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第3話 ダンジョン★ビートが聞こえる
ダンジョンの住人
しおりを挟むダンジョンの場所は案内図で知っていたが、平面の地図で見るのと実際の姿を直接見るのでは全然違った。
入口部分は廃墟になった遺跡らしい。大昔の神殿か何かだろうか?
「地上部は小さい」と聞いていたが、とんでもない。かなり大きい建物だ。
冒険者達の行き来で踏み固められた道を通り、正面の階段を登って半壊した遺跡に足を踏み入れる。門扉は既にない。
そこは広間になっていた。天井はほとんど落ちていて、差し込む陽の光が古びた石畳を照らし出す。正面には何か石像でもあったのだろうが、すっかり崩れ落ちてガレキの山と化している。
建物の奥を目指し、回廊を進む。
左右の小部屋の中に人影が動いた。壁が崩れていて中が丸見えの場所もあるが、こちらを気にするでもなく何かしており、ハンモックで寝ている人までいる。
「ココって……人が住んでるの?」
「ああ。時折、モンスターがあふれ出てくる危険な区域だが、遺跡部分もダンジョン扱いのため、滞在は自己責任で特別な許可は要らない。規制もない。安全が保障されない代わりに力さえあれば家賃が掛からない住居とも言える。住んでるのは余程のダンジョン好きか、自前でセキュリティを構築できる腕がある者か、本当に金がないか、だな」
「あまり人付き合いが好きじゃない奴、って場合もありやすぜ」
物陰から細身の男がゆらりと立ち上がって道をふさぐ。
「ごきげんよう、“アノール” の旦那。お目に掛かれて光栄です」
男はニヤニヤ笑いながら話しかけてきた。軽く腰を落として、いつでも逃げられる体勢だ。
「アノール?」
「エルフ語で太陽って意味。ラヴィの通り名よ」
「“二つ星”ステラ嬢が一緒なら戦力に不足はねえでしょうが、子供達のお守りは大変でがしょ? ぜひとも手伝わせてくださいな」
「何が目的だ」
「そりゃもちろん、ぐるぐるですよ、旦那。あっしにも御相伴にあずからせてくだせえ」
どうやらこの男は俺たちの目的を知っているらしい。
「なあに、あっしの昨日の夕飯もぐるぐるでしてね。皆さんの計画が聞こえちまったんでさぁ。いえね、山盛りのぐるぐる、ちょいと食べてみたいと思いやして」
なるほど。店内で普通にしゃべってたからな。他にも聞いてた客は多いだろう。
「野生のぐるぐるを見かけたこたぁありやせんが、薄切り前のあの形状、人喰いカズラやヘビ瓢箪の類じゃないんすか? だとしたら、崖か太い木を登って採取する手が必要でしょ? 身の軽いあっしは役に立ちますぜ? 斥候でもしんがりでも何でもござれ。どうです? ああ、あっしは……そうだな、ロック・スミスと呼んでくだせえ」
へへへ…と笑う男。
口数が多く愛想が良いが、一言で言うなら「うさん臭い」。
「ラヴィ、ああいう手合いとは関わり合いにならない方がいいんじゃない?」
ステラがラヴィの背中へささやく。
「ロックスミス、『鍵屋』だなんてあからさまな偽名じゃないの」
「偽名と分かりやすく名乗った分だけ、善意を見せてくれてるんだろう」
ラヴィの言葉に肩をすくめてニヤリと笑うロック。
「鑑定…しましょうか?」
「いや、オーラの色はそれほど悪くない。酒場で隣に座った酔っぱらいの財布は少々軽くなるかも知れんが……ユーキ、どうだ? 見覚えあるか?」
「うん、たぶん…いつも夜遅めに来る人だと思う。混んでてもちゃんと列に並ぶし、怒鳴ったりしないで普通に注文して食べてる」
「そうか」
ラヴィは腰の剣に掛けていた左手を下ろし、右手を差し出す。
「よろしく頼む。ラヴィだ。今回の目的地は地下3階。先を歩いてくれ、ロック。それと“アノール“も”旦那”もナシだ」
「じゃ、ラヴィと呼んでも?」
「好きにしろ」
「へい。じゃ、お先に」
握手を求めるラヴィの手には気づかずに、男は先に立って石畳の回廊を進んでゆく。
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