世界樹の管理人

浅間遊歩

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第1章 初めての旅

私の身分証明書

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「さあ、これを渡しておこう。君の身分証明書だ。マホテアまでの往復、一回限りの特別な通行許可証。失くさないように気をつけて」

 男が取り出したのは、手のひらに乗る大きさの薄緑色のカードだった。
 張りのある台紙に大きな樹のシルエットがデザインされていて、とても綺麗。
 男はカードに私の名前を書き込み、いくつかの項目も埋めていった。
 達筆だが、私の名前以外は読めなかった。外国語のようだ。
 それから右下にある枠を指差し、

「ここに指を…右手の親指を下を向けて置いて。…そう」

 私が親指の腹をカードの右下の枠の中に押し当てると、男はその上から指を重ねた。すると、淡い光が男の指から出て私の指を通り抜け、カードに染み込んでゆく…

「……魔法!?」

 ビックリして大声を上げる。
 はしたないと怒られるかと慌てたが、院長先生も目を見開いて驚いている。

「これで良し。途中の町や街道筋の検問ではコレを見せるんだよ。面接に合格すれば新しい身分証明書がもらえるが、もしも不合格の場合には、ここへ帰ってくるのに必要だからね。大切にしたまえ」
「はい!」

 私はカードを両手で受け取った。
 私の身分証明書!
 まるで大人みたい!

「それでは失礼します、ロレン院長。明日か明後日には書類が届くと思います」
「ごきげんよう、ミスター・クレヴァンシアス」

 お客様が帰るので、私は孤児院の玄関まで見送りに出た。
 マシモール先生は出かけていたし、院長先生は足が悪くて早く歩けないので先生達の代わりだ。

 廊下のコート掛けには見慣れないコートと帽子がかかっている。旅人が着るみたいな体全体を覆う大きなコートとつば広の帽子。クレヴァンシアス氏のものに違いない。
 マシモール先生がするように着るのを手伝ってあげたかったが、コート掛けのフックに手が届かないのであきらめた。

「コートを着る間、帽子をお持ちしますわ、ミスター」
「ありがとう」

 クレヴァンシアス氏は院長室で見たよりずっといい笑顔で返事をして、帽子を渡してくれた。私の身長より長そうなコートを自分ではおり、それから、帽子を差し出す私の顔をジッと見つめた。

 うう、やっぱり失礼な人だ。この人。

「君の髪は母親ゆずりだね? ミリアナ」
「さあ…」

 私は曖昧に笑うしかなかった。
 私の髪は赤茶だけど、光が当たると金色にも緑色にも見えることがある。目は深い緑だ。

「両親の顔は、覚えていないんです」
「そうか…」

 クレヴァンシアス氏はバツが悪そうに帽子を受け取り、

「マホテアで会おう。君が到着するまでには、私も戻っているつもりだ。面接に合格するよう、祈っているよ」

 失礼の塊のような男だったけど、最後に礼儀正しい挨拶をしてくれたので、私は水に流してあげることにした。

「ありがとうございます、ミスター・クレヴァンシアス。良い旅路を」

 男は軽くうなずき、ドアを開けて出ていった。
 背筋をピンと伸ばして歩く後ろ姿はとても品がある。
 あのちょっと変わったおじさんは、よく見たらちょっとだけカッコイイかもしれないな、とようやく思えた。
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