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第3章 まもり草の黒い花
伝言ゲーム
しおりを挟む天を仰いで頭を振りつつ部屋に戻って来たルルーシェさんに声をかける。
「ルルーシェさん、ミンテ茶はいかがですか?」
「ありがとう、いただくわ」
宿泊所に備え付けのティーカップをルルーシェさんの前に置き、ポットからお茶を注ぐ。
「トントン草と太陽花もブレンドしてみました」
「いい香りね」
ルルーシェはその香りをゆっくり楽しんでから口に含む。
それから深いため息をついた。見とがめたデレファンが聞く。
「何か、問題が?」
「冒険者ギルドに遺跡での出来事を報告したんだけど、どうにもうまく伝わらないの。マホテアは遠いから、とりあえずホルスト郷のギルド支部に連絡してみたんだけど…」
「ああ、あそこ、確かに支部があるな。小さいけど」
ルルーシェはもう一口お茶を飲み、またため息をついた。
「公式の支部なら通信士がいるでしょ? 伝言を転送してもらおうと思ったの。その方が早いから」
冒険者ギルドには、通信宝珠と光の精霊を使って遠方と通信する設備がある。
圧縮変換した通信文を光の精霊に託し、通信宝珠間で文章をやり取りできる。
光の精霊を使役できる通信士が居ないと使えない技術だが、風の精霊に頼むよりもずっと早く、魔術で長距離精神感応会話を行うよりも疲れない。
「クエストの発行はマホテアだけど秘密任務ではないし、ホルスト郷の近くの遺跡調査も毎回やってるんだから話が通じると思ったのに…」
「転送してもらえなかったのか?」
「そうじゃなくて、変なの。最初は、『花が原因なのか?』なんて聞き返してきたの」
「花? 蔦苺のか?」
「じゃない? それは関係ないって返信して……あれ? 変ね。私、蔦苺の事は書かなかったはず…。土蟲が出たって報告しただけで」
困惑した表情でミルテ茶をもう一口。
「それでね。文面をそのままマホテアのギルドに転送してほしいって再度お願いしたわけ。で、マホテアからの返事をこちらに転送してもらったんだけど……、聖域に土蟲が出た事も、それを倒した事も信じてないみたいなの! 夜盗虫の見間違いでは?なんて書いて寄越すのよ!」
ドン!と机を叩くルルーシェ。
「夜盗虫って、動物の糞や虫の死骸を食べるアレ? 畑で見たことあるよ」
「全然大きさが違うじゃん!」
「まあ、夜盗虫は俺の腕は食わねえな。指ぐらいの大きさだし?」
「昼間は土の中にいて、夜になると餌を求めて出てくるんでしたっけ? 死んだ子ネズミ位はペロリと食べると聞きますよ?」
「それでも見間違えたりしないわ。絶対に土蟲だった!と再送信したら、『土蟲が出たら討伐クエストを用意するから残り調査をさっさと終わらせろ』なんて言ってきたのっ」
「ああ、それ、信じられてないですねぇ……」
ルーベンさんが気の毒そうな目で見る。
「報奨金欲しさにウソの報告をしてると疑ってるのかしら。ううん、魔獣が出るくらい危険な任務だから今のクエストの達成報酬を上げろって要求してると思われたのかも。そんな事、した事ないのに!」
ルルーシェさんはくやしそうだ。
デレファンは胸元から冒険者ギルドの認識票を取り出し、指に引っ掛けて揺らした。
「いいじゃん、討伐クエストが出たら2人で受けてから完了報告しようぜ。コレに倒した敵の魔力パターンが記録されてて、しばらくは照合できるんだろ?」
「無石が一ヶ月、水晶なら三ヶ月かな」
冒険者の身分証を兼ねたネームプレートは、ただの金属板ではなく魔道具だ。魔晶石を埋め込んで必要な記録を保持している。
「でも、土蟲ならクエストじゃなくても倒せば報奨金とポイントがもらえるはずよ。被害が出る前に倒しといた方がいい魔獣は事後報告でも報酬が出るの」
「そんなスゴイ魔獣だったんだ、アレ。ホントに怖かったよ!」
「うん、死ぬかと思った」
「ルルーシェさんは命の恩人ね! ありがとう!」
「ありがとうございます!」
「俺は?」
「デレファンも命の恩人! ありがとう!」
「ありがとう、兄さん! あんなに強かったんだな!」
「ふふふ、苦しゅうない。感謝したまえ」
冗談めかしてふんぞり返るデレファンのおかげで笑いが起こり、怖い気持ちがどこかへ消えた。
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