世界樹の管理人

浅間遊歩

文字の大きさ
31 / 77
第2章 聖域の蔦苺

古き祈りの場

しおりを挟む

「なあ、下に新鮮な空気を送ってやれないのか? こう、風でバアーッと」

 デレファンが身振り手振りで崩れた穴を示すと、

「この穴から? 無理よ。風の精霊が通り抜ける先がないわ。無理をすれば、もっと崩れるかもしれないし」
「クソッ」

 くやしがるデレファンと対照的に、ルルーシェは冷静な声で、

「でも、もしも聖堂の中に落ちたのなら助けに行けるわ」
「どうやって?」
「扉を開けて、入口から。遺跡の調査を請け負っている私には、調査のために封印を解く権限があるもの」
「よし、行こう!」

 走り出そうとするデレファンを引き止め、ルルーシェは、

「その前に、確認!」

 そうっと穴に近づき、声をかける。

「2人とも、聞こえる? これからそちらに光の球を落とすから、周りを見て様子を教えて欲しいの。もしもそこが聖堂の中なら、床はモザイクタイルで、天井には彫刻が入った梁があるはず。いい?」
「いいよー」
「はあい」

 二人の返事を確認したルルーシェは、片手を前に出し、唱えた。

『光よ、つどえ。球となりてとどまり、周りを照らせ』

 手のひらに光が渦を巻くように集まり、輝く球となった。
 ルルーシェはそれを両手で包むようにしてから、穴にそおっと放り込む 。

「き、消えないのか?」
「魔力で包んであるからしばらくは大丈夫。こうしてから杖につけて掲げたり、燭台に置いたりするのよ」
「…あれは、杖を光らせてるのだと思ってた」
「ふふふ」

 光の球は、斜面をゆっくりと転がり落ちてゆく。

「あ、来た」

 マグリーがつぶやく。
 夜が明けるように、周辺がゆっくりと明るくなってくる。
 明かりは壁の穴から漏れてくるようだ。その部分は崩れて、周辺に土砂が散乱している。どうやら私達はそこから滑り落ちてきたらしい。穴はグズグズで、手をかけて登ることはできなそう…あれ?、…つかめた??

 見ると、手には細いヒモの様な物が数本。何か飾りがついて…、いや、葉っぱが生えていた。

「この葉っぱ…」
「あ? 蔦苺ツタイチゴじゃん」

 よく見るとここにも蔦苺ツタイチゴが生えていた。壁の一部が葉で覆われている。しかし太陽が当たらないせいかヒョロッとしていて、体重を支えるロープの役には立たなそうだ。

「地上と間違えて大きくなったのかな?」
「かもな。伏せといた植木鉢の中で育ってる草ってあるよな」

 フワ…ッ

 壁の穴から光の球が飛び出した。勢いがついたボールのように転がり出て来て、音もなく足元に落ちた。ロウソクの灯りのように辺りを照らす。
 私は周りに見える物を大声で報告する。

「床はタイルで模様になってます! 四角とか三角とか、並べて線にしたり」

 マグリーが続けて、

「割と広い空間で、天井にはアーチ状の梁があります。あ、反対側に大きな扉もある。両開きの重そうなヤツ」

 穴の向こうから、ルルーシェさんのくぐもった声が聞こえてくる。

「了解。確かに聖堂の中みたいね。今、助けに行くわ。封印を解いて入口の扉を開けるのに数分、…通路は真っ直ぐで短いと思うけど、もしかしたらそっちの扉にも封印が施されてるかも。たどり着くのにしばらくかかるけど、ちょっと待っててね」
「はあい」

 これで一安心だ。

 再度、辺りを見回すと、部屋の中央には黒く腐った肉の塊みたいな物が見えた。

「マグリー、あれ…」
「ああ、やっぱりネズミ……にしては大きいな。猫かたぬきだろ? アレが腐って臭うんだ。離れてようぜ」

 マグリーは壁伝いに歩いて扉の方へ移動する。
 光の球は床に落ちたままだ。触っていいのかどうか分からない。
 仕方ないので置いてゆくことにした。動かそうとして爆発したら嫌だもん。

「待って…」

 マグリーを追いかける。
 出来るだけ、見ないようにして歩く。見たくない。あの、黒い塊。

(アレは……動物? 頭の骨が、…大きい。まるで……まるで、人間の赤ん坊のような…)

 蒸し暑い。ホコリとカビと濡れた土と…腐った肉の匂い。吐きそう。

 ギィ……

 何かがきしむ音。ビクリと体を震わせる。
 扉が、ほんの少し動いている。絡み合う木の枝の彫刻が施された二枚の大きな扉。入口にあった扉と似たデザインだ。

 ギィ……

 また、鳴った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...