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第2章 聖域の蔦苺
這い回る恐怖
しおりを挟むグルゥ、ググゥ……
土蟲が顔を上げ、体をくねらせて頭を巡らせる。
獲物の匂いを探しているのだろうか? それとも音を?
ゆっくりと這いずり始めた。
私達に気づいたのではないらしい。あてもなくモコモコと動き、そこここに頭を向けている。
他にもエサがあったはずだ、とでも思っているのかしら?
あきらめるかな?
それとも……?
あの屍肉は小さすぎて、到底、巨大な魔獣のお腹を満たすには足らないだろう。
マグリーの方を見ると、マグリーもこちらを向いていた。でも私を見ているのではない。じっと、二人の間にある物を見つめている。
この小部屋の奥の壁には不思議な物があった。
変な柱だと思ったが違った。
木の幹のような…。ううん、太い根っこ?
奥の壁は土がむき出しになっていて、そこに太い根っこの一部が見えている。
そして、そこにはナイフが突き立ててあった。
黒い柄に黒い刃。
それほど大きくはないが、ちゃんとしたナイフだ。武器。
マグリーは思いつめたように、その黒いナイフを見つめている。
(やめなよ…)
声を出さずに口の動きだけで伝えようとしたが、マグリーは私を見ていなかった。
武器があれば戦える…、そう考えてるのがありありとわかる。
だけどこんなに小さなナイフで、あんなに大きな魔獣と渡り合えるだろうか?
そもそもマグリーは戦士じゃなくて商人だ。
それに、このナイフは…、なんだかとても嫌な感じがする……
意を決したように、マグリーが手を伸ばしてナイフをつかんだ。
ギリリと握って引き抜こうとする。
が、動かない。刃がだいぶ深く食い込んでいるようだ。力を込めて引き抜く。
—— 動いた!
「…ッツ!」
弾かれたようにマグリーが手を引っ込めた。手から離れたナイフは黒い砂のように粉々になり、跡形もなく散らばった。芯までサビていたのだろうか?
「く……」
手を押さえるマグリー。だいぶ痛そうだ。
「大丈夫!? 切った?」
「いや、そんな感じじゃなくて…」
開いて見ると手のひらが赤く焼けただれている。
そして。
二人とも…気づいた。大きな失敗に…
——— 声を出してはいけなかったのに!!!
グウゥ……グル、グルゥ……
くぐもった音を出しながら太い筒状の体をくねらせ、土蟲がゆっくりと振り向いた。
そして息を吸い込むように、丸く口を開ける…
「逃げろ!」
叫びながら、マグリーが私を突き飛ばす。
今まで私達がいた場所に、土蟲の舌が撃ち込まれる。間一髪だ。
「走れ!」
そのまま蔦苺の目隠しを通り抜け、小部屋から元の部屋へと走り出る。
グーイ、グウゥイ!
音は離れた場所から聞こえた。
振り向くと、土蟲は間違えて蔦苺のツタを何本も吸い込んでいた。そのせいで動けなくなっている。
細く頼りないと思った蔦苺は、意外と繊維が強いみたい。
(そのまま、からまっちゃえ!)
思わず強く願う。
土蟲の表皮には、所々に短い毛が生えていた。さらによく見ると体の下側には小さな脚が大量にある。足をワサワサと動かし体をねじって暴れる土蟲は、長く伸びた蔦苺にみるみると絡まっていった。
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