戦国武将とトリップ少女

月夜

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第八幕 織田信長という男

二 織田信長という男

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「貴様、早く馬に慣れろ」

「無茶言わないでください!」



 結局死ぬ思いをして城下に着くと、信長様は馬から降り私もようやく地面に足がつく。



「はぁはぁ……し、死ぬかと思った……」

「俺と一緒なんだ、死ぬわけがないだろう」



 いくら信長様と一緒とはいえ、振り落とされたら、死ぬとまではいかなくても重傷ですよ……。



「無事ついたのでよかったです。信長様城下に何をしに来たんですか?」

「呉服屋だ」



 呉服屋ってことは信長様は自分の着物を見に来たのかな?


 私は信長様のあとをついて呉服屋へと向かった。

 何だか村を歩いていると、最初にこの世界に来たことを思い出す。

 あの時はゆっくり見て回るなんてできなかったけど、結構いろんな店があったんだ。

 周りを見ると、村とはいえいくつか店が立ち並んでいる。

 その時、ある建物の前で信長様は足を止めるとお店へと入っていく。

 私も信長様のあとに続き中へ入ると、沢山の着物が目に飛び込んできた。



「いらっしゃいませ信長様!」

「ああ。頼んでおいた着物はできているか」

「はい!それは勿論です」



 店の人が持ってきた木箱を受けとると、信長様は木箱を開け着物を広げてた。


 あれ?


 信長様が広げた着物は淡い桃色に桜の刺繍がほどこされた女性ものの着物だった。



「この女に着せてやってくれ」

「かしこまりました」



 私はよくわからないままお店の人と奥の部屋へと行くと、先程の着物へと着替えさせられた。



「あ、あの……」



 私は少し恥ずかしさがありながらも、おずおずと信長様のもとへと近づくと、一瞬信長様の目が見開かれた。



「いい出来だ。これは代金だ、釣りはとっておけ!」



 お金を払うと信長様は私の腕を掴み、呉服屋を出るとそのまま歩きだした。



「あ、あの、この着物って……」

「俺が作らせた物だ。いつも奇妙な着物を着ていたからな、それならまだまともに見える」



 何だか物凄く失礼なことを言われている気がする……。

 だけど、私のために用意してくれたってことだよね?



「ありがとうございます!」

「貴様のためではない。自分の物を着飾ったまでのことだ」



 相変わらずの素直じゃないけど、それでも嬉しく感じてしまう。

 考えてみれば、私は自分の世界の洋服しか持ってなかったから、今までは女中さんに借りた着物を着て、元の服が乾いたら着てを繰り返していた。

 物を着飾ったまでだって信長様は言っていたけど、愛がなければこんなことはしないはずだ。

 着飾るという行為は愛でるという行為になるのだから。

 でも、その事に気づいていない信長様にとっては、本当に物を着飾っただけにしか思っていないのかもしれない。


 て、私って今愛でられてるの!?



