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第十一幕 虎と龍の過去
一 虎と龍の過去
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翌日、早速幸村に厨へと案内してもらい、女中さん達に甲斐の料理を教えてもらっていた。
「実影は覚えるのが早いんですね!女中も驚いていましたよ」
「料理は安土城でも作ったりしていたので」
甲斐の料理も教えてもらったし、安土城にいる皆にも戻ったら食べてもらいたいな。
「少し縁側に座って休みましょうか。今日は天気もいいですし」
「そうですね!」
並んで縁側に座ると、これは幸村と話すいい機会なのではと思い、昨日疑問に思ったことを聞いてみることにした。
「昨日幸村が言っていた、愛がわからない。だから御館様のお気持ちもわかってあげられないってどういう意味だったのですか?」
「これは私の口からお伝えしていいのかわかりませんが……」
そう言いながら、幸村は重い口を開き、信玄さんのことを話始めた。
信玄さんには、お互いに想いを寄せる女人がいた。
城の女中だったその人とは決して結ばれることはないとわかっていても、二人の想いは止まることなく、体を重ね会う毎日を繰り返していた。
〈俺はお前を愛している〉
〈私もです〉
お互いの愛を確かめ合うように、体も心も1つになっていった。
でも、そんな日々は簡単に壊されてしまった。
敵の奇襲を受け、城内の人間も命を落とす惨事となり、その命を落とした者の中には、信玄さんが愛した女人の姿もあった。
〈っすまなかった……!守ってやれず……すまなかった……ッ!!〉
甲斐の虎とまで言われた男が、血を流し、ぐったりと倒れる女人を腕に抱き、涙を流した。
その場にいたのは幸村だけで、声をかけようにも、愛を知らない幸村は、なんて声をかければいいかなどわかるわけもなかった。
「御館様はその日以来、何かが変わってしまいました。あの時傍にいながら何もできなかった自分が、私は許せないのです…!」
信玄さんにそんな過去があったなんて知らなかった……。
それに、幸村は信玄さんのために何もできなかった自分が許せないんだ。
「幸村は、すでに愛を知っていますよ。気付いていないだけで」
「私が、愛を……?」
「主君をそれほどまでに思う気持ちも、恋とは別の形の愛なんですよ」
そう、人を強く思う気持ち、それも一つの愛の形で、その愛があればきっと信玄さんを支えていける。
「御館様の愛は今もよくわかりませんが、私は今の御館様を支えていきます!」
幸村は霧が晴れたように明るく見えた。
人の愛なんてわからなくて当然なんだ、その痛みはその人にしかわからなくて、私達にできることは陰から支えることだけだから。
幸村と別れた後、私は自室へと戻ると一人考えていた。
刻が言っていた難しいって言うのはこの事だったのだと今理解した。
信玄さんは愛を知っていながら愛を心に封じてしまっている。
その理由はやはり、愛する人を亡くした悲しみ。
そんな傷付いた心に愛を再び知ってもらうのは、愛を知らない人に教えるよりも難しい。
そんな信玄さんに私がしてあげられることなんてあるのだろうか。
部屋で考えてばかりでも仕方がないため、一度頭をスッキリさせるためにも、私は城内を歩いてみようと思い、幸村に頼んで一緒に城内を見て回ることにした。
「ここが武器などをしまう場所です」
「沢山あるんですね」
「戦になれば沢山の武器が必要になりますから」
きっとこの武器を次使うのは安土城へ攻めいるときなのだろう。
「次の場所へ向かいましょう」
幸村に連れられて次に向かった場所は馬小屋だった。
馬にはいい思い出はなく、この世界に来て初めて乗った馬は信長様に無理矢理乗せられ、挙げ句に馬を走らされたため、お尻は痛いは落ちそうで怖いはで大変だった。
