来ているのに。
「青谷先生から聞きましたよ。もし教室でお弁当を食べたくない理由があるなら私に――」
「大丈夫です。それに私がどこでお弁当を食べようと、都長先生に関係ないでしょ」
ムカムカしていたからか、強い口調でそういえば「都長先生はお前を気にして言ってるんだろ」と先生が口を挟む。
そこには、いつもの優しい笑みはなく、怒っている先生の姿だった。
私の胸はズキンと痛み、目頭が熱くなるとその場から逃げていた。
走り出した私の頭の中はモヤモヤで一杯。
何で都長先生は、先生の事を青谷先生と呼んだのとか、何で先生は都長先生を都長先生と呼ぶのとか、もう心がグチャグチャだ。
私のことは一度だって名前で呼んだことはない。
いつも、お前とかなのに。
それに何で、私が保健室でお昼を毎日食べてることを都長先生に話したの。
私が迷惑だから、邪魔だからなの。
都長先生との時間のが私より大事だってことなのか。
顔を伏せたまま走っていた私は、何度か誰かにぶつかった気がするけど、そんなこと気にする余裕なんてない。
それが子供だというなら、どうしたら私は先生に好きになってもらえるの。
どうしたら振り向いてもらえるの。
この感情を抱えながら平然でなんていられない。
そんな私じゃ最初から無理だったのかな。
とうとう疲れて立ち止まり、肩で息をする。
冷たい風が全身に吹き付けてきたので顔を上げれば、そこは校舎裏だった。
気づかないうちに外まで出てきたらしく、靴すら履き替えていない。
戻らなくちゃいけないけど、授業を受けられる気分じゃなくて、私は隅でしゃがみ込んで顔を伏せた。
冬の寒い季節、制服だけでは寒いはずなのに気にならない。
都長先生は、ただ私を心配してくれただけ。
教室ではなく保健室でお昼を食べるなんて、カウンセラーなら気にして当然のこと。
なのに私は、自分の感情に任せてあんな酷い言い方をしてしまった。
このムカムカもイライラも、全ては嫉妬なんだってことくらいわかっている。
それでも感情をコントロールできないのは、やっぱり私がまだ子供だからなのか。
卒業式が終わったら、先生に告白して、その時はハッキリ返事をもらうと決意したのに、あれじゃもう先生に嫌われた。
何も悪くない都長先生にあんな態度をとったんだもん、嫌われて当然だ。
これからはもう、保健室にも行けなくなる。
卒業式に告白も出来ない。
そう思ったら、大粒の涙が地面を濡らす。
そんな私の目の前にハンカチが差し出され、顔を上げてみれば同じクラスの男子、宮橋くんがいた。
驚いて彼を見詰めていると「これで拭け」と、ハンカチを押し付けてくる。
私は何も言う事ができずハンカチを受け取ると、涙を拭いて気持ちを落ち着かせる。
お礼を言いたいけど、こんな姿を見られた挙句、鼻声で伝えたりなんてしたら恥ずかしさの上乗せだ。
しばらくハンカチを両手でぎゅっと握り、しゃがんだままの状態でいるが、宮橋くんは横で立ったまま去る気配すらない。
何でここにいるのとか、私達そんなに仲良しってわけでもないよねとか、聞きたいことはあるけど、今私が伝えなくちゃいけないのはこの一言。
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