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第八幕 織田信長という男
一 織田信長という男
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「豊臣秀吉、なんか雰囲気変わったみたいだね」
いつの間にか横に座っている刻に、私は驚かなくなっていた。
「久しぶりだね刻、刻にもそう見える?」
「うん。君がこの世界にきてから皆変化してきている。でも、あと一人、まだ君との距離が近くない人物がいるね」
「信長様……」
織田信長、あの人だけは何を考えているのか全くわからない人物だ。
素性もわからないような私を拾ったり。
私が信長様のことで知ってることと言えば、新しいもの好きで珍しいもの好き、少し素直じゃないということと、からかったりするような人だということだけ。
これだけなんだよね……。
「そんな暗い顔しなくても君なら大丈夫」
私が俯いていると、刻が微笑みかけてくれた。
これからどうなるのか、信長様との距離が近づくのかもわからないけど、刻の笑顔を見たら何だか安心してしまう。
「私は、私にできることを頑張るね!」
「僕はいつも君のことを見てるからね」
そう言い再び刻の姿は消えてしまった。
初めこの世界に来た時と比べれば、今は皆のこともわかってきて、距離も縮まってきた。
皆とも仲良くなれたんだから、信長様ともきっと仲良くなれるはずだ。
酔いも大分楽になり起き上がるが、とくにすることもなく、私は今からでも信長様の部屋に行ってみることにした。
秀吉さんには安静にって言われたけど、やっぱりじっとなんてできない。
私は、私にできることをしたいし、皆の手伝いを少しでもしたいから。
私がこの世界でできることなんて限られてしまうけど、それでも、皆のことを知れば知るほど、私も何かをしたいって思う。
今私がしなければいけないことは、武将に愛を教えることだから。
そのために、今は信長様をもっと知りたい!
私は信長様の部屋の前まで来ると、襖越しに声をかけ、部屋の中へと入った。
「ようやく俺に愛を教えに来たか」
畳へと座ると、信長様は私を見て口角を上げ言った。
その言葉で、私は脳裏に前に信長様とした約束が思い出された。
〈早速貴様に仕事をあたえてやる。前に貴様が言っていたな、俺に愛を教えると。なら、その愛とやらを俺に教えてみろ〉
〈一日、とはいかない仕事ですね〉
〈どうするのだ〉
〈勿論、お受けします!〉
そして、私が愛を教えられたときには、1つだけ何でも願いを聞いてくれると信長様は言った。
でも、もし私が愛を教えられなかったら……。
その時にはどんなことを言われるかわかったものではない。
そんな約束をすっかり忘れていた私は、武将の皆と仲良くなる方法ばかりを考えていたため、信長様にどうやって愛を教えるかなんて考えてもいなかった。
どうしようかと考えていると、いつの間にか私の目の前まで近付いていた信長様に顎を掴まれ上へと向かされる。
次第に近付く距離に私は信長様の胸を押し顔を背けた。
「っ……!何をするんですか!?」
「変なことを聞くな。口付けをするに決まっているだろう」
当たり前だと言わんばかりに平然としている信長様を見て私が感じたのは、やっぱりこの人にとって私は物なのだと言うことだった。
好意を持った相手にする行為を、こんな平然とできてしまう信長様の瞳には、私はきっと人としては見られていないのだろう。
「口付けなんて簡単にすることじゃないですよ」
「するかしないかは俺が決める、物である貴様の言葉などは関係ない」
やっぱりこの人はわからない……。
冷たいのかとも思ったけど、私が酔ったときに部屋まで運んでくれたり、料理を美味しいと言ってくれたり、暖かさを感じた。
戦の時も、私の我儘を聞き入れてくれて、信玄さんを殺さないでくれた。
これも愛を知らないせいなのだろうか……。
いや違う、もしかしたら信長様にはすでに愛があるのかもしれない。
それに信長様が気づいていないだけで。
確信なんてないけど、私が今まで見てきた信長様は冷たさだけじゃなかった。
信玄さんを殺すことだってできたのに、それをしなかったのが何よりの証拠。
「私は物なんかじゃありません」
「物じゃないと申すか」
「はい。私も信長様も一人の人で心もあります。それをわかっていただくために、私は信長様に愛を知ってもらうのですから」
そう、私が信長様に愛を知っていただきたいのは、願いを叶えるためでも、刻に言われたからでも、ましてや愛を教えられなかった時何をされるかわからないからなんて理由でもない。
私が信長様に愛を知ってもらいたいのは、人を物のように扱ったり、命を粗末にしてほしくないからだ。
「相変わらずの真っ直ぐとした迷いのない目だな」
「もう私は、この世界で何をするのか決まっていますから」
「この世界……?」
私はそれだけ言うと信長様の部屋を後にした。
結局信長様のことは何も聞けず、私は皆に聞いてみることにし、聞きに回ったはいいが、冷酷とか何をしでかすかわからないなど、皆口を揃えたように同じ言葉ばかりだった。
こう聞いていると、私が見た優しい信長様は幻かなにかだったのではないかと思えてくる。