「どうかされましたか?顔色がすぐれないようですが」
「私馬は苦手で、数回馬の背に乗ったことはあるんですけど……」
「では、この馬に触ってみてください。女人が馬に乗ることはあまりないとは思いますが、慣れておいて損はありませんから」
幸村に言われ、私は恐る恐る馬へと手を伸ばすとそっと馬の背を撫でた。
馬はとても大人しく、私が撫でるとじっと動かず気持ち良さそうに目を細めている。
「大丈夫だったでしょう」
「はい!」
「これは私の馬なのですが、とても人懐っこい奴なんです。また好きな時に来てやってください」
馬小屋を後にすると、最後に向かった場所は鍛練場だった。
「ここで幸村も鍛練をするのですか?」
「はい。私も鍛練をし、槍の腕を鍛えています」
そう言えば、前の戦の時に幸村は槍を持っていた。
槍って、よく考えてみると刀より有利なのかもしれない。
長さがある分刀では届かない距離にも届く、だからといって無敵なわけではない。
懐に入られたり、槍の先端を斬られたりなどすれば負けることだってあるのだから。
努力を怠らない幸村は凄い、だからこそ、私がいた世界でもその名を皆が知っている。
それが幸村が頑張ってきた何よりの証なのだと感じる。
「幸村に実影か、城内でも見て回っておったのか?」
「御館様!」
稽古場に声が響き、視線を向けるとそこには信玄さんの姿があった。
「私が幸村に城内の案内を頼んだのです」
「そうか。では幸村、客人に貴様の槍の鍛練を見せてやるがいい」
「っ、実影の前で……でも、御館様の命では……ッ!」
幸村は独り言のように小さな声で何かを呟くと、十文字槍を持ち、私と信玄さんの前で鍛練をして見せた。
でもその光景は鍛練と言うより槍を振るい舞っているように美しく、私の瞳は幸村に惹き付けられる。
見ている間に鍛練は終り、私と信玄さんへと歩み寄ってきた。
「幸村、また腕を上げたな」
「俺などまだまだです」
あれだけ槍を振るっていたというのに、幸村の額には汗一つ流れてはいない。
これが武田信玄の家臣、真田幸村……。
「実影は覚えるのが早いんですね!女中も驚いていましたよ」
「料理は安土城でも作ったりしていたので」
甲斐の料理も教えてもらったし、安土城にいる皆にも戻ったら食べてもらいたいな。
「少し縁側に座って休みましょうか。今日は天気もいいですし」
「そうですね!」
並んで縁側に座ると、これは幸村と話すいい機会なのではと思い、昨日疑問に思ったことを聞いてみることにした。
「昨日幸村が言っていた、愛がわからない。だから御館様のお気持ちもわかってあげられないってどういう意味だったのですか?」
「これは私の口からお伝えしていいのかわかりませんが……」
そう言いながら、幸村は重い口を開き、信玄さんのことを話始めた。
信玄さんには、お互いに想いを寄せる女人がいた。
城の女中だったその人とは決して結ばれることはないとわかっていても、二人の想いは止まることなく、体を重ね会う毎日を繰り返していた。
〈俺はお前を愛している〉
〈私もです〉
お互いの愛を確かめ合うように、体も心も1つになっていった。
でも、そんな日々は簡単に壊されてしまった。
敵の奇襲を受け、城内の人間も命を落とす惨事となり、その命を落とした者の中には、信玄さんが愛した女人の姿もあった。
〈っすまなかった……!守ってやれず……すまなかった……ッ!!〉
甲斐の虎とまで言われた男が、血を流し、ぐったりと倒れる女人を腕に抱き、涙を流した。
その場にいたのは幸村だけで、声をかけようにも、愛を知らない幸村は、なんて声をかければいいかなどわかるわけもなかった。
「御館様はその日以来、何かが変わってしまいました。あの時傍にいながら何もできなかった自分が、私は許せないのです…!」
信玄さんにそんな過去があったなんて知らなかった……。