「さっきから表情が変わって忙しいやつだな」

「あ、えっと……あっ!もう用事は終わりですか?」



 私は誤魔化すように信長様に尋ねると、まだ行く場所があるらしく、私を抱き上げ再び馬へと乗せた。



「もしかして……」



 私の予感は的中し、信長様が後ろへ乗ると、耳元で振り落とされるなよと囁かれ馬を走らせた。

 しばらく走ったあと馬が止まり、顔を上げて見ろと言われたのでゆっくり顔を上げて見ると、茜色に染まった景色が私の目の前に広がっていた。



「綺麗です、ね……」



 言いながら後ろにいる信長様へと視線を向けると、茜色の綺麗な光が信長様を照らし、男性なのに綺麗だなんて思ってしまった。



「顔が赤いがどうかしたのか?」

「っ……!!夕陽のせいですよ!」



 バッと視線を信長様から夕陽へと逸らし、熱くなる頬に気付かれないように言った。

 しばらく夕陽を眺めていると、段々と空が水色から濃い青へと色を変え暗くなり始めてくる。



「よし、飛ばすぞ!!」

「えっ!!」



 信長様は馬を走らせ、安土城へと急いだ。



「信長様!!勝手に城下へ行ってはいけないと言ったはずですが」



 城へ戻ると、城の前には怒った秀吉さんが立っていた。

 どうやら城下へ行くことを話していなかったらしく、私まで秀吉さんのお叱りを受けてしまった。



「信長様聞いているんですか!?」

「相変わらず長い説教だな。そうくどくど言われんでもわかっておる」



 信長様は私の腕を掴むと突然走りだし城内へと入って行き、チラッと後ろを振り返ると秀吉さんが溜め息をついているのが見えた。

 きっとこういったことが何度もあるのだろう。

 秀吉さんも大変だなと苦笑いを浮かべ、信長様は何処へ向かっているのだろうと思いながら、私は引っ張られていく。

 どうも上に登って行ってるようだ。

 向かった先は信長様の部屋で、ようやく掴まれていた腕から手が離れ自由となった。

 信長様が座り、私も畳の上へと座ると口を開いた。



「あの、本当にこのような素敵な着物を頂いてもよろしいのですか?」

「貴様のために用意したものだ、当然であろう。なんだ、嬉しくないのか?」

「いえ!そんなことは絶対にないです!ですが私には、このような高価な着物を頂く理由もないですし……」



 とても綺麗な着物だけど、こんな高価な物を頂くわけにもいかず断ろうとしたとき、信長様は口を開いた。



「ならば、皆の手伝いをする褒美として受け取るがいい」

「はい!ありがとうございます!」



 私が受け取らなかったから適当につけた理由かもしれないけど、私のしてきたことが認められた気がして嬉しく感じた。


 手伝い、やっぱりしてよかった!


 私はもう一度信長様にお礼を伝え一礼すると自室へと戻った。



「着物1つであそこまで喜ぶとはな」



 閉められた襖を見詰め、信長様は口許に笑みを浮かべ呟いた。

 その言葉は誰に届くこともなく、信長様の変わりつつある変化に私が気づくことはなかった。

 私が部屋へ戻ろうと廊下を歩いていると、前から光秀さんが歩いてきた。



「光秀さん!」

「お嬢さん!今日はとても素敵だね」



 着物を誉められているとはわかっていても、何だか恥ずかしくなってしまう。



「信長様に頂いたんです」

「信長様が女人に贈り物を……」

「どうかされましたか?」

「いや、何でもないよ」



 何だか一瞬光秀さんが眉を寄せた気がしたけど気のせいだったのかな?


 私は光秀さんと別れたあと、再び自室へと足を進めた。

 部屋へ戻ると、また突然と現れていた刻の姿が目に入った。



「おかえり!素敵な着物だね、君によく似合ってるよ」

「あ、ありがとう」



 恥ずかしく感じながら嬉しくも思い、私は頬を染め、少し顔を伏せながらお礼を伝えた。



「それにしても、あの織田信長が贈り物なんてね。それも、物扱いしてる君に」

「やっぱり武将の皆には愛があるんだね、愛を知らないだけで」

「そうだよ。僕が最初に言った通り、武将の皆は愛を知らないだけで愛がない訳じゃない」



 やっぱりそうなんだ。

 少しずつ距離は皆と近づいてきて、今日1日信長様と過ごして信長様のことも、最初の頃よりもっと知ることができた。



「刻、私皆に絶対に愛を知ってもらうね!」

「うん。頑張ってね」



 そう言いまた刻が姿を消すと、私は布団へと入り横になった。

 何だかあっという間の1日だった気がする。

 信長様と城下に出掛けて、まさか私の着物を用意してくださっていたなんて思いもしなかった。

 この世界に来て、少しずつだけど何かが変わってきているのを感じる。

 皆との距離は最初の頃よりは近付いたと思うけど、愛なんてどうやって教えれば言いかなんて全く思い付かない。

 ここでの私の存在は信長様の物、物扱いされてるうちはまだ愛はわかっていないってことだと思う。

 考えたってどうしようもない、私は私にできることをするだけだ。

 今までだって私は自分にできることをしてここまで来た、それはこれからだって変わらない。

 私は、自分がもたらした大きな変化には気づくことなく、そのまま眠りへと落ちていった。
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