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第1章 初めての旅
認証の色
しおりを挟む私が指を置いたのを確認した兵士は判別機を持った手に力を込める。すると、兵士が持っている同心円の紋様が光り出した。
「あっ!」
「おおっ!?」
光は円からツタにそって広がり、器具全体が淡く光り出す。その光を受けてカードも光を放ち始める。緑色だ。薄緑色のカードがさらにみずみずしい緑色に輝き始めた。
乳白色のガラスのような部分に「認証」の文字が浮かび上がる。
エルフ語ではなく、人間領で広く使われている共通語の表記。
どうやら人間領で使うことを前提に作られた器具のようである。
会話が聞こえない距離からでも、ここで何やら揉めているらしいのは一目でわかる。そのため周囲の注目を浴びていたが、魔光の輝きでさらに注目されてしまった。
「本…物?」
「さあ、これで疑いは晴れましたかな? それともエルフの王様が、人間の子供を売買しているとお考えで?」
偽造を疑った兵士は、ここにきてようやく、自分の行動が国際問題に発展しかねないものだったと気づいたらしい。
青い顔をして証明書を返しながら、ひとこと言った。
「通ってよろしい」
ルーベンさんは胸を張って馬車を引くフレイムホースの手綱を取り、町の門をくぐった。
私達は急いでその後を付いてゆく。
「あんな立派な身分証明書を、調べもしないでニセモノだと疑う兵士がいるとは思わなかった」
ルーベンさんは、まだプリプリと怒っている。よほど腹に据えかねたんだろう。
「立派過ぎたんだよ」
デレファンが肩をすくめる。
「この辺りじゃ、エルフだって人間領で発行し直した証明書を使ってる。本物のエルフの魔法認証付きの証明書なんか見たこともないんだろうよ。世界樹はエルフのマーク、って知ってるだけなのさ。もしかしたら、見てもわからないだろうと杜撰な偽造事件でもあったのかもしれない。俺だって初めて見たんだ。父さんは商売で使ったことある?」
「見たことはあるが使ったことはない」
渋い顔のルーベンさん。怒りは少しだけ収まったらしい。
「あのカード、そんなにすごいものなの?」
「そうさ、ミリアナ。エルフの貴族の持ち物だぜ」
「ええっ!?」
「いやいや、貴族は言い過ぎだ。エルフ領では庶民も普通に使っているそうだよ。みんな魔力の扱いがうまいからね。器具を使わずとも真贋判定ができるのだ」
私とマグリーの会話を聞いてルーベンさんが笑う。
「ただし人間領では、エルフの大使や大商人が使う様な物だね」
「ふわぁ~~、だ、大事にしなきゃ」
緊張し過ぎて変な声が出てしまった。
「このカードを作ってくれたクレヴァンシアスさんがエルフの王様だったの?」
「あっはっはっは」
私は本気で聞いたのに、ルーベンさんは大笑い。
「エルフの王様が、わざわざ人間の村くんだりまでは来ないでしょう。けれどエルフ風の名前ですね。それなりの権限を持った偉いエルフなのかもしれませんよ。急ぎの用事で通行許可証を作るなら、身元が保証されてる人物の招待が一番早い。人間の役所で書類をそろえるとなると非常に時間がかかってしまうからね」
「そいつがミリアナと一緒に来りゃあ、変な疑いをかけられなかったのに」
マグリーが口を尖らす。
「急ぎの用事が入ったんですって。マホテアで会おうって言ってた」
「もしもマホテアでそいつに会えなかったらどうする?」
マグリーの言葉に、ドキリとした。そんな事は考えたことがなかった。
もしもウモグル村から遠く離れた知らない街で、ひとりぼっちになってしまったら…?
「マグリー、ミリアナを怖がらせるのはやめなさい。ミリアナ、心配しなくていい。その通行許可証には、詳しい行先と身元引受け人の名前も書いてある。そこへ行けば大丈夫」
「でも、父さん! 面接に合格しなかったらどうするの? 俺たち、すぐにはウモグル村へ戻んないじゃん。ミリアナにはうちで働いてもらおうよ。ミリアナなら経理の手伝いだってできるよ!」
「他人の不幸を願うのはよしなさい、マグリー。失敗したらどうしよう、じゃなく、どうしたら成功するかを考えるんだ」
それきり、みんな黙ってしまった。
しかられたマグリーは下を向いたまま歩いている。
私は色々な事で頭の中が一杯になり、周りの風景もろくに目に入らなくなってしまった。
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