そんなことを考えながら廊下をあるいていると、目の前にある人物の背中が見えた。
いつの間にか横に座っている刻に、私は驚かなくなっていた。
「久しぶりだね刻、刻にもそう見える?」
「うん。君がこの世界にきてから皆変化してきている。でも、あと一人、まだ君との距離が近くない人物がいるね」
「信長様……」
織田信長、あの人だけは何を考えているのか全くわからない人物だ。
素性もわからないような私を拾ったり。
私が信長様のことで知ってることと言えば、新しいもの好きで珍しいもの好き、少し素直じゃないということと、からかったりするような人だということだけ。
これだけなんだよね……。
「そんな暗い顔しなくても君なら大丈夫」
私が俯いていると、刻が微笑みかけてくれた。
これからどうなるのか、信長様との距離が近づくのかもわからないけど、刻の笑顔を見たら何だか安心してしまう。
「私は、私にできることを頑張るね!」
「僕はいつも君のことを見てるからね」
そう言い再び刻の姿は消えてしまった。
初めこの世界に来た時と比べれば、今は皆のこともわかってきて、距離も縮まってきた。
皆とも仲良くなれたんだから、信長様ともきっと仲良くなれるはずだ。
酔いも大分楽になり起き上がるが、とくにすることもなく、私は今からでも信長様の部屋に行ってみることにした。
秀吉さんには安静にって言われたけど、やっぱりじっとなんてできない。
私は、私にできることをしたいし、皆の手伝いを少しでもしたいから。
私がこの世界でできることなんて限られてしまうけど、それでも、皆のことを知れば知るほど、私も何かをしたいって思う。
今私がしなければいけないことは、武将に愛を教えることだから。
そのために、今は信長様をもっと知りたい!
私は信長様の部屋の前まで来ると、襖越しに声をかけ、部屋の中へと入った。
「ようやく俺に愛を教えに来たか」
畳へと座ると、信長様は私を見て口角を上げ言った。
その言葉で、私は脳裏に前に信長様とした約束が思い出された。
〈早速貴様に仕事をあたえてやる。前に貴様が言っていたな、俺に愛を教えると。なら、その愛とやらを俺に教えてみろ〉
〈一日、とはいかない仕事ですね〉
〈どうするのだ〉
〈勿論、お受けします!〉
そして、私が愛を教えられたときには、1つだけ何でも願いを聞いてくれると信長様は言った。
でも、もし私が愛を教えられなかったら……。
その時にはどんなことを言われるかわかったものではない。
そんな約束をすっかり忘れていた私は、武将の皆と仲良くなる方法ばかりを考えていたため、信長様にどうやって愛を教えるかなんて考えてもいなかった。
どうしようかと考えていると、いつの間にか私の目の前まで近付いていた信長様に顎を掴まれ上へと向かされる。
次第に近付く距離に私は信長様の胸を押し顔を背けた。
「っ……!何をするんですか!?」
「変なことを聞くな。口付けをするに決まっているだろう」
当たり前だと言わんばかりに平然としている信長様を見て私が感じたのは、やっぱりこの人にとって私は物なのだと言うことだった。
好意を持った相手にする行為を、こんな平然とできてしまう信長様の瞳には、私はきっと人としては見られていないのだろう。
「口付けなんて簡単にすることじゃないですよ」
「するかしないかは俺が決める、物である貴様の言葉などは関係ない」
やっぱりこの人はわからない……。
冷たいのかとも思ったけど、私が酔ったときに部屋まで運んでくれたり、料理を美味しいと言ってくれたり、暖かさを感じた。
戦の時も、私の我儘を聞き入れてくれて、信玄さんを殺さないでくれた。
これも愛を知らないせいなのだろうか……。
いや違う、もしかしたら信長様にはすでに愛があるのかもしれない。
それに信長様が気づいていないだけで。
確信なんてないけど、私が今まで見てきた信長様は冷たさだけじゃなかった。
信玄さんを殺すことだってできたのに、それをしなかったのが何よりの証拠。
「私は物なんかじゃありません」
「物じゃないと申すか」
「はい。私も信長様も一人の人で心もあります。それをわかっていただくために、私は信長様に愛を知ってもらうのですから」
そう、私が信長様に愛を知っていただきたいのは、願いを叶えるためでも、刻に言われたからでも、ましてや愛を教えられなかった時何をされるかわからないからなんて理由でもない。
私が信長様に愛を知ってもらいたいのは、人を物のように扱ったり、命を粗末にしてほしくないからだ。
「相変わらずの真っ直ぐとした迷いのない目だな」
「もう私は、この世界で何をするのか決まっていますから」
「この世界……?」
私はそれだけ言うと信長様の部屋を後にした。
結局信長様のことは何も聞けず、私は皆に聞いてみることにし、聞きに回ったはいいが、冷酷とか何をしでかすかわからないなど、皆口を揃えたように同じ言葉ばかりだった。
こう聞いていると、私が見た優しい信長様は幻かなにかだったのではないかと思えてくる。
そんなことを考えながら廊下をあるいていると、目の前にある人物の背中が見えた。
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