世界樹の管理人

浅間遊歩

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第2章 聖域の蔦苺

不浄なる乱入者

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「ル、ルーシェ…さん?」

 きしむ扉に問いかける声がかすれる。
 時間がかかるって言ってたのに、こんなに早く?

「ルルーシェさん…ですか? デレファン?」
「兄さん? 兄さんだろ!?」

 ギシッ、ミシッ、ガリ…

 扉の向こうで音がする。両開きの扉は、向こうから押されてじわじわと開いてゆく。

 私達は無言で後ずさる。
 デレファンなら、ううん、ルルーシェさんだって、助けに来たなら声をかけてくるはずだ。

 ギギ………バンッ!

 圧力に耐えきれず、ついに扉が開いた。
 扉を押し開けたのは、巨大な芋虫、いや、蛆虫うじむしか?

「ヒッ」
「な、なんだアレ…」

 丸々と太った灰色の体。モコモコと動きながら部屋に入ってくる。意外と動きが速い。
 っている状態ですら体高は人間の大人より高く、長さはその2倍以上もある。
 先端に開いている穴が口?
 獣みたいな牙や歯はないけど、口を開けるとノドの奥には硬そうな突起がビッシリと並んでいる。アレでエサをすりつぶし、噛み砕くに違いない。

 マグリーが私をかばうようにしてささやく。

「さ、下がれ、ミリアナ!」
「うん」

 私達は元いた場所まで戻る羽目になった。
 巨大な蛆虫うじむしのようなそれは頭を持ち上げ、ウネウネと体をくねらす。
 周囲を確認しているのだろうか?
 動かしている頭部には赤黒い丸い物がいくつもある。それが目なのか、見えているのかは分からない。
 やがて部屋の中央にある腐った肉の塊に気づいてそちらへとい進む。
 辺りを探るように頭を動かした後、息を吸い込むように丸くノドを開けた。

 ベチャッ!

 肉色の何かが、開けた口から飛び出した。
 ううっ、気持ち悪い!
 舌?、裏返った胃袋?
 粘液に濡れたヌメッとしたものが腐った肉を包み、口の中に引き込んでゆく。

「アイツ……もしかして、土蟲ワーム?」
「何?」
「“不浄喰い”とも呼ばれる魔獣だ。兄さんから聞いたことがある。死体の腐った肉を食うのが好きなんだ。ええと……」

 言いにくそうに続ける。

「…生きてる肉よりは」
「それって、生肉も食べるってこと? つまり……次は、私達?」
「食欲旺盛なんだ」

 こわばった顔でうなずくマグリー。

 ガリッ、バキッ、ニチッ、ゴリッ、クチャ……

 嫌な音が部屋中に響く。
 さらにもう一歩、後ろへ下がろうとしたミリアナは、

「……キャッ!」

 壁に寄りかかるはずが、尻餅をついていた。目の前には緑の葉っぱ………あれ?

「ミリアナ!?」
「ここ、くぼみになってる! 蔦苺ツタイチゴの後ろ!」

 震える声でささやく。マグリーは蔦をかき分け、のぞき込んだ。

「ホントだ。葉っぱが繁っていて気づかなかった」

 壁に張り付いている蔦苺ツタイチゴが緑のカーテンとなって、部屋の奥にある小部屋を覆い隠していた。
 小部屋は大人が数人入れば満杯になるような狭さだ。でも小部屋の中は暗く、外からは分かりづらくなってる。

 マグリーが急いで小部屋に飛び込んで来た。私も外に出たままの足を引っ込めて蔦苺ツタイチゴの陰に隠れる。

 元居た大きな部屋の中は、ルルーシェが落としてくれた光の球に照らされている。
 蔦苺ツタイチゴの隙間からそっとのぞくと、ワームはまだ部屋の中央で床を舐めていた。壁には、光に照らされて実物以上に大きな影が映っている。
 こちらには気づいていないようだ。あまり複雑な思考はできないのかもしれない。
 だが……どうやら最初の獲物を食べ終わったようだ。

 マグリーと目を見交わし、音を立てないように気をつけながら後ろへ下がる。
 狭いので二歩も下がれば動けなくなる。奥の壁に張り付くようにして、息を潜めた。

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