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第1章 初めての旅
冒険者入門
しおりを挟む「うわぁ、すごーい!」
「まだ無石から水晶に上がったばかりだけどな」
デレファンは指の先で金属製の認識票を揺らしながら言う。
「ううん、すごいよ。 水晶に上がるのだって大変なんでしょう?」
「裏ワザ、裏ワザ」
隣でマグリーがささやく。
「兄さんは毎月、父さんが出す護衛の依頼を受けてるんだよ」
「ええっ!? おじさん、それってズル…」
「ほっほっほっほ」
私が突っ込んでもルーベンさんは涼しい顔で笑ってる。
「貴族やお金持ちのご子息方は、もっと露骨ですよ。いえ、ただの親バカではなくてですね、商売上、非常に効率がいいんです」
と、特別な内緒話をするように顔を寄せる。
「私の様な行商人は、危険なダンジョンに潜る事はほとんどありません。ですが、聖域は国内のいたるところにあります」
ダンジョンも聖域も大量の魔力が集まっている土地なのは同じ。ただし聖域の魔力は安定していて害がない。
「聖域には魔獣や魔物はいませんが、時々、聖獣が住み着きますよね?」
「あと、小妖精とかも、でしょ? でも、彼らは人間を襲わないんじゃなかった?」
「ええ。むやみに人を襲う事はありません。ですが、自分のナワバリを守ろうとする性質はあるのですよ」
ルーベンさんの説明をデレファンが引き継ぐ。
「聖獣の種類によっては近づいて触っても平気だ。逆に、近づいたり大きな音を立てたりするだけで暴れ出すヤツもいる。子育て中は特に危ない。下手すると巣を守ろうとして魔法で攻撃してくる」
「ええっ、そんなぁ…。でも、驚かせたコッチが悪いのかな?」
「そう。扱いを間違えるとダンジョンの魔獣と同じく危険だ。でも素早く立ち去れば追いかけて来ない奴が多い。倒す必要はないんだ」
「そういう見分け方や対処方法を学んだ冒険者か聖職者が一緒でないと、聖域は立ち入り禁止なのですよ」
「へえええ…」
知らなかった。
デレファンは、聖域での対処法を学ぶ講習を受けて、その正式な資格を持っているんだって。
だから一緒に移動しているデレファンを護衛に雇えば、そのまま聖域を通り抜けられる。回り道をする必要がなくなって旅の行程がかなり短縮できるのだという。
「依頼主と請負人が知り合いであっても冒険者ギルドは問題にしません。手数料が入りますからね」
「聖域の通行料がわりさ」
「そう言うなって、マグリー。実際に年に何人かは聖域で命を落としてる。確率が低くても、危険なのは本当なんだ」
いつになく真剣な表情で注意をうながすデレファン。
「ま、そういう理由で、護衛を兼ねた専属の冒険者を連れている商人は多いのですよ。不法侵入の罰金は恐ろしく高いですしね。うちはたまたま、それが息子だっただけです」
「複雑なのね」
冒険者は兼業を禁止されていない。
普段は職人をしながら自分が使う材料を採取しに行く冒険者や、農閑期だけ冒険者をやる出稼ぎもあったりする。
きっと、大きな商会に採用されたと思ったら最初の仕事が冒険者の資格取得、なんて人もいるのだろう。
「でもそれなら、その認識票、タークとジェンクに見せびらかせば良かったのに。絶対、うらやましがるよ!」
「イヤだね。俺はまだ死にたくない」
「ぷはっ」
「うっくくく…」
確かに、デレファンが冒険者だと知ったら、あの二人は興奮のあまり何をするかわからない。一日中つきまとってしがみつき、弟子にしてくれるまで離れないとか、こっそり馬車に潜り込むとかやりそうだ。
マグリーと私はその様子を想像して笑い転げた。
「そうだ。これをやるよ、ミリアナ。字は読めるよな?」
「何?」
デレファンが差し出す本を受け取りながら聞くと、
「冒険者入門。冒険者に必要な知識がまとめられてる手引き書だ。今日から聖域を抜けるから、『聖域ですべきこと・してはいけないこと』の項目だけでも読んどいて」
「へー」
パラパラとめくってみると、かなり本格的な内容だと分かった。初心者向けの実用書。屋外でキャンプをする際のコツや雨の日に旅をする時の注意など、冒険者にならなくても生活に役立ちそう。この本は冒険者ギルドの売店で売っていて誰でも買えるらしい。奥付を見ると、結構な値段がついていた。
「もらっちゃっていいの?」
「もうだいたい頭に入ってるし。もう少ししたら新版が出るらしいから買い直す予定なんだ。俺のお古だからボロボロで悪いけど」
本を開くと、重要な部分に線が引いてあったり、詳しい書き込みがあったり。かなり勉強した跡がうかがえた。
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