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第2章 聖域の蔦苺
苦い魔法薬
しおりを挟む「うう?」
デレファンがうっすらと目を開ける。
ルルーシェはその頭を引き寄せて膝の上に乗せた。口元にカップを押し付ける。
「毒消しよ! 飲んで!」
ゴクリ。
カップを持つルルーシェの手に自分の手を添えて、デレファンは毒消しを飲み干す。
「………苦い」
モグモグと口を動かしながらデレファンがつぶやいた。ポリポリと音がする。
「あら。底に溜まってるカスは飲まなくてもいいのよ。蔦苺の種は苦いわよ?」
「…先に教えてくれよ」
うえ~、と舌を出す。
口直しに泉の水をもう一杯飲んでから、デレファンはゆっくりと立ち上がった。
「兄さん!!」
聖堂から自分の足で歩いて出てきたデレファンを見て、マグリーが大声を上げた。石碑の並ぶ丘からあわてて駆け降りて来る。
「大丈夫なの? 腕は? 腕はどう?」
「ああ、もうほとんど痛まない」
右腕を前に出して動かして見せる。
治療のために切り裂かれた袖口は血まみれのままだったが、ドス黒く腫れ上がっていた腕は、黄色と紫のまだら模様に変わっていた。大ケガが治りかけの時になる、あの変な色だ。腫れも引いてきている。
「もうしばらくすれば、すっかり治るはずよ」
こうしている間にも腕の色はどんどん変わっていく。指先はもう普通の色。
「あの小部屋の奥に、ひとつだけ蔦苺の実があったのよ!」
「よ、良かった! …本当に……ううっ、ぐす…うわあああん……」
マグリーは急に泣き出した。安心したら、今までの不安が一気に押し寄せたんだろう。
「馬鹿。泣くな。男だろ」
「だって…だって……うぐっ、うううぅ……えぐっ…」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら兄に頭を撫でられている姿は、さっきまでの頼れる青年とは違って、まるで小さな男の子みたい。
私だって、デレファンが死んじゃったらどうしようって怖かったもの。マグリーはもっとだよね。
聖堂の入り口の扉を元通りに閉めると、ルルーシェはカバンから板状の物を取り出し、扉に押し付けた。
バチッ
何かが破裂するような音がして、みるみるうちに板が赤く染まってゆく。
手を離すと、板は扉に張り付いていた。何種類かの言語で立ち入り禁止の表示がある。
「さあ、行きましょう」
「結界札?」
「そう。魔符の一種ね。クエストの支給品よ。使わなかった分は返す契約で何枚か預かってるの。封印が弱ってたり遺跡が壊れてたりしたら、こうして結界を張って報告するわけ。浄化や修理には、後で別の専門家が派遣されるのよ。まさか中で戦闘する羽目になるとは思わなかったけど、落雷で壊れてたりは時々あるから」
「へー」
ルルーシェはひとりで丘の上にも登り、遺跡脇に開いた穴の周辺にも結界を張った。
「中にあった死骸のせいで魔獣が寄ってきたのかな?」
「たぶん、そうね。すぐに報告書を書くわ」
すっかり遅くなってしまった。もう日が暮れかけている。
ルーベンさん、心配してるだろうなぁ。
雑談しながら宿泊所への帰路につく。
薬草で一杯の保存箱はデレファンではなくマグリーが持った。
もう大丈夫だからとデレファンは言ったが、マグリーは譲らなかった。
振り返ると、夕日に照らされた丘の上で蔦苺の葉が揺れている。
まるでサヨナラをしてるみたい。
(バイバイまたね!)
心の中でつぶやいて、私も手を振った。
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