それに、幸村は信玄さんのために何もできなかった自分が許せないんだ。
「幸村は、すでに愛を知っていますよ。気付いていないだけで」
「私が、愛を……?」
「主君をそれほどまでに思う気持ちも、恋とは別の形の愛なんですよ」
そう、人を強く思う気持ち、それも一つの愛の形で、その愛があればきっと信玄さんを支えていける。
「御館様の愛は今もよくわかりませんが、私は今の御館様を支えていきます!」
幸村は霧が晴れたように明るく見えた。
人の愛なんてわからなくて当然なんだ、その痛みはその人にしかわからなくて、私達にできることは陰から支えることだけだから。
幸村と別れた後、私は自室へと戻ると一人考えていた。
刻が言っていた難しいって言うのはこの事だったのだと今理解した。
信玄さんは愛を知っていながら愛を心に封じてしまっている。
その理由はやはり、愛する人を亡くした悲しみ。
そんな傷付いた心に愛を再び知ってもらうのは、愛を知らない人に教えるよりも難しい。
そんな信玄さんに私がしてあげられることなんてあるのだろうか。
部屋で考えてばかりでも仕方がないため、一度頭をスッキリさせるためにも、私は城内を歩いてみようと思い、幸村に頼んで一緒に城内を見て回ることにした。
「ここが武器などをしまう場所です」
「沢山あるんですね」
「戦になれば沢山の武器が必要になりますから」
きっとこの武器を次使うのは安土城へ攻めいるときなのだろう。
「次の場所へ向かいましょう」
幸村に連れられて次に向かった場所は馬小屋だった。
馬にはいい思い出はなく、この世界に来て初めて乗った馬は信長様に無理矢理乗せられ、挙げ句に馬を走らされたため、お尻は痛いは落ちそうで怖いはで大変だった。
「どうかされましたか?顔色がすぐれないようですが」
「私馬は苦手で、数回馬の背に乗ったことはあるんですけど……」
「では、この馬に触ってみてください。女人が馬に乗ることはあまりないとは思いますが、慣れておいて損はありませんから」
幸村に言われ、私は恐る恐る馬へと手を伸ばすとそっと馬の背を撫でた。
馬はとても大人しく、私が撫でるとじっと動かず気持ち良さそうに目を細めている。
「大丈夫だったでしょう」
「はい!」
「これは私の馬なのですが、とても人懐っこい奴なんです。また好きな時に来てやってください」
馬小屋を後にすると、最後に向かった場所は鍛練場だった。
「ここで幸村も鍛練をするのですか?」
「はい。私も鍛練をし、槍の腕を鍛えています」
そう言えば、前の戦の時に幸村は槍を持っていた。
槍って、よく考えてみると刀より有利なのかもしれない。
長さがある分刀では届かない距離にも届く、だからといって無敵なわけではない。
懐に入られたり、槍の先端を斬られたりなどすれば負けることだってあるのだから。
努力を怠らない幸村は凄い、だからこそ、私がいた世界でもその名を皆が知っている。
それが幸村が頑張ってきた何よりの証なのだと感じる。
「幸村に実影か、城内でも見て回っておったのか?」
「御館様!」
稽古場に声が響き、視線を向けるとそこには信玄さんの姿があった。
「私が幸村に城内の案内を頼んだのです」
「そうか。では幸村、客人に貴様の槍の鍛練を見せてやるがいい」
「っ、実影の前で……でも、御館様の命では……ッ!」
幸村は独り言のように小さな声で何かを呟くと、十文字槍を持ち、私と信玄さんの前で鍛練をして見せた。
でもその光景は鍛練と言うより槍を振るい舞っているように美しく、私の瞳は幸村に惹き付けられる。
見ている間に鍛練は終り、私と信玄さんへと歩み寄ってきた。
「幸村、また腕を上げたな」
「俺などまだまだです」
あれだけ槍を振るっていたというのに、幸村の額には汗一つ流れてはいない。
これが武田信玄の家臣、真田幸村……。
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