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第2話 ぐるぐる★前奏曲(プレリュード)
学者・イェロン
しおりを挟む俺はグラスの中の紫色のソーダをまじまじと見る。ちょっとやそっとの紫じゃない。かなり濃い色である。
「この紫色? 枝なの? 派手な紫の枝?」
「どちらかと言えば、黒ですね。野生では、傷ついた所や折れた所から真っ赤な樹液が垂れてます。刻んで煮込むとこの色の液になるんです」
想像してみた。怖い。人喰い植物にしか見えん。
「あはは、大丈夫。ちゃんと鑑定して採取するんですから。毒はないし、むしろ薬草の一種なんですよ。一緒に入ってるグロウケッパーのツボミも苦味と酸味と塩分、それにシロップの甘味が混ざって、噛むとプチプチして面白いですよ」
面白さ優先かよ!?
「くふふ。そんな顔しないで。大丈夫。意外とおいしいですよ?」
覚悟を決めて口に含むと……あれ?
「おいしい!」
「でしょう!?」
少し薬っぽい香りもするが、さっぱりとしていて酸味と甘味のバランスがいい。変わった風味も嫌な感じではない。炭酸も合っていて、コーラやジンジャーエールの類だ。
「クセになる味だな、コレ。それになんかホッとする…」
「初めてネコランドを訪れた人は興奮しすぎる事が多いんで、薬草をブレンドして作ったノンアルコール飲料なんです」
「作った……って、この食堂の料理人? それとも経営者!?」
「まさか」
少年にも見えそうな童顔の眼鏡の男性はコロコロと笑い、
「申し遅れました、僕、植物学者のイェロン・デ・ウィットと言います。ダンジョン内の魔法植物を研究してて、薬草を利用したメニューを考えたりもするんです」
「じゃあこのソーダも…?」
「はい。レシピを店に買ってもらいました。園内のカフェにも、僕が考えたメニューがありますよ」
「へーすごい。俺は岩佐悠希、ステージで猫とダンスを…」
俺も自己紹介をと始めた時、グラスを持ったまま近づいて来るラヴィが目に入った。筋肉イケメンは俺の反対側、イェロンの逃げ道を防ぐ形でカウンターにグラスを置き、様になるポーズで話しかける。
「君が、“学者”イェロン? ちょっと聞きたい事があるんだけど」
え? それじゃあ…
「え、ええ…確かに。ぐるぐるの実は僕が納品しています」
イェロンが伏せ目がちに答える。周りに聞こえないように小声で。
ぐるぐるの取引を匿名でやってる以上、内緒にしたいのかも知れない。
「で、でも、ぐるぐるの生えてる場所は教えられません」
「じゃあ、君が採取して来てくれるんでもいいんだ。もう少し量が欲しいんだよ」
「それは……」
言い淀むイェロン。
何か事情がありそうだ。
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