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第2章 聖域の蔦苺
古き祈りの場
しおりを挟む「なあ、下に新鮮な空気を送ってやれないのか? こう、風でバアーッと」
デレファンが身振り手振りで崩れた穴を示すと、
「この穴から? 無理よ。風の精霊が通り抜ける先がないわ。無理をすれば、もっと崩れるかもしれないし」
「クソッ」
くやしがるデレファンと対照的に、ルルーシェは冷静な声で、
「でも、もしも聖堂の中に落ちたのなら助けに行けるわ」
「どうやって?」
「扉を開けて、入口から。遺跡の調査を請け負っている私には、調査のために封印を解く権限があるもの」
「よし、行こう!」
走り出そうとするデレファンを引き止め、ルルーシェは、
「その前に、確認!」
そうっと穴に近づき、声をかける。
「2人とも、聞こえる? これからそちらに光の球を落とすから、周りを見て様子を教えて欲しいの。もしもそこが聖堂の中なら、床はモザイクタイルで、天井には彫刻が入った梁があるはず。いい?」
「いいよー」
「はあい」
二人の返事を確認したルルーシェは、片手を前に出し、唱えた。
『光よ、集え。球となりて止まり、周りを照らせ』
手のひらに光が渦を巻くように集まり、輝く球となった。
ルルーシェはそれを両手で包むようにしてから、穴にそおっと放り込む 。
「き、消えないのか?」
「魔力で包んであるからしばらくは大丈夫。こうしてから杖につけて掲げたり、燭台に置いたりするのよ」
「…あれは、杖を光らせてるのだと思ってた」
「ふふふ」
光の球は、斜面をゆっくりと転がり落ちてゆく。
「あ、来た」
マグリーがつぶやく。
夜が明けるように、周辺がゆっくりと明るくなってくる。
明かりは壁の穴から漏れてくるようだ。その部分は崩れて、周辺に土砂が散乱している。どうやら私達はそこから滑り落ちてきたらしい。穴はグズグズで、手をかけて登ることはできなそう…あれ?、…つかめた??
見ると、手には細いヒモの様な物が数本。何か飾りがついて…、いや、葉っぱが生えていた。
「この葉っぱ…」
「あ? 蔦苺じゃん」
よく見るとここにも蔦苺が生えていた。壁の一部が葉で覆われている。しかし太陽が当たらないせいかヒョロッとしていて、体重を支えるロープの役には立たなそうだ。
「地上と間違えて大きくなったのかな?」
「かもな。伏せといた植木鉢の中で育ってる草ってあるよな」
フワ…ッ
壁の穴から光の球が飛び出した。勢いがついたボールのように転がり出て来て、音もなく足元に落ちた。ロウソクの灯りのように辺りを照らす。
私は周りに見える物を大声で報告する。
「床はタイルで模様になってます! 四角とか三角とか、並べて線にしたり」
マグリーが続けて、
「割と広い空間で、天井にはアーチ状の梁があります。あ、反対側に大きな扉もある。両開きの重そうなヤツ」
穴の向こうから、ルルーシェさんのくぐもった声が聞こえてくる。
「了解。確かに聖堂の中みたいね。今、助けに行くわ。封印を解いて入口の扉を開けるのに数分、…通路は真っ直ぐで短いと思うけど、もしかしたらそっちの扉にも封印が施されてるかも。たどり着くのにしばらくかかるけど、ちょっと待っててね」
「はあい」
これで一安心だ。
再度、辺りを見回すと、部屋の中央には黒く腐った肉の塊みたいな物が見えた。
「マグリー、あれ…」
「ああ、やっぱりネズミ……にしては大きいな。猫か狸だろ? アレが腐って臭うんだ。離れてようぜ」
マグリーは壁伝いに歩いて扉の方へ移動する。
光の球は床に落ちたままだ。触っていいのかどうか分からない。
仕方ないので置いてゆくことにした。動かそうとして爆発したら嫌だもん。
「待って…」
マグリーを追いかける。
出来るだけ、見ないようにして歩く。見たくない。あの、黒い塊。
(アレは……動物? 頭の骨が、…大きい。まるで……まるで、人間の赤ん坊のような…)
蒸し暑い。ホコリとカビと濡れた土と…腐った肉の匂い。吐きそう。
ギィ……
何かが軋む音。ビクリと体を震わせる。
扉が、ほんの少し動いている。絡み合う木の枝の彫刻が施された二枚の大きな扉。入口にあった扉と似たデザインだ。
ギィ……
また、鳴った。
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