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第1章 初めての旅
出発の準備
しおりを挟む「ミリアナー、ミリアナー、孤児院をやめちゃうってホント?」
「やめないでー、ミリアナぁー」
「やめるって何よ」
まとわりついてくる小さな子達を適当にあしらいながら、荷物整理を続ける。
「私を孤児院の職員だと思ってたのか? 君たちは」
「しょくいんてなにー?」
「ミリアナ、ずっとここにいるよねぇ?」
モイが目に涙をためて私の服にすがってくる。
ぎゅうっと抱きしめて、背中をポンポンと叩いてあげた。
「私ね、仕事をすることになったんだよ。まだ合格するか分からないけど。それで面接を受けにマホテアって街まで行くの」
「マホテア!?」
ジェンクが叫んだ。
「すげー! カッケー!」
「はあ? 何よそれ」
ジェンクの不思議な反応に私が聞き返すと、
「マホテアは冒険者の街だよ。すんごく大きくて、人間だけじゃなく色んな人種が集まってるんだ」
と、タークが説明した。
そうか、タークとジェンクは冒険者になりたいんだったね。だから「カッケー」なのか。
「違うよ。マホテアは世界樹の街だよ。大きいのは世界樹だよ!」
横からマイが口を出した。
「世界樹はとっても大きくて、街の外からでも見えるんだって」
「世界樹……」
私は身分証明書の台紙に印刷されている大木のシルエットを思い出した。
「知らない街なのに何となく聞き覚えがあったのは、そうだ、世界樹だ。世界樹が生えてる街ね?」
「違うよ。世界樹の周りに人が集まってできた街だよ」
マイが得意げに訂正した。
「いつ行くの?」
「三日後。ルーベンさんの馬車に乗せてもらうの」
「すぐ帰ってくる?」
「わかんない。面接に合格したら、すぐに仕事だって」
「じゃあ失敗して」
「そうだよ。不合格になれば帰って来られるよ」
「勝手なこと言って。そうしたら仕事ができないじゃない」
小さい子供達は口を尖らせてグズグズ言いながら背中にぶつかったり腕にしがみついたりしてくる。
それだけ邪魔が入っても、荷造りはすぐに終わった。もともと、ここで暮らす子供達の私物はものすごく少ない。まだおもらしをするくらいの小さな子供は、下着ですら共用だ。
「さあ終わった。次は仕事の引き継ぎね」
「ひきつぎ?」
マイが聞きなれない単語を聞き直す。
「私がここで今までしてた仕事を他の人に割り振るの。まず、ご飯の支度のお手伝い。それに赤ちゃんの世話と、掃除の監督と畑の見回りと……結構あるなぁ。それに村でやってた仕事も誰かに頼まないと」
「広場のお花の世話は、マイとミリューネでやるよ。いつも手伝ってるからわかるよ」
「ありがとう。毎週、風の曜日に必ずお願いね。強い雨が降ってたら翌日の金の曜日にね。大雨が続いても、その次の闇の曜日はダメよ。お休みしてないと悪霊に目をつけられるわ。その場合は、その次の光の曜日の早朝にやってね。水はいいから、枯れた花の花がらを取ってゴミを拾って」
「うん、わかってる」
自分が今までやっていた仕事を書き出してみると、結構多いのでびっくりした。
どれも小さなものだけど、他の人の役に立つ大事な仕事だ。ちゃんと引き継いでおかないと、うっかり忘れられて困ったことになるかもしれない。一度もやったことがない子に頼む仕事は、やり方を教えてから出かけないと。
私がこの孤児院に預けられたのは、まだ赤ちゃんと言ってもいい小さな頃だった。
「必ず迎えに来ます」との手紙が添えられていたと聞くが、火事で何もかも焼けてしまったので確認する術はない。
もし親の書き置きが本気であっても、迎えが来るとは限らない。思うだけではどうしようもないこともあるのだ。特にお金に関しては。
あるいは、病気や事故で亡くなってしまった可能性もある。
いつか来るかも知れない親をあてにせず、私は私で生きていく道を見つけなければならないのだ。
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